触ってみるから始めるDX
実体験からでしか得られない学びがある
20年程前、インターネットの台頭によってEコマースやネットビジネスがにわかに注目された時がありました。企業ではEビジネス推進室を設置するなど、現在のDXと似たような盛り上がりを見せており、こうした取組みの推進者に向けたセミナーも盛んに行われていました。ある講演会でEビジネス推進者である受講者に対して「皆さんの中で、本でもチケットでも良いのでネットで買い物をしたことがある人は挙手してください」と問うたところ1割程度しか手が挙がりませんでした。自分で一度もネットで買い物をしたことがない人が企業のEビジネスを推進しようとしていたのです。
新たなテクノロジやビジネスモデルについて、書籍や研修などで知識を習得するだけでなく、実際に利用したり、制作したりして自分の手で触れてみることが大切です。今は、AIスピーカーやVRグラスなども比較的安価で手に入りますし、体験型の3D工房やオープンラボなどの施設も多数存在します。シェアリングエコノミーやネット上のサービスなども気軽にお試しで利用できるものがたくさんあります。デザイン思考やアジャイル開発などの手法も、実際に体験できるワークショップやハンズオンセミナーなどもあちこちで開催されています。試作版のスマホアプリをクラウド上で製作して一部の利用者に試しで使ってもらい評価を得ることもできます。手軽に試せることがDXの魅力でもあるのです。実体験が多くの学びを与えてくれるはずです。
ここまでの内容は下記新刊書籍のコラムでも紹介していますので是非そちらもご一読ください。
年齢や専門知識の有無はあまり気にしない方が良い
オンライン会議の導入やキャッシュレス決済の普及などを推し進める際に、高齢者やITに慣れていない人がいるから難しいとか、止めた方が良いとか、そのような人たちに配慮して特別に簡易な方法を考えなければならないといった反応が見られます。たしかに、誰でも使いやすいUX(ユーザーエクスペリエンス)を考慮することは大切ですが、それによってDXにブレーキをかけることは本末転倒です。
実際の世の中では次々に新しいモノや新しい使い方が生まれて、人々はそれに適応して暮らしています。たとえば、お年寄りだって、ITが苦手な人だって今ではみんな駅の改札をカードやスマホをかざして通過しています。本当に必要で、使い慣れれば新しいモノや使い方は自然に浸透していくのです。イノベーター理論でも言われているように、新しいものに対しては、アーリアダプター(初期採用者)、アーリーマジョリティ(前期追随者)、レイトマジョリティー(後期追随者)、ラガード(遅滞者)などがそれぞれ一定割合で存在します。レイトマジョリティーやラガードに気を使いすぎているとDXが一向に進みません。DXを進める際に重要なのは、こうした人達のためにゆっくり進めたり、特別に簡易な方法を提供するために多くの時間や労力を費やしたりしないことです。むしろ、こうした人達に「触ってみる」「使ってみる」ことの大切さを知ってもらうことが重要です。そのためには、アーリアダプターやアーリーマジョリティに向けて早期に提供し、継続的に良くしていくことで、必要性や便利さを広めていってもらうことが早道です。そのように継続的に良くしていくことで、誰もが使いやすく、身近なものになっていくはずです。
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