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宙キューブ | 描写練習

 ビーズに宝石、水あめにお星さま。おんなのこって、きらきらしたものがすきだ。

 ウサギノネドコという、京都に本店がある雑貨屋さんの看板商品「宙(そら)キューブ」は、そんなわたしのなかの“おんなのこ”を見つけ、「こっちだよ」と誘い出し、きらきらしたもので満たしてくれる、そんな商品だ。植物の持つ自然の素朴な美しさを、アクリルキューブの額縁に閉じ込める。とある雑貨屋さんでたんぽぽの綿毛を閉じ込めた宙キューブに出会って以来、わたしはひとつずつ買い集めてその数を増やしてきた。今やちょっとしたコレクターだ。

 ヘッダー画像に使ったのはわたしのコレクションのなかのひとつ、カイガラソウの宙キューブ。アクリル樹脂の海の中で、無数の花びらが慎ましやかに咲いている。ベージュ? くすんだオレンジ? アッシュブラウン? ふさわしい呼び名はわからないけれど、派手な色でないことは確かだ。でもだからこそ、生命の神秘が瞳に、脳に、訴えかけてくる。
 一枚一枚の花弁は、角度によっては薄い刃物のような印象を与える。その刃に切られることを夢想する。それはとても美しい痛みであるように思える。しかし実際は、アクリル樹脂の透明な檻が直接の接触を拒否する。触れられないもどかしさ。それもまた、宙キューブの美しさを構成するひとつであるように思う。
 掌の中で、宙キューブを転がしてみる。自然造型の非対称さにより、カイガラソウはもちろん見せる顔を変える。額縁たるアクリルキューブも、光の入射角のちがいによって目まぐるしく表情を変える。きらきら、きらきら。万華鏡のようだ。そのおかげで購入から数年経った今も飽きることなく愛でることができる。

 宙キューブには説明書きがついていて、植物の簡単な説明と、「宙言葉」というちょっとした言葉遊びがついている。カイガラソウの宙言葉は、「環境への適合」。大変な今の状況に適合する力を、力強く咲くカイガラソウから受け取れればいい。

 ひととおり眺めまわして、わたしはベッドの下の、「宝物入れ」と名付けたほうの引き出しにしまう。そこまでがわたしのなかの“おんなのこ”を甘やかす極上の余暇の流れである。

 そして、“おんなのこ”は心の奥深くに帰る。前よりちょっとだけ身軽になって。

サポート……お金もらえるの……ひええ って感じなんですがもしサポートしたい方がいらっしゃればとてもありがたく思います👼 貯まったら同人誌とか自費出版とか、本として形にすることを考えようかと思います。