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自分の卒業式で歌えなかった話

白い光の中に 山なみは萌えて
遥かな空の果てまでも 君は飛び立つ

「旅立ちの日に」 小嶋登作詞

限りなく青いーーーーー❗️❗️❗️❗️

で一気に三叉路に出るこの歌。
卒業式で歌ったことがある人も多いのではないだろうか。
かくいう私も中学3年間、そのうち2回は先輩方を送るため、1回は自分が飛び立つために歌った。

「桜の花びらたち」ばりに代表的な卒業ソングなのでもちろん楽曲は知っていたが、歌うのは中学1年の冬が初めてだった。

主線は3年生。下級生たちはハモりを担当する。

卒業生を気持ちよく送るため(といっても中高一貫校なので隣の建物に押し込むだけなのだが)私たちは音楽の授業だけでは許してもらえず、終ホーム(帰りのHRのこと)でも頑張って練習した。本番でもなるべく大きい声で、綺麗な旋律を空也のようにぷちぷちと並べた。

2年の冬だってそうだ。去年は下ハモだったけど、今年は上ハモ。ラスサビのぶち上がるポイント「この広い〜🎶」は、他の学年とは違うところを歌わされる。単純に2倍の声を出さないと釣り合わない。70人が140人に勝てるなら、それはもう森公美子と岡本知高と松たか子と井上芳雄が同級生だった場合に限る。そんな理不尽さに耐えながら、3年生を隣の校舎に押し込むことに成功した。


さて、いよいよ3年生の冬がやってきた。またこれがあっという間に終わる。お正月が過ぎたらサッサと学年テストをして、ひと息つく間もなく期末テスト。そしてそのまま、「お前たちは卒業式まで登校しなくていいからねー」となる。私たちは内部進学をするので、本当にやることがない。(強いていえば、高校の内容を盛り込みまくった数学と化学の宿題がわんさか出たくらいだった)


3月吉日、紺のブレザーの左胸にピンクの花を付ける。
先生に名前を呼ばれ大きく返事をする。
知らないおじさんの、長い話を聞く。
私たちが羽ばたくための、ピアノが聞こえる……


いや、「旅立ちの日に」の主線の練習は??

2年間の積み重ねもあり、リズムと歌詞は長期記憶として確かに残っている。でも、メロディーは?私まだこの歌の主線を 人 生 で 一 度 も 歌ったことがない。ああ義務教育よ、私は今三叉路で立ち止まっている。学友の声を聞いて歌うにも、1秒先に何の音が来るかわからないなんて……ネプリーグのボーナスステージに来てしまったようだ。しかし「主線」が何なのかわからない私は、ただ落ちていくしかない。

限りなく青い 空に心ふるわせ

私のトロッコは左に傾いた。上ハモである。
同級生全員とハモる奇人と化した。

自由を駆ける鳥よ 振り返ることもせず

レールは途絶えない。私はまたボーナスステージへと躍り出た。サビのハモりって、どんなだったかな………………もはや主線を歌おうともせず、過去2年の記憶をさまよっていた。読者の皆さんはお気づきだと思うが、この卒業式、私はまだ全然飛び立てていない。むしろ振り返ることしかしていない。

勇気を翼にこめて 希望の風にのり
このひろい大空に 夢をたくして

トロッコは右に傾いた。下ハモである。両隣の同級生たちはもはや怖かったのではないか。私も怖かったさ。

いま、別れのとき
飛び立とう 未来信じて

ここは「未来信じて」が上ハモになるという右肩上がりの大変縁起のいいことをしたと記憶している。

弾む若い力信じて

こちら、全て上ハモで景気よく。(「弾む若い力信じて」ってすごい歌詞だなあ……。)

ここで私はふと思い出した。

このひろい このひろい

あ!ここ主線で歌える!!!!めちゃくちゃ有名なところだ!!!!!!!!!!!急に知ってる!!!!!!!

大〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜空に〜〜

本当は「大空に」

終わり良ければ全て良し。大サビでガンガンアレンジを加えた歌姫が最後のフレーズはしっとり決めてファンを沸かせるタイプの、ソレ。

紆余曲折しかなかったが、私は「旅立ちの日に」を一応は歌い、卒業式を終えた。
内部進学とはいえ、何だか切ないねえと泣いたり何枚も写真を撮ったりした。今でもたまに思い出す輝かしい記憶のひとつになっている。

とはいえ、あの式でいちばん印象深いのは「旅立ちの日に」が歌えなかったことである。そして、周りの人たちは「歌えていた」ことである。彼ら彼女らは、自宅で猛練習をしたのだろう。まったくいいやつらである。

ちなみに、奇人と思われたかもしれない両隣の同級生は高校で別のクラスになったため挽回の機会は無かった。

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