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全国自然博物館の旅【45】新潟県立自然科学館

日本海側の気候によって生み出される特殊な環境・生態系は、自然科学マニアにとって極めて興味深い世界です。ご当地の自然環境を学ぶには、やはり県立の自然博物館に行ってみるのが一番!
美しく力強い海と山々が織り成す新潟の大自然。厳しい世界を息づく生命の秘密を知るために、県のサイエンスの一大拠点を訪れました。


新潟県民に科学教育を提供する知の一大拠点

自然科学館は新潟市内にあり、自家用車でも路線バスでもアクセスしやすい立地となっています。博物館は緑豊かな鳥屋野潟公園の近くにあり、穏やかな雰囲気にあふれています。ぜひ、観覧の前後で園内をゆっくり歩いてみましょう。もしかすると、生き物たちとの素敵な出会いがあるかもしれません。

博物館の近くには、鳥屋野潟公園があります。身近な鳥や昆虫などを観察できるスポットですので、博物館の観覧前後で散策してみてはいかがでしょうか。
鳥屋野潟に面する緑の公園。よく目を凝らしてみると、生き物たちの姿を見ることができます。
公園の女池エリア展望台には休憩所があります。散歩の小休止を入れつつ、緑の雰囲気に癒されましょう。
休憩所の壁面。鳥屋野潟公園で見られる生き物たちのインスタグラム画像が並べられています。

公園の緑と生命に癒されたら、自然科学館へと向かいましょう。本館は「まなびのゾーン」という敷地範囲の中に入っており、すぐ側には図書館や生涯学習センターがあります。
まさに新潟県民の学びの拠点。県内にはどのような自然環境が広がっているのか、考えるだけでワクワクしてきますね。

図書館や生涯学習センターと同じ「まなびのゾーン」に新潟県立博物館が立っています。広大な駐車場が設けられており、車での来館にぴったりです。
新潟県立自然科学館。あらゆるサイエンスに触れることのできる知の拠点であり、施設内にはプラネタリウムもあります。

自然科学の魅力を伝える新潟県の叡知の宝庫

壮大な地球史と新潟の古環境を濃密学習

本館は科学全般を人々に教示する素晴らしきサイエンス・ワールド。その中には、もちろん生態学や古生物学も含まれています。
生物マニアである筆者が真っ先に向かったのは、地球と生命について深く学べる「自然の科学」エリア。壮大な地球史に触れられるうえに、新潟県の自然環境についても学習できます。新潟市のど真ん中にて、自然界の神秘の探究が始まります。

本館はサイエンス全般に教示してくれる科学の総合博物館。物理学やエネルギー科学の秘密にも触れることができ、展示からものすごい量の知識が得られます。
生態学や古生物学を学べるのは「自然の科学」エリア。アースくんという地球をモチーフにしたマスコットキャラクターがいます。

「自然の科学」エリアで老若男女問わず注目を集めるのは、白亜紀をイメージした恐竜たちのジオラマ。我が子と睦まじく過ごすマイアサウラ、睨み合うティラノサウルスとトリケラトプスの姿が、自然界の優しさと厳しさを表しています(厳密に言えば、マイアサウラだけ生息時期が少しズレていますが)。
マイアサウラの模型が見られるのは本当に貴重です。かっこいいティラノやトリケラの勇姿と一緒に、じっくりと堪能しましょう。

白亜紀の恐竜たちのジオラマ。なお、ある時間になると模型に隠されたギミックが発動します。その秘密は、ぜひ現地にてご覧ください。
植物食恐竜たちを虎視眈々と狙うティラノサウルス。力強い顎は、大型動物の骨さえ簡単に砕いてしまいます。
身構えるトリケラトプス。成体の体重は約10 tあったと言われているので、さすがのティラノサウルスも健康なトリケラトプスとの一騎討ちは避けたことでしょう。
卵や幼体の世話をするマイアサウラ。ちなみに、マイアサウラはティラノサウルスやトリケラトプスとは生息時期が異なっています
マイアサウラの子供たち。本種は幼体や卵の化石が見つかっていて、恐竜の子育てに関する研究に躍進をもたらしました。

大型ジオラマ区画の隣の通路には、たくさんの化石や古生物模型がズラリと並んでいて、地球史全般を学ぶことができます。壁面にはキャプションやイラスト満載で、見ごたえは抜群! ゆったりと路を歩きながら、壮大な地球史の流れを感じてください。

模型や化石が豪華に並べられた通路。ややレトロさを感じさせる雰囲気は、昭和生まれの古生物ファンにとっては嬉しいところではないでしょうか。
壁面には古生物に関するキャプションやイラストがいっぱい。地球史の歩みに合わせて、通路の左から右へと時系列的に配されています。
古生代の海のジオラマの一部。三葉虫(写真上)の形態が見事に再現されています。なお、写真下部のアーモンドのような生き物はフズリナ類という、古生代の代表的な原生生物です。

