見出し画像

2023年3月 短歌まとめ

連作

春のたびに

この坂がいつまで続くかも知らずに足をさし出すただ前を見る

つぼみからこぼれてきそうな春の色 毒があるなら最初に言って

息切れを誤魔化すために口ずさむSimon & Garfunkel

わたげにも行きたい場所が有るかしらふぅと飛ばしてしまったけれど

おがくずを掬えば檜 新築の学舎になる左手の中

木々たちのトンネル抜けて海にでる スニーカーまで砂浜になる

菜花のペペロンチーノ

『どんぐりと山猫』だけは二回読む もう会えないって悲しすぎるし

戸や窓を開け閉めすれば呼吸する臓器のようにふくらむ家

せっかくだしわざと父の足を踏む ぬくい 生きているひとの足だ

レコードにとろむエヴァンスの黒鍵ヘロインが蝕んだ音楽

川の字で寝たあの部屋で寝ころんで海までつづく夢をみている

りゃくりゃくと噛む音がする 苦みまでぺろり 菜花のペペロンチーノ

あの子のシャボン

境内に上って肩で息をする 猫ってこんなにあたたかいんだ

手水舎の花がきれいだよ そうだねピンクがとくにきれいね

死ぬかもと錯覚するよな脈動と生のかたまりみたいな君と

シャボン玉 上手だね わたしたち今日は 洗濯もお風呂も要らないよ

虹色のジュエルが宙に散らばって キラキラはじける子ども時代に

大人になったら巫女になるという君がまぶしい 私は何になりたい?

たぶん最良の日

白昼夢 通いなれた教室ときみの髪にちらばるゴールド

わたしたち別の道にすすんでも(たぶん)友だちだよ(たぶんだけど)

約束は少ないほうがいい 鞄は大きいほうがいい 春だし

バイバイよりさよならのほうがいいよね みどり色に波うつ響き

蕾からこぼれてきたような笑顔で写真を残す もう過去になる

連作でないもの

無題

見上げれば 瞳を染める寒桜 春を愛せと言わんばかりに

荷解きをする気にならず吾が部屋は積み重なった思い出の墓場

この先に朝があるから行きなさい 戻りたいなんて言うんじゃないよ

春の陽に目を細め寝返りをうつ エルトン・ジョンの溶け込む和室

ながい夢 覚めたらきえる私等のせつなの暮らしに栞をはさむ

オムライス食べたいオムライス食べたいオムライス食べたいオムライス

作られた笑顔で「なんか変わってるよね」って褒めてないのバレバレ

どんな顔、声、手、体温だったかな叶った恋は思い出せない

叫んでも水晶の砂が走るだけ カムパネルラ、カムパネルラと

寂しさを はね返す黒いビーズの目 そばにいてわたしのぬいぐるみ

社会人になりたくない!私にはセーラー戦士のつとめがある!

赤ペンで何度も心を直される 点の位置が 間違ってると

首の皮ゼロ枚のままつぶやいた きみはゴースト 名前も知らない

死ぬまで 憶えておきたいことがある たとえばきみとすごした教室

「セックス」という部分だけふっふん〜と 誤魔化している 親の前では

うたの日投稿

さくら組がよかったわたしに「ゆりの方がいい、散り方が。」と祖母 「桜」

あの本 どこにしまっただろう あの人 どうしているだろう「自由律」

桃色のしるしがつかないカレンダー 次いつ会えると聞けないまま「印」

テキストに添えた波のうねりには感情が乗るような気がする「~」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?