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【恋愛ショートショート】黒い涙(または「最後のマスカラ」)

 彼女と別れたのは、土砂降りの雨の中でケンカした後だった。

 きっかけはもう覚えていない。
 彼女は泣きじゃくりながら、私が何もわかっていないと言った。
 その顔には黒い涙が流れていた。
 雨に流れたマスカラが、彼女の溢れ出した怒りのように見えた。
 彼女は、おかしなことに土砂降りの中で化粧を直そうとした。
 マスカラを塗り直しては私を罵り、黒い涙を流す。
 そしてまた鏡を見ながらマスカラを……ついには塗るそばから雨に流されるままとなった。
 彼女は、最後のマスカラを塗ると空になったケースを私の足元に叩きつけて走り去って行った。
 私は、足元に流れる黒い涙からケースを拾ってポケットに入れた。
 それを見るたびに思う。
 彼女はマスカラを無駄に塗り続けることで、何か言いたかったのではないか。
 本当は私と別れたくはなかったのではないか。
 私はなぜあの時、彼女を追わなかったのか。

 黒い涙の川は、何年経っても私の胸の中に流れ続け、自分の意気地の無さを責め苛んでいる。


たらはかにさんの募集企画「#毎週ショートショートnote」参加作品です。
お題は「最後のマスカラ」。
前回、お休み宣言をしましたが、土砂降りの中で男を責める女性のイメージが浮かんでしまったので、書いてしまいました。
スペース抜きで409文字。
初めて字数制限クリアです。
オチらしいオチもありませんが…
😅

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