本館には世界中の多様な生物化石が集結しており、果てしない生命史の中で、驚くほど多種多様な生き物たちが栄えていたことを教えてくれます。加えて、触って学べる体験型の化石が展示がたくさんあります

石炭紀のオウムガイの化石。アンモナイトとは殻の構造が違います。
化石に触れる体感型展示。美しくクリーニングされた石炭紀産のウミユリにタッチできます。
ジュラ紀の植物食恐竜カマラサウルスの足。骨の各部位ごとに名称が表示されていて、解剖学的な知識も身につきます。なお、この標本も実物化石であり、タッチ可能です。
白亜紀の肉食恐竜タルボサウルスの下顎化石。こちらも実物の化石に触れる展示であり、ケース上部の穴から手を入れて、恐ろしい肉食恐竜の歯や顎にタッチできます。

ここまで太古の地球を学んできて脳裏に浮かぶのは、「大昔の新潟はどんな世界だったんだろう?」という疑問です。
新潟県内では主に新生代の生物化石が多数発見されており、実に様々な生命が繁栄していたとわかっています。本館の展示では、数々の化石標本やジオラマを通じて、古代の新潟がどのような環境だったのかをイメージできるようになっています。新潟県の古世界へタイムスリップ開始です!

新潟県産の鰭脚類・オジヤトドの化石。新生代の新潟には、大型の海洋哺乳類が多数生息していたのです。
佐渡市にて出土したトウキョウホタテ。新生代の日本には、大きな二枚貝類が棲んでいたのです。
中新世の新潟の海を表したジオラマ。オジヤトドやクジラ類が栄え、彼らを狙う最強の巨大サメ・メガロドンも棲んでいました。
新生代の後半をイメージしたジオラマ。他の多くの地域と同じように、新潟の大地にもゾウ類が生息していました。

日本の新生代を代表する大型動物と言えばナウマンゾウ。彼らの繁栄は国内の広範囲に及んでいて、新潟県でもナウマンゾウの化石が発見されています。
ナウマンゾウの展示コーナーでは、古代のゾウ類に関する標本や資料が超充実。日本のみならず、世界のゾウたちがどのような進化を歩んできたのか、詳細に学べます。

ナウマンゾウの全身骨格。新潟県では、柏崎市や糸魚川市にて化石が発見されています。
ゾウ類の進化や形態に関する解説資料も充実。永い進化史の中で、様々なゾウたちが生まれてきたのです。
ナウマンゾウの臼歯のレプリカ。ゾウ類の歯は独特なので、他の動物と容易に区別できます。
アケボノゾウをはじめ、多種のゾウ類の臼歯を展示。ナウマンゾウの歯と比較してみましょう。

新潟県の古生物展示は、まだまだ奥が深いです。県産の生物化石を専門的に学べる展示コーナーでは、現代に至るまでの新潟の生命史を深く知ることができます。
本当に新潟の古生物学は素晴らしい。化石マニアたちよ、太古の記憶を宿す佐渡へと繰り出しましょう!

新潟県の生命史を学べる展示コーナー。地域の化石の産出状況を学習できるので、マニアはすごく大喜びです!
新潟県では、古生代の生物化石も見つかっています。多数の白い紡錘形はフズリナという原生生物であり、時代を特定する示準化石として重宝されています。
多数の有孔虫ミオギプシナが集まった化石。現在は絶滅している生き物なので、フズリナと同じく、時代を特定するための指標として活用されます。
新生代中新世のアカボウクジラの実物化石。本個体をはじめ、佐渡市では他にも海洋哺乳類の化石が出土しています。
佐渡市で見つかった鰭脚類アロデスムスの頭骨。アシカやアザラシのような生態をしていましたが、分類学的にはデスマトフォカ類という独自のグループに属しています。

五感を研ぎ澄ませて学ぶ驚異の自然科学展示

新潟の大自然の魅力は、環境の豊かさと幅広さだと思います。力強く神秘的な日本海、峻厳なる山々、固有生命が棲む佐渡島など、生物マニアにとって探究したいスポットがたくさんあります。
多くの人が新潟県の特別な生き物として連想するのは、県の鳥にもなっている天然記念物トキです。絶滅の淵からトキを復活させようとする保護スタッフの努力は日々続けられており、徐々に再繁栄の希望が見えてきました。本館で学習したら、トキたちに会いに佐渡島へ渡ってみてはいかがでしょうか。

