『月光は足元に宝石を散りばめた』
9月30日 午前1時32分
いつものように、夜の色が濃くなり、空気が洗われ始める頃に課題をする。
半分だけ開いた窓からは、匂いや音、色の全てが丁寧に洗われた風が入り込む。
それを吸い込むことで、なんだか私の身体の中まで洗われたようで、少し目が冴えた。
しかし覚めた頭とは裏腹に、思うように進まない課題が長年使ってきた机の上に我が物顔で鎮座している。
小さく、誰にも拾ってもらえないため息をついたとき、先程から携帯で流している声に変化があった。
どうやら今日の配信は終わりにするようだ。
課題が遅くまでかかってしまってるため、珍しく夜中に枠をしている人のところに行けたが
物珍しさのためか、多めにコメントをしてしまったことを後悔している。
携帯の画面には、映画の注意事項みたく目立つように大きな字で「配信が終了したよ」と書かれていた。
そういえば枠主が、夜中にコンビニに行くの楽しいよって言ってたな
なんて言葉を思い出して、見えない誰かに言い訳するかのように上着を羽織って外出の用意をする。
これは軽い気分転換なのだ、決して課題から逃げ出した訳ではないと、姿のない誰かに訴えながら
洗いたての綺麗な夜へと旅を始めた。
初秋の夜は風が冷たさを増していて、夏よりも星がよく見えるような気がする。
ほとんど雲がなく、穢れのない夜空と反対に、足元には昼に降った雨の名残が横たわっていた。
小さな水面には星空は映らず、まるで別世界へ繋がっている真っ暗な深海みたいだった。
しかし、それすらも矛盾した世界に1人立ち寄り、まるで存在しない複素数平面上に打たれた点のようで、なんだか心が踊った。
イヤホンの奥からは、曲の始まりと共にたくさんの歓声が聞こえ始める。
一定のスピードで刻まれるリズムに合わせて、歩幅と歩く速さを調節する。
King Gnuの飛行艇は歩くには少し早いリズムだが、音に乗せてタッピングをすれば
舞踏会の演奏に負けない盛り上げを見せてくれる。
やがて踊るような足取りで散歩をしていると、急に明るい光が目に入った。
それは光が漏れだしている宝箱のようで、深夜のコンビニは少し神聖な感じがする。
駐車場に停められた車たちが、純白の光を漏らさないよう、必死に隠している感じがして
宝探しをするように車と車の間を通ってコンビニに入った。
特にこれといってコンビニに用事はなかったけれど、折角入ったのだから何か買わなきゃという義務感を感じ
お気に入りのミルクレアを買って、包装紙をゴミ箱へと放り投げ、中身は口へと放り投げる。
秋の夜に食べるアイスに、少し身震いしてしまったけれど、冒険で疲れた身体には丁度いい甘さだった。
帰ったら課題の続きをやらなきゃなぁなんて考えて
決して大冒険ではない私の旅は折り返しを迎える。
雲のない空から降り注ぐ月光は、点々と存在する水溜まりに集まって
まるで一つ一つが、アクアマリンのような蒼く澄んだ海を映していて
その宝石たちが、私の旅路を案内してくれているようだった。
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