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全国自然博物館の旅㉓おがの化石館

今回は化石スポット巡りの旅となります。地質学的な資料に恵まれたジオパークに指定地域は、化石マニアにとって絶好の宝探しポイントです。筋金入りの化石発掘者ともなれば、トレジャーハンター並みの装備で現地へ赴きます。
私たちが博物館で見ている古生物の姿は、全て化石の研究から判明したことなのです。ぜひ各地のジオスポットで、太古の遺産を探す旅に出かけましょう。


化石を探しに秩父へ行こう!

日本地質学の聖地・ジオパーク秩父。大迫力の自然景観が見られ、地形を活かしたアウトドアツアーも開催されています。一方で、筆者のように化石を探しにやってくる者は少数派だと思います。秩父のメジャーな観光地を巡るのも素晴らしい旅になると思いますが、たまには脇道に逸れて、普通の人がなかなか行かない場所を目指してみるのもいいのではないでしょうか(笑)。

スタートは西武鉄道の秩父駅前。ここからレンタカーに乗って、秩父の古生物スポットを巡りまくります!

まず筆者は、西武鉄道の秩父駅前にてレンタカーに乗って、秩父のアイドル古生物に会いに行くことにしました。秩父地域では古代哺乳類パレオパラドキシアの化石が発見されており、骨格が国の天然記念物に指定されています。その詳細につきましては過去の記事で解説しておりますので、ぜひご覧ください(下記リンク参照)。

パレオパラドキシアに会うために、般若の丘公園へと車を走らせます。小鹿野町の般若地域では、パレオパラドキシアの化石産地の1つでもあります。西武鉄道の駅からは少々離れており、ルートによっては狭い道を通る可能性もあるので、車の運転には気を使いました。

レンタカーに乗って、般若の丘公園に到着。国の天然記念物パレオパラドキシアの産地ということもあり、強くPRされています。

辿り着いた先に待つのはパレオパラドキシアの拡大模型。そして、古代魚類チチブサワラの実物大模型です。約1500万年前の秩父地域には海が広がっていて、沿岸部ではパレオパラドキシアが暮らし、沖合ではチチブサワラが泳ぎ回っていました。

公園内にはパレオパラドキシアの拡大模型があります。現代の哺乳類には見られない歯の構造に注目してください。
パレオパラドキシアの親子。他の哺乳類とは違って、爬虫類や両生類のような腹這いに近い姿勢をしていました。
秩父産の古代魚チチブサワラの実物大模型。全長2 mにも及ぶ大型海水魚でした。

古生物ファンなら「パレオパラドキシアだ。すげー!」と感動しますが、よく知らない人なら「何これ、カバの模型?」と思うかもしれません。そういった場合、化石にお詳しい方は、優しくパレオパラドキシアの魅力を伝えて、カバとは違う動物であることを説明してあげてくださいね。

再びレンタカーに乗り込み、今度は秩父最強の化石発掘スポット「ようばけ」へと向かいます。ようばけは赤平川の浸食によって形成された崖であり、約1500万年前の地層が剥き出しになっています。秩父のジオサイトでもある化石探しの名所ですが、対岸に渡ることは禁止されていますので注意しましょう

太古の海の記憶を宿す「ようばけ」。地元の小学生たちが課外授業で化石発掘に来ることもあります。
ようばけの地層構造は特殊です。砂岩や泥岩が交互に堆積しているので、地層の境界がはっきりしています。
筆者も化石を探して岸を練り歩きました。課外授業の小学生たちは、何か良いものを発見したご様子!

ようばけの手前の岸辺は化石の発見率が高く、運が良ければパレオパラドキシア級の大物が見つかるかもしれません。なお、本格的な化石探しをするなら、ヘルメットや手袋などの防具が必要です。また、初心者の方はプロの同行のもとで発掘を楽しみましょう
化石の捜索を終えたら、いよいよ博物館へGO。ようばけと化石館は、互いに目と鼻の先にあります。今日はジオパーク秩父の秘密をとことん学びます!

おがの化石館、ついに来ました! 化石マニア節全開で楽しみます(笑)。

化石マニアよ、地球の遺産に震えろ!

