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国立奥多摩美術館館長の他の美術館に行ってきた!(Vol.16)---諏訪市美術館『赤羽史亮 SOILS AND SURVIVORS』

国立奥多摩美術館館長の他の美術館に行ってきた!(Vol.16)

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諏訪市美術館
『赤羽史亮 SOILS AND SURVIVORS』
会期:2023年5月20日~7月17日

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2023年5月21日(日)晴れ。長野県の諏訪湖、湖畔に建つ諏訪市美術館に行ってきた。赤羽史亮の個展が開催されている。赤羽くんは美大で一つ上の先輩だった。先輩と言っても美大の先輩後輩なんて、あってないようなものだから、いつの間にか赤羽くんと呼んでいた。赤羽くんはずっと絵を描いている。その絵はザワザワゴソゴソうごめいている。もちろん壁に掛けられた絵は物理的には全く動かない。しかし、赤羽くんの絵を前にすると、自分の中でザワザワと、ゴソゴソと絵が動き出す感覚を強く鮮明に感じるのだ。だからずっと見ていたくなる。目が離せなくなる(なんだかわからないけどずっと見ていたい)。美術において、そんなことを思わせてくれるものが、最上の作品だと思う。「笑う」「泣く」「怒る」「悲しい」「楽しい」のような何か一つの感情を想起させるために作られるエンターテイメントではなく。日が沈む山をぼんやり眺めているような、風で揺れる木々の中でただただそれを眺めているような。あらゆる感情の手前にある、温かく静かにうごめく言葉に出来ない何かを感じさせてくれるのが尊い美術作品だ。赤羽くんの絵からは、まさにそんなものを感じる。正直に告白する。僕は赤羽史亮のファンである。出会ってから10年以上たつが、いつも赤羽くんの作品発表を楽しみにしてきた。その赤羽くんの美術館での個展が開催されると聞いて、とてもワクワクしていた。美術館には赤羽くんが今まで描いてきた50点以上の作品が並んでいた。期待を全く裏切らなかった。当日、会場に赤羽くん本人がいて、少し話ができた。絵について「肉みたいな塊ではなく、その肉を土に埋めて、発酵して、分解され、ほどけて、虫や菌類が湧いてきているような、そんな感じを描いているのかもしれない」と言っていた。そんな言葉と共に作品をみると、いわゆる生きていることや、死んでしまうことに境目なんてないのかもしれないと勝手に絵の前で思った。ぜひ多くの人に赤羽くんの絵を見てもらいたい。そんなことを思いながら帰りに諏訪湖でスワンボートに乗った。(佐塚真啓)

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「西の風新聞」2023年6月15日 掲載

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