新潟県の佐渡島で保護繁殖が進められているトキ。再び、大群で日本の空を舞う姿が見たいですね。
新潟県の鳥であり、ニッポニア・ニッポンの学名を有するトキ。展示を見たら、佐渡島に行きたい気持ちになります。
たくさんの鳥の剥製。展示ケースは両側から見ることができ、左右それぞれに解説キャプションがあります。

佐渡島は本土から離れた離島。面積は約859 k㎡あり、国内でも屈指の大きな島です。神秘的な佐渡島では、本土とは違った生き物たちが棲んでいます。展示標本を観察しつつ、佐渡と本土の近縁種の差異を見比べてください。

本土のカケスと佐渡島のサドカケスの剥製標本。地理的隔離が起こっているので、遺伝的には異なる系統であると言えます。
本土産ハタネズミと佐渡島産サドハタネズミを比較展示。長距離移動の頻度が低い小動物は島の中で独自に進化するため、離島の生態学は極めて興味深いのです。
本土のクロサンショウウオと佐渡島のサドサンショウウオ。近くに対馬海流が流れる佐渡島は比較的暖かい気候であり、島内では極めて興味深い生態系が構築されています。
サドマイマイカブリの標本。昆虫に関しても、佐渡島では独自性が認められます。

続いて、壮大な日本海に棲む海洋生物たちを見ていきましょう。日本海は大平洋と比べて、プランクトンの発生がやや少ない傾向にあります。生物相の幅は太平洋側より劣るものの、日本海では北方系や南方系の生物に加えて、本海洋独自の魚類を見ることができます。
遠く広がる不思議な日本海。新潟のおきにはどのような海洋生態系が広がっているのか、多種の生物標本とたくさんのキャプションで学んでいきたいと思います。

見事な魚たちの剥製標本。新潟県の近海では、約560種の魚類が確認されています。
アオウミガメとアカウミガメの剥製。暖流に乗って、海洋爬虫類が新潟の海にもやって来るのです。
新潟県産の甲殻類の標本。深海性のカニやエビは、ほぼ1年中捕獲されます。
磯の環境をイメージしたジオラマ。日本海の幸はきっとおいしいんだろうなぁと期待してしまいますね(笑)。

海ときたら、淡水の生態系です。有名な信濃川をはじめ、新潟県は魅力的な河川を擁しており、そこにはもちろん美しい生態系が存在しています。
本館の河川生態系の展示は流域ごとに分けて解説されていて、上流域から下流域まで生命のつながりを体系的に学べます。多様な淡水魚や水生昆虫などの美麗な生物標本にも注目です!

新潟の淡水魚の剥製。流域ごとに、生息魚種を分けて展示されています。
各流域にて、それぞれ水生昆虫の標本を展示。流れの速い上流と、緩やかな流れ下流では生物相が異なっています。
信濃川水系のアブ類の標本。コアな昆虫マニアにオススメの展示です。
アブの生活環のイラスト解説。一般にピックアップされる機会の少ない昆虫ですので、こういった資料で勉強できるのは本当に嬉しいです。

そして、いよいよ本館が誇る屈指の大型展示の登場! 広大なブナ林をイメージした体感型の巨大ジオラマです。ブナ林が生物多様性の維持に果たす役割は大きく、日本各地でブナ林が減少している今だからこそ、深く学ぶ必要があります。

新潟のブナ林は驚くほど数多くの生命を支えています。数々の動物たちに食糧や寝床を提供するだけでなく、他の生態系にも計り知れない恵みをもたらしているのです。「森と川と海は1つ」という言葉があるように、ブナ林から流れ出る水と栄養は、川や海を豊かにしてくれています。
母なる環境・ブナ林。生態系の循環の中でどのような奇跡が起こっているのかを学んでいきます。

本館屈指の体感大型展示・ブナ林の巨大ジオラマです。この空間には、ギミック満載の展示があふれています。
ミズナラの側に立つニホンカモシカの剥製。乱獲により激減していましたが、近年の保護活動が実を結び、新潟県内でも数が増えています。
キツツキ類のアカゲラ。ジオラマ内を注意深く見ていくと、意外なところに生物の剥製があったりします。
樹幹の隙間から顔を覗かせるツキノワグマ。自然界で鉢合わせしたらかなり恐ろしいので、山に入る際は現地ガイドさんにアドバイスをもらうのが賢明です。

ブナ林のジオラマ内の特殊展示はとっても多く、この記事だけでは紹介しきれません。1つ1つの標本やキャプションに重要なメッセージが込められていて、自然環境保全に必要なことを教えてくれます。ぜひ、現地にてジオラマの隅々まで目を凝らして学んでください。

