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【長編SF小説】銀河皇帝のいない八月

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宇宙を支配する銀河帝国が地球に襲来。 軍団を率いる銀河皇帝は堅固なシールドに守られていたが、何故か弓道部員の女子高生、遠藤アサトが放った一本の矢により射殺されてしまう。 しかも〈…
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2022年6月の記事一覧

銀河皇帝のいない八月 ㉝

銀河皇帝のいない八月 ㉝

8. 歪んだ時空

 それは不思議な感覚だった。

 クアンタの言う通り、頭の中に流れ込んでくる情報が全て整然とつながり、その意味するところもはっきり見えるのだ。

 そう……見える……

 論理的に理解するというより、景色として見渡しているという感覚に近い。それは、色が聞こえたり、数値が図形として視覚化されたりする、共感覚の一種に近かった。
 そもそも「共感覚」なるものについての知識もなかったが

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銀河皇帝のいない八月 ㉞

銀河皇帝のいない八月 ㉞

9. ゴンドロウワ艦隊

「おかしいぞ……」

 航法席のディスプレイをにらみながらシェンガがうなった。
「とっくに射程内まで近づいて来たのに、一向に撃ってこねえ……どういうわけだ?」
 クアンタもレーダーの数値を読んでその事実を確認した。
「何か、白色光弾砲を使えない理由がある……ということか?」
 空里はネープと目を見合わせて無言で同じ結論を共有し、少年にそれを代弁させた。
「彼らの狙いは、ア

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銀河皇帝のいない八月 ㉟

銀河皇帝のいない八月 ㉟

10. 皇冠

 ジューベー! 

 それが自分の付けた名前であることに気づくまでに、空里の意識は一瞬の空白を経た。
「ジューベー……あなたなの?」
「はい。我が艦隊は、アサト様の乗艦の安全を確保するため、突撃態勢で接近中であります。脅威は間も無く排除されます。恐れ入りますが、こちらからの攻撃を効率的に行うため、進路を三一五に取っていただけますでしょうか」
 空里が振り向くと、完全人間の少年は是非

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銀河皇帝のいない八月 ㊱

銀河皇帝のいない八月 ㊱

11. 重力の橋

 ゆっくりと近づいてくる銀河皇帝後継者に、ミン・ガンの戦士ははっきり抵抗の意志を見せた。

「ダメだ……いくらアサトの頼みでも、それは聞けねえ……俺はこいつのために命をかけてきたんだ。こいつのために、仲間が何人も死んでるんだ」
「なんだかわからないけど……ちょっと借りて返すだけじゃダメなの?」
 口を挟んだティプトリーには、突然その場を包んだ緊張感が理解出来なかった。
「俺は知

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