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あやちゃん

「じゃあ、ちかちゃんは“ちゃお“と“ひとみ”ね。で、私が“りぼん”と“なかよし”」

私は内心(えーーーーっ)と憤慨したが、小学生にしてスピリチュアルな瞳とキャリアウーマン的な雰囲気を持つあやちゃんの言葉に普通の小学生だった私は

「う。うん」

とまるで漫画に出てくるセリフのようにうなずいてしまった。現実世界で「う。うん」と言う人なんているのかなと思っていたが、たしかにこの時の私はそう言っていた。

・・・・・・・

昔女子小学生が読む月刊少女漫画誌は「なかよし」「りぼん」「ちゃお」「ひとみ」の4誌あった。なかよしとりぼんの人気が拮抗していて、ちゃおとひとみは付録の少なさからくる厚みの薄さと内容の若干のおとなしさが影響して人気が低かった(自分の娘たちの頃はちゃおが大ブレイクしていて驚いた)。

全部読みたいけど少ないおこづかいですべて買うわけにもいかず、月によってなかよしを買ったり、りぼんを買ったりしていた。

ところがある日、同じクラスのあやちゃんがこんな話をもちかけてきた。

「二人で2誌ずつ買って回し読みしようよ」

おお、それはナイスアイデア! 私はすぐに賛成した。そして冒頭に戻る。

「じゃあ、ちかちゃんは“ちゃお“と“ひとみ”ね。で、私が“りぼん”と“なかよし”買うから」

かなり不満があったが(付録は買った方の所有となる点など)

・4誌とも読めるという強いうまみ

・あやちゃんが言い出しっぺであるアドバンテージ

そして彼女の持つ占い師のような強い眼力によって私は「う。うん」と丸め込まれてしまった。今思えば彼女は色白の相当な美少女であったが、スピリチュアル好きな点と大きな猫目から“化け猫”というあだ名をつけられ正直、人気者ではなかった。なぜか私はそういう子に好かれた。それにしても小学生のあだ名センス。

あやちゃんの家はシングルマザーで、お母さんは出版社でバリバリ働いていた。有名な出版社で、うちの母が愛読する奥様雑誌の編集長があやちゃんのお母さんだったのである。あやちゃんは一人っ子で鍵っ子だった。4人きょうだいで自営業のうちとは違ってのびのび遊べるから私はよくあやちゃんの家に遊びに行ったが、真剣にこっくりさんに付き合わされたり、あやちゃん作のマンガ(ラブシーン有り)を読まされたり、「赤ちゃんてどうやってできるか知ってる?」と聞かれたり・・・あ、今書いていて彼女を表現する言葉が見つかった。サブカルだ。サブカル小学生だったんだ。スピリチュアル寄りの。

で、だんだんあやちゃんのことがこわくなってきた頃。

遊んでいる途中でその日は習い事があったことを思い出した。

「私、もう帰るね」

「ダメ!帰っちゃダメ!」

そう言ってあやちゃんはマンションの部屋の玄関で仁王立ちをした。西日が差し込むぐらいの時間帯だった。あやちゃんの妖しいほどに白い肌とらんらんと輝く猫目を暗いオレンジ色の光が照らした。私は心底怖くなってしまった。さっきまでしていたこっくりさんが乗り移ってるのかもしれない、そう思ったのだ。

あやちゃんを押しのけて帰ってからは少女漫画4誌協定はうやむやになった。

今思えばあやちゃんはさみしかったのだろう。しかし同じ年の私に彼女を包み込める包容力はなかった。彼女の「ただものではない」感は小学生には重かったけど、きっと大人になってから独特のサブカリズムは開花し、その美しさもあいまって華やかな世界にいるのではないだろうか。

あやちゃんは、今どうしているか知りたい友だちランキング第一位である。

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