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「夜空はいつでも最高密度の青色だ」  最果タヒ

最果タヒはどこに向かって言葉を発しているのだろう。自分か他人か宇宙の生命体に向かってなのか。怒っているのか悲しんでいるのか、好きなのか嫌いなのか、肯定しているのか否定しているのか、境目のない感情が迸っているようで、それらの言葉を浴び続けているうちに読み終えてしまった。  
今世の中は自粛の最中にあって、電車の中でも交差点でもカフェにおいても誰も話をせず黙っている。会話は聞こえてこないけれども、言葉はそれぞれの人の脳にあって、もちろん自分の脳にもあって消えてはいない。    
朝の通勤時間、言葉を発さずとも「なんだよ、詰めてくんなよ」とか「今日も怒られるなあ」とか「やだ、隣のおじさんうざい」とか「休んじゃおうかなあ」とか「何これ、笑っちゃう」とか、人は脳の中で何かしらの言葉呟いているんだと思う。この詩集を読んでいるとそんな他人や自分の脳内にある言葉たちが引っ張り出されて名前を付けられて吊るされているように思えた。共感とか共鳴とかそういう簡単なことじゃなく、この詩集に吊るされた言葉は確実に今の世界を映し出している。だからこれを読み終えたら言葉が愛おしくなって誰かと話したくなった。なんだかあんなに嫌だった人混みや密着した場所がちょっと懐かしく思えてきた。

        

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