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全国自然博物館の旅㉔橿原市昆虫館

悠久の歴史を秘める奈良県。東大寺の大仏、春日大社、橿原神宮、興福寺など神社仏閣の見どころがたくさんです。一方で、奈良の自然博物館が一般の人々に向けてピックアップされる機会は少ないと思います。
実は、奈良県には国内屈指のハイクオリティな昆虫博物館があります。悠久の歴史を持つ奈良の都での昆虫学習は、人生において特別な体験となることでしょう。


奈良の都に昆虫たちが舞う!

関西3大昆虫館の1つ、橿原市昆虫館。奈良県唯一の自然科学系博物館であり、多くの昆虫マニアから熱い支持を集める学術施設です。昆虫たちの驚異の生態について、数多くのタイプの展示で多面的に学ぶことができます。
もちろん橿原市と言えば神社仏閣も絶対見逃せないポイントですが、生き物好きの筆者はやはり昆虫館の魅力に強く引き寄せられてしまいます。荒ぶる好奇心に従い、近鉄電車に乗って奈良県へ向かいました。

近鉄の大和八木駅。大阪の難波駅や鶴橋駅から電車1本で来られます。
大和八木駅前のバスロータリー。昆虫館行きのコミュニティバスは奥の乗り場から発車します。
駅前の観光センターにて、せんとくん発見。橿原市は奈良県内で2番目に大きな都市であり、観光面の強化にも力を入れているように見受けられました。

コミュニティバスに乗ること30分、お目当ての昆虫館に到着です。入口の手前には、昆虫に関する大型造形物や、可愛く装飾された自販機があります。
入館前から昆虫への愛を強く感じ取ることができて、ワクワクが高まってきますね。神秘に満ちた昆虫たちの世界へ出発です!

昆虫館に到着。大人も子供も夢中になる、奈良県唯一の自然博物館です。
昆虫館の外壁に設置されたコーカサスオオカブトのオブジェ。シビれるほどのイケメンですね!
入口前の自動販売機。可愛い昆虫たちの装飾に愛を感じます。

昆虫の惑星を冒険する体験型博物館

虫たちの世界へ誘う高度な学術性

入館すると、昆虫たちの世界への導入として、地球と生命の発展についての標本展示が始まります。多様な種類の古生物の化石はどれも美しく、学術性の高さと神秘的な雰囲気を感じます。
筆者が目を奪われたのは、妖しげな魅力を放つ古代の昆虫たちです。これほど多くの昆虫化石と対面できる施設はかなり貴重です。

昆虫たちの世界への導入。地球と生命の成り立ちを知る化石展示ゾーンです。
見事に保存されたヤゴの化石。この区画では、昆虫を含めた様々な生物の化石を見ることができます。
正体不明の昆虫化石クレスモダ。アメンボ説、ナナフシ説などが唱えられていますが、いまだにどんな昆虫なのかわかっていません。
中国で発見された白亜紀のガガンボ類の化石。古代昆虫の進化への関心をそそられます。

さて、満を持して、地球にひしめく昆虫たちの世界へ参りましょう。奥へ進めば、力強い虫たちの模型が出迎えてくれます。

オオスズメバチの拡大模型。恐ろしさと妖しさが人気の秘密。
果実内に口吻を突き刺すゾウムシの模型。口吻は摂食のみならず、産卵のための穴を果実に開けるときにも使用します。

昆虫たちの能力がどれほどすごいのかを知るには、身を持って体験する必要があります。本館にはギミック満載の体験型展示が数多く設けられており、大人も子供も楽しみながら昆虫の超パワーを学べます。

ケラの大型拡大模型展示。地中を掘り進める前脚がどのような形状なのか、じっくり見てみましょう。
カマキリの前脚を動かし、その機構を学ぶ体験型展示。昆虫界屈指の名ハンターの強さが伝わってきます。
水面に顔を出したミズスマシの拡大模型。なお、後ろ側に回ってみると……。
拡大模型に下に入って、ミズスマシの見ている情景を体感できます。水上と水中を同時に目視できる彼らは、まさに超感覚の持ち主と言えます。

マニアの皆さんが(もちろん筆者も)期待するのは昆虫標本! 本館で見ることのできる標本は豪華かつ神秘的であり、世界各地の昆虫たちが生息地ごとに展示されています。

昆虫マニア大観客! 海外の昆虫標本ラッシュの始まりです。
アブダビ産のドルリーオオアゲハ。アフリカ最大級のチョウです!
ザイールに生息するクビワオオツノハナムグリ。かっこよさと可愛さを両立した素晴らしいフォルムですね!
マレーシアにはバイオリンそっくりの昆虫がいます。見た目の通り、名前はバイオリンムシといいます(笑)。
コスタリカの宝石、ルビーオオキンイロコガネ。コガネムシの美しさに魅せられる昆虫マニアはとても多いです。

