あんなに好きだったのに
夫のことである。
昨夜、ささいなことで喧嘩をした。ふたりで距離を置いてお互いに冷静になろうとする間、それは悲しくて寂しくて情けなかった。
そうして、思った。
あんなに好きだったのに、と。
いつも彼のことを考えていたし、5分しか会えなくても顔を見に行って、会えたときには自分が壊れるんじゃないかと思うくらいにどきどきした。帰らなければならない時間は身が引き剥がされるようだった。彼を中心に自分の感情がジェットコースターのように揺れ動いて、全身全霊で恋をしていた。もう、ほんとうに、彼が全てだった。
いまはどうか。
彼が傍にいることが当たり前すぎて、あんなに好きだったひとと一緒になれたことのありがたみも感動も忘れていた。おそらく彼が全てなのは同じなのだけど、彼が自分の中に取り込まれて、感情もジェットコースターから海の穏やかな波の満ち引きのように一定のリズムを伴うようになった。
あんなに好きだったのに。
戒めるように、慈しむように、何度も思った。そう、いまはあんなふうな激しい「好き」ではない。でも、いまはいまの穏やかな「好き」がある。
あんなに好きだったのに、いまはこんなにも好きなのだ。
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