ジオパークから目覚める太古の野生

入館と同時に、ジオパーク秩父の看板古生物の登場。古代哺乳類のパレオパラドキシアです。化石王国としての秩父を象徴する奇獣、しっかりと目に焼きつけたいですね。

パレオパラドキシアの全身骨格。秩父を代表する古生物であり、国の天然記念物に指定された標本もあります(天然記念物標本は埼玉県立自然の博物館が収蔵)。
パレオパラドキシアの復元模型。束柱類というユニークな哺乳類であり、カバのような半水棲動物でした。ただ、遊泳能力はカバよりも優れていたようです。
小鹿野町般若で発見されたパレオパラドキシアの産状の復元模型。この個体は、削岩機による土木作業時に発見されました。

1階フロアの展示標本は、パレオパラドキシアを筆頭に、秩父にて発見された古生物たち。ご当地の貴重なお宝を拝めるのは、地域化石館ならでは! マニアの方は、ケース内に並べられた化石を見るだけでテンションが爆上がりですね。

展示ケースの中には、秩父に由来する貴重な化石が並べられています。この雰囲気、たまりません!
小鹿野町にて出土した立派なオウムガイの化石。発見者は、地域振興会の会長さんです。
芸術品のごとく見事なチチブホタテ。化石のクリーニング作業の精密さが伺えます。
フナクイムシの巣穴の生痕化石。キャプションと同じ位置に展示することにより、来館者の理解を助けています。

秩父地域の目玉となる古生物は、パレオパラドキシアだけではありません。巨大魚チチブサワラ、古代ヒゲクジラ類のチチブクジラも、ジオパーク秩父の重要なスターです。
彼らの存在が古生物ファンの目に留まり、より多くの人々の関心を惹きつけます。まさにジオパーク秩父の大使です。

約1500万年前の秩父に生きていた硬骨魚チチブサワラの復元模型。1983年、小鹿野町にて化石が発見されました。
チチブサワラの背骨。大昔の秩父には温暖な海があり、全長2 mのチチブサワラが大群で泳いでいたことでしょう。
秩父産の古代ヒゲクジラ類チチブクジラの複製頭骨。パレオパラドキシアと同様、本物の化石標本は埼玉県立自然の博物館に保管されています。
チチブクジラの展示キャプション。産出した化石は、国の天然記念物に指定されています。

ジオパーク秩父は化石の名産地。よって、当地を発掘フィールドとする化石ハンターがいらっしゃいます。一般の愛好家の方々が集めた生物化石は、かけがえのない学術標本です。
これから先、皆様の採集した化石を博物館に寄贈することもあるかもしれませんので、見つけた化石については採集地・採集者・採集日時の記録を残しておきましょう。それがないと正式な学術標本とは見なされません。

寄贈標本であるムカシマンジュウガニ。これほど美しい化石、いつか自分の手で見つけたいですね!
こちらも寄贈標本。ハヤシホタテの仲間の化石。形も大きさも、クリーニングの精度もお見事すぎます。
中学校の先生・北薫きたかおる氏の秩父産化石コレクション。北先生の寄贈標本は、ジオパーク秩父のかけがえのない遺産です。
偉大な化石ハンター・北先生の寄贈標本は、まだまだたくさんあります。北先生は秩父で生まれ育ち、幼い頃から化石に親しんできたプロ中のプロです。

名産地の化石標本が大集結! 大地から得られし宝の山

ジオパーク秩父の学びで化石への理解を深めたら、さらに広い地域の古生物に会いに行きましょう。2階フロアに上がると、広々とした展示空間に出ます。
ここからは、秩父を飛び出して、よりグローバルな世界の標本との対面となります。地球規模での化石学習の始まりです。

2階エリア。木製の展示ケースからは、とても暖かい印象を受けますね。
一番手前のケースには、様々な種類のサメの歯が並べられています。同じ大型動物を捕食するサメであっても、種類に歯の用途や形状が異なっています。
サメのフィギュアと歯を同時に展示。歯の主の姿とセットで覚えられますね。

ケースに展示されている標本は、世界各国の名産地にて発掘された貴重な化石たち。地球史の幅広い時代の生命たちが集結しており、見ごたえ抜群です。化石という地球遺産の価値を改めて強く感じます。