世界の昆虫たちもとても魅力的ですが、奈良県に来たら、やはり県内の生息昆虫や自然環境について知りたくなります。
ご当地の自然博物館ですので、奈良県内の学術的な展示解説は超ハイクオリティ。研究情報が満載の濃密キャプションに、マニアの皆さんも大満足することでしょう。楽しく勉強できるうえに、地球規模の環境問題についても深く考えさせられる構成となっています。

橿原市の昆虫の生息状況に関するキャプション。地球規模の環境変動に伴い、県内の昆虫相にも変化が生じているようです。
地球温暖化に伴い、南方のチョウが本州にまで分布を広げています。ナガサキアゲハの分布北限も拡大しており、奈良県では1990年代に生息確認されました。
地球温暖化についての解説。温度変化の動態や生き物への影響を学ぶことができます。
奈良県内において、絶滅が危惧されるトンボ類。このままの社会状況では姿を消してしまう可能性があり、我々の環境保全への意識向上が求められます。
同じく、奈良県のレッドデータに登録されている昆虫ヒメタイコウチ。彼らは極めて深刻な状況下に置かれており、県内では絶滅寸前のレベルであると言われています。

昆虫と環境に関する理解を深めたら、続いては虫たちの実像について学んでいきましょう。
彼らの生態や神秘性は我々の予想をはるかに超えており、すさまじいほど多くの特殊能力を秘めています。昆虫の不思議がいっぱいキャプションを読んで、生命の底知れぬパワーを感じてください。

フェロモンを分泌し、匂いで仲間と会話する昆虫たちもいます。チョウのフェロモンの匂いを感じる体験展示もありますので、昆虫になったつもりで嗅いでみましょう!
発光する昆虫の解説。ホタル以外にも光る昆虫は存在しており、その多くは捕食や威嚇のために発光します。
セミやバッタなどの昆虫が「音」を出すメカニズム。独自の器官を使ったり、翅を擦り合わせたり、発音方法は種類によって様々です。
ツバメのように「渡り」行動をする昆虫たち。種類によっては、国をまたぐほどの長距離移動を行います

上記のように、学術性と教育性を極めて高いレベルで実現しています。すさまじい量の知識が得られますので、生き物好きの人はキャプションに釘付けになることでしょう。

生態系ピラミッドを用いた食物連鎖の解説展示。1羽のタカが育つのに必要な森は、藤原京跡4つ分! 地元の京に換算しているところが歴史の街・奈良らしいと思います。

百花繚乱! 至近距離で感じる生体展示

興味深い展示はどんどん続いていきます。高ぶる心の赴くままに、観覧を進めていきましょう。
野外では怖くてなかなか近寄れないハチの巣ですが、本館の展示でじっくり見ることができます。たくさんの立派な巣を眺めていると、社会性昆虫のチームワークの素晴らしさが改めてわかります。

アシナガバチ類とスズメバチ類の巣。ハチたちの芸術とも言うべき、とても複雑で頑丈な構造体です。
ミツバチ類の巣および生産物。ハチミツという甘味料を産み出すミツバチは、古来から人類に恩恵をもたらしてきました。

さらに進むと、里地里山の林をイメージしたジオラマが出現。自然豊かな奈良県には、大和盆地の里山のような人と生き物の織り成す環境があります。身近な自然環境と人間の関わりについてのメカニズムを、各種展示で詳細に学ぶことができます。本館の学術性の高さには改めて感動します!

奈良県の身近な自然、大和盆地についてのキャプション。里山の環境維持には人間の手入れが不可欠であり、人の活動によって生物多様性が保たれていると言えるのです。
奈良県の里山を表現したジオラマ。哺乳類の剥製が目立ちますが、木の幹を見ると昆虫たちの模型も確認できます。
ジオラマの側には、冊子型の図鑑があります。昆虫たちの特徴がわかりやすくまとめられています。
ヒメタイコウチの生体展示。奈良県内において絶滅寸前まで個体数が減っていると言われており、橿原市昆虫館では保全活動が行われています。

続いては、昆虫マニアと子供たちが大喜びの生体展示ラッシュ!
ヘラクレスオオカブトをはじめ、かっこよくて個性的なスターたちが大集合です。あまりに美しすぎて、昆虫を飼いたい気持ちがどんどん強くなりますね。

最強の呼び声高いヘラクレスオオカブト。強い虫が大好きな子供たちは大喜びですね。一緒に餌を食べているキンイロヒラズカナブンの貫禄もすごい(笑)。
ギラファノコギリクワガタ。ヘラクレス同様、子供たちから大人気の甲虫です。
ランの花に擬態するハナカマキリ。美しさとかっこよさを併せ持ち、人気と知名度の高い昆虫です。
水生昆虫の王者タガメ。他の昆虫だけでなく、小型のヘビさえ捕食してしまいます。
キャプションにも工夫満載。各種の水生昆虫の泳ぎ方や呼吸法、餌の食べ方を明瞭に解説してくれています。ちなみに、こちらはゲンゴロウ類についての説明です。