ブナ林に棲む鳥類の剥製と、関連性の高い植物を同時展示。鳥と植物の密接な関係は、森の複雑な生態系を表していると言えます。
ブナ林に生息するチョウ類の標本。多種多様な昆虫が棲むからこそ、彼らを捕食する小動物が集まり、ブナ林は豊かになっていくのです。
キノコ類の模型展示。彼らは倒木や枯木を分解し、森の栄養分を循環させてくれています。キノコたちは、ブナ林の重要な掃除屋さんなのです
ブナ林に関する解説キャプションは多数あります。クマタカはブナなどの巨木に巣を作りますので、彼らを保全するためにも、我々は美しいブナ林を守らなくてはならないのです。

「自然の科学」エリアは3階にも続いています。これまでは壮大な生態系のマクロな自然科学に触れてきましたが、ここからはミクロな視点で生命の不思議について学んでいきます。
この世の全ての生命を創っているのは、体に宿る無数の細胞。さらに言えば、その中に秘められたDNAです。微小なプランクトンも、強大な恐竜たちも、体の構成単位は等しく同じ。精緻で神秘的な生命のミクロ世界へ出発です。

3階の展示観覧開始。分子生物学の世界へと来館者を誘ってくれます。
全ての生物の設計図・DNAの構造の拡大模型。塩基が並んで二重螺旋構造をとっています。
ウィルスの増殖についての解説資料。彼らもDNAを有していますが、他の生物の細胞内でしか増殖できません。

水域生態系には、プランクトンをはじめ多数のミクロ生命があふれています。体感型展示の1つとして、本館では光学顕微鏡を通して、ミクロの水棲生物を観察することができます。
不思議な姿をした小さな生命。彼らが放つミステリアスな雰囲気を、視覚的に感じ取ってみましょう。

たくさんの光学顕微鏡。それぞれで観察できるサンプルが異なっていて、たくさんのミクロの生命と出会えます。
こちらの顕微鏡では、プランクトンのクンショウモが観察できます。独特な形態をじっくりと眺めてみてください。
対象生物は、モニター上でも見ることができます。クンショウモをはじめ、プランクトンの独特な形態には驚かされます。
こちらは扁形動物のプラナリア。極めて高い再生能力を有する生物です。

本館での学びは、大人にとっても子供にとっても貴重な財産になると思います。サイエンスの奥深さ、生態系の緻密な仕組み、自然環境の尊さを肌で学ぶーーその経験が、未来の素晴らしい環境活動人材を育むのだと思います。
自然科学に身も心もどっぷりと浸りたい方に、新潟県立自然科学館を強くオススメします。来館すれば、きっと新潟の大自然と地球が大好きになります。

3階からでも、ブナ林の巨大ジオラマを眺めることができます。本当にスケールの大きな博物館ですね。

新潟県立自然科学館 総合レビュー

所在地:新潟県新潟市中央区女池南3-1-1

強み:大型ジオラマを活かした臨場感と視覚的インパクトの強い体感型学習、新潟の生命史を多角的に学べる詳細な古生物展示、豊富な展示標本を様々な角度で楽しめる見せ方とギミックの創意工夫

アクセス面:博物館には大型の駐車場がありますので、自家用車やレンタカーでの来館が一般的だと思います。新潟駅前から公共交通機関でアクセスする場合、新潟交通の路線バスかタクシーの2択になります。新潟駅前のバスロータリーでは、デジタル表示で各路線の乗場を案内してくれているので、旅行者にとっては嬉しいところですね!

一言で表すとすれば、「全身でサイエンスを学べる究極の博物館」。あらゆる科学に触れられる県の一大施設ということで、来館者の五感を刺激するエキサイティングな展示にあふれています。タッチ可能な実物化石標本、ギミック満載の体感型の巨大ジオラマ、光学顕微鏡を用いたミクロの生命の観察など、身も心も没入して学べる素敵な創意工夫がいっぱいです。
古代から現代までの新潟の多種多様な生命・生態系について詳細に学習することができ、当地ならではの専門的な情報に筋金入りのマニアも感動するはずです。ブナ林を織り成す無数の動植物の関係性、佐渡島に生息する固有の生き物たちの解説といった濃密な展示のラッシュ、生き物好きには本当にたまりません。
これほどすさまじく超ハイレベルな自然科学展示に加えて、物理学やエネルギー科学に関する体感型展示も盛りだくさんで、さらにはプラネタリウムも備えているという最高の充実度。自然博物館として極めて高い総合力を誇る新潟県立自然科学館を、筆者は心から強く推します!

館内にはカフェがあり、ゆったりランチタイムを楽しみながら観覧できます。特別展開催時には、期間限定メニューが出ることもあります。

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