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しかと見届けよう、貴様の生き様を。

どうも専務佐藤でございます。

当館おおぎ荘は言ったらポツンと一軒宿って感じで山の中に宿がございます。言い換えれば自然に囲まれた宿です。

先日、料理に使うあしらいの葉っぱを取りに近くの山へ入りました。

山ではあるけど、まあ勝手知ったるみたいなところでして「やってる?」てフランクに居酒屋の暖簾をまくりあげるような感じで草木をかき分けていきました。

私が欲しかったのは熊笹の葉。焼き物の下敷きにしたかったんです。

目当ての笹の葉も見つけまして5、6枚いただきました。ヨユーヨユー。

さて、戻りましょうかね。ってなったときに奥の方から「パキッ!」って枝を踏みつける音が聞こえました。

「えっ何?」

って振り返ると15mほど奥に、何やら動く物体がありました。

一瞬で固まる私。

「猪?」

緊張感が走ります。

あっ、当館、九州は熊本にありまして熊って県名に付いているけどクマはいないんです。九州には野生のクマはおらず、山で危ないのは猪です。

突進されて巨体で突き飛ばされたり、あの特徴的な牙で太腿の大動脈切られて失血死したりと猪は危険生物です。

逃げ出したい気持ちを堪え、息をひそめてひたすら自然と同化していました。逃げたら追いかけられると思って。

自然の一部となった私。気持ちはもうメタルギアソリッドのスネークでした。まさかPS2で徹夜で攻略したコブラ部隊との戦いがこんなところで使えるとは。真っ黒な調理服来てるからぜんぜんカモフラになってないけど。

そんなスネークが15m先の動く物体をよーく見ると、おやっ?猪にしてはスリムな体型。スラっと伸びた足に長い首。



野生の鹿です。



頭のなかであの渋い柳生博のナレーションで聞こえて来ました。

なんだよ鹿かよー!ビックリさせんなよー!ってホッとしたら何か私の解けた緊張感が鹿にも伝わったんでしょうね。目が合いました。鹿と。

黒々としたつぶらな瞳が微動だにせずじっと私を見つめます。

やだ。あの子可愛い。

私がそう思ったって事は、向こうも私を見てそう思ったんでしょうね。

あの子可愛いって。


しゃべった事無いけど、いつも電車のホーム越しにあの子と目が合うんだ。向こうも意識してんじゃないのかな?ってくらいの青春真っ盛りの甘酸っぱい距離感。

今RADWIMPS流れたら新海監督が映画化してくれる。アニメで。

タイトル『鹿の名は。』。多分泣く。

あー、そういえばサザンも言ってたわ。

『見つめ合うと素直におしゃべりできない。』って。

ホントだわ。全然おしゃべりできない。鹿と。

ひたすら見つめ合う一人と一頭。


つーか。

長くない?

見つめ合う時間。

普通逃げない?いや、見つめてる俺が言うのもおかしいけど。

どうしたの?飼ってほしいの?

いや無理だよ。ウチで俺にそんな権限無いよ。むしろ俺、飼われてる方だもん。

嫁さんに「ペット飼いたいんだけど…」って言えないよ。

万が一、嫁さんが「いいよ。」って言っても「実は鹿なんだけど…」って言えないもん。ペットって相場は犬か猫でしょ。いや鹿だから。ギリギリまで何の動物か伝えずに嫁の前に連れて行った時に「大丈夫。実はこれこう見えて大型犬だから。」は通じないもん。どっからどう見ても見まごう事無き鹿だもん。そのうち君、角生えるでしょ。

100歩譲ってクリスマスに妻や子供にお見せするならもしかしたらイケるかもしれない。

欧米のおじさん風に

「お前達がいい子にしてたからサンタさんが来たんだよ。サンタさんはトナカイのそりで来たんだろうけど、このトナカイだけ忘れちゃったんだ。何でだろうね。鹿だからかな。ハッハッハ。」



いや無理がある。どう考えても無理がある。

あれこれ考えてる間も見つめ合う一人と一頭。時間的にはRADWIMPSも完全にサビに突入している。

あまりにも見つめ合うので、ホントに近づいてくるんじゃねーかと思って呼んでみました。動物を呼ぶ時はこうやるんでしょって思ってしゃがんで

「チッチッチッチッチ」「おじさん怖くないよー。」「ほら大丈夫だよー。おじさん漢検4級持ってるよー。」


鹿は山奥へ全力で逃げて行きました。

淡い片思いだったのかな。

自然豊かなおおぎ荘です。

ではでは。

















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