現実を満たす夢を見る

 もう目覚めなくていいよ、と思うような夢を見た。あの人が私のことを好きで、私もあの人のことが好きな夢。好きっていうのは、その、あれだ。恋愛的な『好き』だ。ぎゅっとして、触れ合って、抱きしめられる、そんな夢。

 私が脳死しても、植物状態になっても、家族が私の意識が戻らないことを嘆いても、意識が戻らない中この夢をずっと見ていられるなら、それって幸せだと思った。目覚めなくていい、この先もずっと。

 「続きが見たい」と思って布団の中で目を閉じた。続きは見られなかった。アラームに叩き起こされ、布団を畳んで、仕事に行くためにパジャマを脱いで、朝ご飯のトーストを焼いた。現実と夢とのギャップに首が絞まった。死にたかった。幸せな夢を見るのは、現実が苦しいからだと聞いたことがある。人間の脳は過去未来現在、想像と現実の区別がつかないから、無意識のうちに夢の中で幸せな思いをさせて、現実の悲しさや苦しさ、どうしようもなさを緩和させ自分の欲求や感情を満たすという。

 きっと無理だと思っている。


 きっと全部無理なのだ。報われることがないから、こうして夢の中で愛情を満たそうとする。どれだけ頭の中で「かわいさ」が「顔だけ」でないと分かっていても、鏡が見られない。心が空いて心が満たされなくて過食してしまう。「私は私のままでいい」って、誰も言ってくれない言葉を、私自身で必死に紡いでいく。下手くそだから、うまくできないけど。

 あの夢を見たまま、もう目が覚めなければ良かった。人生の終わりに、別の人生を流す。ハッピーエンドの別の人生。

 それって、そう思うことって、今までの人生の裏切りになるのかな。


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