言うことを聞かないバイトと激怒する店長
ドーナツショップでバイトしていたころの話です。
当時その店の店長はひどく強面の男性で、雰囲気でいうと千原せいじみたいな関西弁の怖い男。大阪の本部から東京店に送り込まれた生粋の大阪人でした。
ドーナツの甘さ、ドーナツの可愛い存在感とはかけ離れたそんなこわーーい店長に私はある日呼び出されました。
店の裏にある事務室に怖い店長と二人きりで何を言われるかと思えば、鬼の形相でめっちゃくちゃ怒られたのです。やくざの恫喝並みでした。
「お前なあ! きちんとセールストークしてへんやろ!! ふざけんなよ!!!」
当時その店はポイントカードのスタンプをある程度ためるとおまけがもらえるというキャンペーンをしていました。
「お客様、あと一つドーナツお買い上げいただきますと、1ポイント追加となりますがいかがでしょうか?」
こんな感じで売り込むわけです。されたことありますか。
なんかこれがイヤだった。通常のおまけだけならいいけれど、次から次へと色んなキャンペーンの通達が本部から届き、バイトはドーナツを売る以外のいくつものトークをお客様と繰り広げなくてはいけませんでした。
店長に怒鳴られたのはすごく怖かったけれど、私はひるまず言い返しました。そんなセールストークを望んでいるお客がいるのか。お客はドーナツ屋にドーナツとコーヒーを飲みに来ているのではないのか。おいしいドーナツを提供するのが本筋ではないのか。
なんだか涙ながらに訴えたような覚えがあります。
もっと怒鳴るなら怒鳴れ、クビにするならクビにしろ!といった剣幕で言い返しました。
まあ、若かったです。バイトなんだから言われたことやるべきなんですよ。そういうふうな店にしたいなら自分で自分の店を起業しろ、とそういうことなわけですが。
そしたら店長、噴き出したんですよ。
笑っちゃって、もう顔は全然こわくありませんでした。
「まったくお前は、ほんまにすぐむきになるからおもろいな。まあ、ええ、もう戻れ。トークはちゃんとせえよ」
今思えば、店長も私と同じように考えていたのかもしれません。でも上層部の決めたことを守って末端まで徹底させるのがサラリーマンの仕事です。鬼店長はきっといいサラリーマンだったのでしょう。
それから店長と再びぶつかることもないまま、別の店長と交代になり鬼店長は大阪に帰っていきました。
私ももっと時給のいい仕事をしようと、ドーナツショップはやめて(失恋もしたし)塾の先生とか色々やりました。
今でもドーナツは大好きです。
プリン屋を名乗っていますが、本当に好きなのはドーナツ。プリンも相当ですが、ドーナツの形の可愛さときたら信じがたいです。プリン屋で成功したら次はドーナツショップをやろうと思っています。思うだけなら自由です。
そのときもし私がポイントカードのセールストークしてたら笑っちゃってくださいね。
おしまいです。
あなたのサポート、愛をこめて受け取ります。