ボリビア産の古代ゾウ類クビエロニウスの下顎。ゾウとは言っても、本種の顔つきは現生のアフリカゾウやアジアゾウとはかなり異なっていました。
きれいに保存された硬骨魚類の化石。本種は白亜紀のブラジルに生息しており、水辺の恐竜たちの食糧になっていたと思われます。
小さなカの化石。本館では、ブラジルのサンタナ累層で発見された白亜紀の昆虫化石が多数展示されています。
バルト海の沿岸で産出した昆虫入りの琥珀。琥珀とは「樹液の化石」であり、小動物が閉じ込められたまま鉱物化することもあります。
国内の化石標本も充実しております。こちらは、千葉県の印旛郡にて採集された貝類化石です。

どの化石も、1点1点が貴重で学術的価値はとても高いです。これほどたくさんの標本に囲まれて、マニアの方はすごく幸せな心地になると思います。
そして、2階フロアの奥には、さらにテンションを上げさせてくれる大物が待っています。全長4 mの海洋肉食爬虫類プラテカルプスです。白亜紀の浅い海で暮らしていた捕食者であり、ドラゴンのごとき洗練されたフォルムは必見!
子供たちからすれば、看板古生物のパレオパラドキシアよりもかっこよく見えるかもしれません(笑)。

小型のモササウルス類プラテカルプス。アメリカで発見された白亜紀の海洋肉食爬虫類です。なお、小型とは言っても全長4 mに達します。
プラテカルプスの頭部。彼らは白亜紀の海で栄え、様々な動物を食べていました。もし現代に生きていれば、間違いなく生態系の上位捕食者になっていたでしょう。
プラテカルプスのようなモササウルス類に噛まれたアンモナイトの化石。頑丈な殻にくっきりと噛み跡をつけるモササウルス類の顎の力、本当にすさまじいですね!

学術的な財宝でいっぱいの化石館。悠久の地球の歴史を、この施設の展示から感じ取ることができます。おそらく、来館者の大半は化石マニアであると思われますが、一般の方にもこれほど素晴らしい宝の数々を見ていただきたいと願っております。
当地のジオパークの本質を知れば、もっと秩父が好きになると思います。

シンプルかつ、わかりやすいキャプション。いろいろな化石の種類について解説してくれています。
学術的な指標となる化石の解説。地質年代の指標となる化石を「示準化石」、環境の指標となる化石を「示相化石」といいます。
古生代の「示準化石」として知られるウミサソリ類。発見された生物の化石は、地層の年代を特定する手がかりとなります。
「示相化石」であるオオグソクムシ。彼らは深海の生き物であり、発見地がかつて深い海の底だったという事実を教えてくれます。

おがの化石館 総合レビュー

所在地:埼玉県秩父郡小鹿野町下小鹿野453

強み:秩父地域産の豊富な生物化石標本と充実したキャプション、幅広い地域と時代を取り扱った資料の高い化石展示、芸術品のごとく処理が施された生物体の明瞭な化石標本

アクセス面:車で行くのがベストです。関東在住の方なら自家用車で来られるでしょうし、西武鉄道の秩父駅前にはレンタカー屋さんがあります。アクセスのアドバイスですが、行きも帰りも広い道を選びましょう。299号線や283号線の道路を少し逸れれば狭い道が多くなり、車種によっては通行しづらいところもあります。秩父駅から化石館まで普通にカーナビの通りに向かう場合、狭い道に入るリスクはそれほど高くないですが、万が一ということもありますのでご注意願います。

地球科学に関心のある方々にオススメの化石博物館です。どちらかと言えば、古生物に詳しい化石マニア向けの展示施設だと思います。ものすごく標本資料が充実しており、数多くの生物種の化石を拝むことができます。秩父の大地の成り立ちや、大昔の秩父地域の生態系を織り成す動植物についての展示がとても濃密であり、ジオパークならではの本格的学習ができます。
マニアの人々は、化石館ならではの雰囲気にたまらなく癒されると思います。地球科学に関心のある方々に強く薦められる博物館です。ただし、ティラノサウルスやトリケラトプスといったスーパースター的な恐竜の巨大骨格展示はありませんので、エンターテインメントの欲求よりも、純粋な学術的好奇心をもって楽しむべき施設だと思います。

化石館の前には、デフォルメされた可愛いパレオパラドキシアがいます。出っ歯がすごいですね(笑)。

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