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人材業界・採用サービスの10年間を振り返って【前編】

人事、人材業の複業フリーランスのさつきです。直近1年は採用広報に多く携わってきましたが、この業界で初めて携わった仕事は求人広告営業です。その後、採用管理システムの販売や人材紹介、人材派遣、フリーランス事業などに関わり、気付けば当業界で10年以上の月日が経ちました。

今回は私が経験してきた10年を振り返り、人材業界および採用サービスがどのように変化したかをまとめてみたいと思います。台本なし、走り書きで思い出せる内容を現場目線でお伝えできればと思います。

事業会社の人事、経営者やHRビジネスに関わる方の参考になれば幸いです。


紙媒体の衰退と攻めの採用の時代

2014年、2015年頃はフリーペーパーの求人広告が衰退し、待ちの姿勢から攻めの採用活動へと時代が移り変わった時代でした。
掲載課金形の求人広告に出稿されすれば、とりあえず一定数の応募獲得はできていた企業でさえも母集団形成が難しくなり、年々売り手市場が進行。
大手求人広告は1か月~2か月ほどの掲載期間で1番安くて10万円台、上位枠になると100万円を超える場合がほとんどで、アルバイト求人広告も安くて5万円前後、上位枠は40~50万円かかるプランが主流でした。

この頃の私は、新宿や川崎など都心部で求人広告の営業に従事していました。ターミナル駅周辺の好アクセスで労働条件の優位な企業でも、とにかく競合よりも目立つ広告枠に掲載するために1回あたり50万円、100万円のコストを投下して求人募集を行っていたと記憶しています。
多額の費用をかけたにも関わらず、応募が1桁しか集まらないときは、どんな顔をしてお客様に連絡したら良いか分からずプレッシャーを感じる日々を過ごしました。

ダイレクトリクルーティングの難しさ

せっかく求人広告に掲載しても集まらないなら自分たちから求職者へアプローチすべきだろうと、発想を変えて登場したのがダイレクトリクルーティングサービスです。ダイレクトスカウト市場はビズリーチ社がけん引した印象を持たれる方も多いと思います。次第に各社はダイレクトリクルーティングサービスの開発、販売に注力しはじめましたが、次なる課題は「ダイレクトスカウトを行うマンパワー不足」というものでした。

ダイレクト系のサービス拡販のため、繰り返しお客様に攻めの採用の重要性を伝え、一定の共感は得られました。しかし返ってくる言葉のほとんどか「スカウト文面の作成やターゲット抽出、大量の手作業をこなす余裕がない」「そもそもどんな文章を送ればいいか分からない」というもので、中小企業に至ってはダイレクトリクルーティングサービスの操作方法が分からない、基本設定ができないというケースも多く見られました。
当時はダイレクトリクルーティングサービスを使いこなせる企業は一握りしかおらず、私は中小企業の現場まで足を運んで、担当者に操作方法を説明したり愚痴を聞いたりするのがほとんどでした。

採用サービスの増加と複雑化

私が所属していたパーソルキャリアでは、ダイレクトリクルーティング系のサービスを2016年にリリース。しかし大手各社が本腰を入れ始めたのは意外にも遅かったと感じています。
※参考:2016年のプレスリリース

2020年手前の時代は、ダイレクトリクルーティングサービスに加えてSNS系の採用メディアであるWantedlyや、求職者の年収アップ幅を提示して応募を促すミイダス、手軽に募集活動ができるbosyu、顔見知りの知人紹介で仕事情報を得られるYOUTRUST等など、特徴的な採用サービスが拡販に力を入れました。
どのサービスも痒いところに手が届く優良なツールだと感じる一方で、次から次へと類似サービスが開発されたことにより人事担当者のキャッチアップが困難になったのは明白な課題でした。

そして特徴的な求人募集サービスが増えたことにより、求職者情報や媒体情報を一元管理するATS(採用管理システム)の必要性が増していきます。ATSを使わなければ、複数の求人募集サービスの中で最も母集団形成に寄与したものはどれか判別がつかないためです。多くの企業は複数の採用サービスを併用していたため、効果的なサービスに予算を集中投下させるために、ATSでの分析は欠かせなくなりました。
また、選考プロセスのどこで歩留まりが発生しているのか、どの職種の採用が遅れているのかを分析し、新卒・中途・アルバイトなど異なる雇用形態の人材を管理分析するためにも管理システムが重要になりました。

こうして新たなサービスが増えるほど管理が煩雑になり、システムを操作する基礎的なITリテラシーも求められるようになりました。便利なサービスが増えた一方で、人事担当者の仕事・役割を増やしている印象が強かったと感じています。

SNS時代・採用広報が重要視

さらに技術革新が進み、便利なサービスのリリースが続いていたことで、情報キャッチアップできている企業とそうでない企業の間に大きな溝が生まれました。採用市場の変化にキャッチアップできる“器用な企業”は採用成功をおさめる中、レガシー企業やITリテラシーが不足する企業の母集団は縮小化。
従来の採用市場では大手求人広告の上位枠に掲載するために「より多額な広告費用」をかけた企業に応募が集まる傾向でしたが、金額の大小よりも多様な採用サービスを使いこなすノウハウを持つ企業が生き残る時代へと変化。反対に言えば、認知度が低く資金力がさほど大きくない企業でも、ITリテラシーを保有し新しいサービスを上手いこと活用さえできれば、大逆転で採用成功できる市場になったと言えるでしょう。

多角的に発信し続けることの重要性

2020年前後になると、企業公式アカウントや実名を出した人事アカウントなどが増加。SNSや自社メディアでの発信を強化して、少ないコストで母集団形成をすることが重要視され始めます。この頃に注目されたのが採用広報という言葉です。
大手求人広告に多額なコストをかけて採用するのではなく、SNSや採用オウンドメディア、動画メディア、ダイレクトリクルーティングサービスなどを複数掛け合わせながら、「企業から求職者へ」矢印を向けて情報発信およびコミュニケーションをとることの必要性がぐっと増したと感じています。

SNSで一人一人が発信することが一般化する過程で、口コミサイトの存在感も増しました。すると、企業のちょっとした失言や行動が公に発信されるようになり、「やばい企業はネットで諭す」という文化も形成されていきました。

求職者も一層「企業に選ばれるのではない。自分で人生を選択する」気持ちを強め、それをサポートする形で個人向けのコーチングやキャリアカウンセリング、リスキリングサービスなども増加しました。それと同時に副業やフリーランス支援のサービスも増加し、肌感覚ですが私の知人の多くが副業や転職に積極的になったと感じました。

タイミング的には2018年が副業解禁の年度でしたが、国が副業を推奨し始めてから民間企業の人々にメッセージが届くまでに一定のタイムラグがあります。そのため、「多様な人たちが」「自分自身で考えてキャリアを自主的に選択する」「キャリア選択の過程で副業や転職を当たり前に視野に入れる」という風潮は、2020年代になってようやく顕著に表れ始めたのだと思います。

後編に続く

今回は「待つ採用活動」から「攻めの採用活動」に移り変わった2014年~2018年頃、ダイレクトリクルーティングやキャリアSNS、オウンドメディアなど特徴的な採用サービスが登場し続けた2018年前後~2020年頃、企業が多様なツールを使いこなして採用活動を行い、企業間で力の差が生まれてきた2020年代初頭について振り返りました。

後編では、ここまでの10年の歩みを受けて2024年以降の採用活動に求められることは何か、私なりの見解も踏まえてまとめたいと思います。

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