〜7/22

時計のまわりに散らばる点描は、微かに時間を含み、小さな表現を配っている。それらは日記の脱字のように、わたしのなかだけで零れるだろう。6で割りきれる数の幻想。春先の、かなしみをいつ秒針は弾いたか。他人と、交わらない透明水彩を、うすく重ね着し続け、孤独があたためられて、孵化していく。

繰り下がりの引き算。下の位に、十を貸してから、吐き出される酸素が濃い。一つ一つの夜を、小さく閉じ込めながら零れないように、指の数におさまる列。マス目の細かいノートに変わる季節に、乱筆を覚えた。整数への理解は、新たな不安を呼び、どの法則にも媚びない孤独が、何も愛さない覚悟教えた。

手話に含まれている陽射しで、哺乳類図鑑を、読んでみたくなる。関係なくない渡鳥に伝えたいから。甘いジュースに混ぜ込んでいい整腸剤は日常から、はみ出ない異常を、薄くごまかしていい権利。結局わたしは、筆記体を覚えずに、書き慣れた文字だ。竹藪の奥に入り込んで取れなくなったあの白球の苔だ。

春先の少女が、含まれているから顔を描かない。純粋な中途半端を、吸い込みながら歩く。通りがかりの妥協は、詩を描かなくても良い、と言った。ワンマン電車を降りるときの、ゆっくり近づく車掌の歩幅。それ以外にも待つことになる何か。後部ドアは開かないのに、その近くに座っている人へ、嫉妬する。

この集落の生活から、一行を盗みつづけ、その無数の欠片から編まれる詩の一片を、草刈りをしたばかりの青いにおいに、しみ込ませていく。母親が、顔を近づけて、体温のたしかめ方が、幾種類もあることを、教わったばかりの少年の、ものがたりが植物の、臓器へ拡がっていくのがわかる。

文庫本に、昨日の偏頭痛を、差し挟む。痛みはもともと、はげしい言葉の温度で、たち現れていたから、言葉を冷水へ散らすと痛みが消えて、水たまりは地球からかけ離れた。他人の、異なる生活から産み出される直喩を、一心に引き受けられず、手のひらから零れはじめると、ようやく言葉が、立体になった。

水にかたちがあるときは、時間の輪郭が剥がれる。抑制する自由がないから、誰の奴隷にもなれない。自分の、意識が及んでいないところの物質はすべて滞っていて、視野が向かられるとはじめて動き出す。雑音がかすかにながれて、静寂が完成するように、シーグラスの摩耗を何度も包みこんで、流れる水が、

独立した流木の、その温もり。木々がなければ森林に、虚空の個性は生まれなかった。枝葉が伸びる希望のかたちが異なる。自分だけの闇に身体を、浸すと他人の心が次々と離れ、象られた直喩は、少しずつ経験からかけ離れる。ある時、他の言い表せなかった事象と手を結ぶと、直喩の誤解が豊かになった。

自分の、骨の臭いを、決して嗅ぐことができないはずなのに、思い出すことがあるのはなぜか。悲しいという気持ちが、浅瀬になり、野鳥の排泄物が、水面で溶けて、許される時間が訪れる。この肺に、いくつもの責任を吸い込ませながら、からだが、骨によって制限されてはじめて、肉体が自由になると知る。

子どもが生まれたら、名前の知らない巻き貝をみせたい。その巻き貝は口笛が、風に溶ける瞬間を録音している。雨が、空間を支配できずに、連続する細かな虚空を発生させる。虚空には、想像の離島の、豊かな霊魂が宿りつづけ、死んだ人間に使っていた比喩の、質量を濃くしていく。

眼裏の比喩で、何度も人を死なせる。言葉はそれを発した瞬間に、言葉の輪郭から、少しずつこぼれている。文脈で支えられながらまだ、脈を打とうとする言葉の妥協は、子どもの頃の、湿った首筋に、いつまでも飼われて、あせもが拡がる気配を、止めることができなかった不安から、抜け出せずにいる。

柿を、ぬすむ。夕立ちのように。柵が置かれることによって、自由が増えることを知ったその秋の膝の、深いはずの擦り傷が、痣にかわっている。

ゆるす、と、なおる、という営為について考える
memo

封を、切る。素朴な風が、抜け出せずに、原色の温度を、保っていた。しまわれている空気は、存在しつづける過去の季節で、とても夜明けが不足していた。自分の、幼かったころの乾いた口には、古い映画が入っていて冷静な、誤解のまま大人になった。次々と、新たな妥協を、おぼえる物語になっていた。

行間に、雨の臭いが入りこんでくる。想像の、離島の馬の足は、異様に短いが他と、比べようのない島民は、気づかないだろう。浅瀬に足を浸していると、いつかの雨台風の名残を、丁寧に感覚する。白内障に、そっと寄り添う妥協と過ごす。12進法であらわされる年月を、とても純粋に理解していく。

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