ここからは大スケールの生体展示。観覧順路は、幾百ものチョウが飛び交う放蝶温室へとつながります。温室は南西諸島の気候に調整されており、色鮮やかなチョウたちが至るところに舞っています。
小さな亜熱帯の森での、妖精のごとく可愛らしいチョウとの出会い。暖かい空間で癒しの一時を過ごしましょう。

放蝶温室。約500 ㎡のエリアの中で、チョウたちが放し飼いにされています。
花の蜜を吸うリュウキュウアサギマダラたち。至近距離まで近づいて激写!
温室の中に飛んでいるチョウはとても多いです。天井高くへ飛翔している個体もいます。
温室の奥には新館への通路があります。さらなる驚異の展示を楽しみましょう。

放蝶温室の奥には、昆虫館新館への扉があります。まだまだ楽しみが続くと思うと、ワクワクが止まりません。テンションMAXで突撃します(笑)。

新館の内装には職員さんの愛があふれています。こういったハンドメイドの装飾は、子供たちも大好きなのではないでしょうか。
新館の通路では、大型写真で飛鳥地域(奈良県北部)の昆虫たちが紹介されています。こちらのホソミキイロアシナガバエは肉食性で、とてもかっこいいです。
飛鳥地域に棲む昆虫、セミヤドリガ。珍しい寄生性のガです。幼虫はセミの腹部に取りついて成長します。

新館の生体展示は、個性的で可愛い子ばかり。国内の亜熱帯地方の昆虫たちも飼育されており、固有種目当てに沖縄や鹿児島に行く昆虫マニアの方々にはたまらないと思います。クモや爬虫類の生体とも会えますので、とても見ごたえがあります。

脚の模様がかっこいいクニガフキバッタ。石垣島と小浜島、2つの島の個体が展示されていますので、特徴を見比べてみましょう。
八重山諸島や台湾に生息するヤエヤマトガリナナフシ。見事に木の枝に擬態しています。
ゴキブリの魅力を説いたキャプション。なお、苦手な方もいらっしゃると思いますので、本記事にはゴキブリの生体写真は載せません。ぜひ本館を訪れて、美しいゴキブリたちを直に見てください。
爬虫類の生体展示もあります。こちらのセマルハコガメは迷子の個体であり、橿原市の香久山にて保護されました。本来は亜熱帯地方に棲むカメですので、無責任な飼い主に捨てられた個体なのかもしれません。

徹頭徹尾、最高のクオリティを味わえる橿原市昆虫館。昆虫マニアのみならず、全ての生き物好きの方々にオススメしたいです。
昆虫学の真髄に触れられる究極的な学術性、本当にたまりません。筆者も夢のような時間を過ごすことができましたので、橿原市昆虫館には誠に感謝しております。この素敵な体験を、たくさんの人々に味わっていただきたいと思います!

橿原市昆虫館は昨年に入館者数300万人を突破しています。展示内容の素晴らしさが、結果にも見事に反映されていますね。

橿原市昆虫館 総合レビュー

所在地:奈良県橿原市南山町624

強み:昆虫の生態や環境科学について深くわかりやすく学べる教育性・学術性の高さ、放蝶温室をはじめとする魅力的な昆虫たちの生体展示、体験型展示や工夫満載のキャプションなど来館者の理解度を高める豊富なアイディア性

アクセス面:近畿日本鉄道の大和八木駅から橿原市コミュニティバスに乗れば、30分ほどで昆虫館に到着します。ただ、昆虫館と橿原神宮をつなぐ路線バスの数は少ないため、橿原神宮も合わせて観光するならレンタカーを借りましょう。関西にお住まいの人は、車で来館するのがベストです。昆虫マニアの方でしたら、観覧後すぐに昆虫採集に行きたい気分になると思いますので、虫採りセットを搭載した自家用車で向かうのも大いにありです(笑)。

学術性が極めて高く、生体展示が超充実、楽しい体験型展示も盛りだくさん、さらにはチョウの舞う温室を備えているという、完璧以上の超クオリティを有するスーパー昆虫館です。虫採り好きな子供たちからガチの昆虫マニアの方々まで、誰もが大満足できます。
昆虫の驚異的な生態を学びながら環境学習ができる展示構成となっており、教育面においてもとても素晴らしい内容を見せてくれます。自然環境の尊さにも触れられるので、老若男女問わず多くの人々に訪れていただきたい施設です。
改めて述べますが、本館は全てが超充実した昆虫博物館です。すさまじい質と量の知識が得られ、なおかつ数多くの昆虫たちを間近で観察できます。筆者にとっては、橿原市昆虫館は神社仏閣と並ぶ奈良県の魅力的な重要スポットです。

館内にも大型昆虫オブジェがあります。かっこよさ満点で大人も大興奮します。

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