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【院長への道 ep.12 〜開業戦線異常なし】チェアを選ぶ

 歯科用チェアに関しては、今まで何種類か使ってみた事がある。自分の母校の臨床研修、バイト先の歯科医医院、常勤の歯科医院、そして実家で使っていたもの。

 まず、国内最大手の歯科メーカー【タモリ

 大阪に本社を置くタモリは、チェアのみならず歯科材料や、院内のほとんどの機器を網羅する日本歯科界の巨頭だ。院内にタモリの製品がないクリニックの方が少ないのではないだろうか。

 チェア、レントゲン、レセコン全てをタモリ製品で統一する事で、快適で効率的な診療が出来る。また、会社の規模も大きいし歴史もある。自動車メーカーでたとえるなら、トヨタのような安心感がある。

 実家とバイト先の医院では、このタモリの【スペースカリソメ大明神】というチェアを使っていたのだが、これは1960年代に、それまでの歯科治療で主流だった立位診療を、現在の全世界のスタンダードである水平位診療へとドラスティックに変化させた偉大なチェアである。

 アメリカのDr.ボール・ビーチと共に開発されたこのチェアは、チェア背面板の起き上がり機構を排した水平のベッドのようなチェアで、動きはシンプルな上下動のみ。診療時にドクターの身体への負担を減らし、また故障の原因となる複雑なチェアのシステムを簡素化しする事によって、トラブルを減少、丈夫で長持ちをコンセプトに考えられている。(現在のスペースカリソメ大明神シリーズは、背面板が起きます)

 また、ヘッドレストの両脇、いわゆるチェアの肩の部分から、アシスト用、ドクター用にスリーウェイシリンジ、タービンホースとバキュームが出ている、少し変わったデザインだ。

 色々と人間工学的にも優れた設計で、1960年台後半に発売されたこのチェアは、爆発的に売れたそうだ。

 ただ私の場合、この肩から治療用器具が出ているというデザインのせいで、髪の長い患者さんの場合はバキュームで髪を吸い込んでしまったり、治療中にちょうど自分の太ももの位置にタービンヘッドがくるため、立ち上がる際に太ももにバーを突き刺す事があり、あまり好きではなかった。

 続いては、【GG

 『西のタモリ、東のGG』とよばれ、老舗タモリと並び立つ、歯科界の二大巨頭のひとつ。タモリが西の横綱なら、GGは東の横綱。私の中では、勝手にトヨタのライバルという事で、ニッサンをイメージしている。

 基本的に、商社であるタモリと違い、GGはメーカーであるため、自社による独自開発も行い様々なデンタルプロダクツの開発、販売を行っている。

 私が以前、常勤で働いていた勤務先が、このGGのチェアユニット【EOS Ω(イオスオメガ)】を採用していた。このチェアはそれまでのチェアで多かった、ドクターテーブルが患者さんの上を通るフライングアームを廃し、かわりにスライディングデリバリーシステムという、チェアの横をドクターテーブルが前後にスライドして動く方式で、これが私には非常に使いやすかった。

 歯科メーカーとしての職人魂と意地を感じる。

 最後が【ダカラ・ベルベット

 元々、理容美容室専用のチェアを開発していたメーカーで、理容美容部門ではトップのシェアを誇る世界的なメーカー。歯科用チェアユニットとしては後発メーカーとなる。

 やはり理容美容業界で培ったセンスで、オシャレ斬新なデザインが目を引く。今までの歯科メーカーにはないラグジュアリー感などもあり、目新しさを感じる。

 この他にも、国内メーカーでは【ヨツダ】と【ダサヲ】、海外メーカーでは【CAVO】【クロナ】がある。

 値段は各社とも、さまざまなラインナップがあり、予算に応じた価格帯のものを選べば良いと思うが、自分は最終的には【GG】を選んだ。

 やはり使い慣れているというのが1番大きいが、最後の決め手となったのはそれぞれのチェアの説明をしてくれたメーカー担当の方と私の相性だった。

 【タモリ】は良くも悪くも、営業マンに歯科界の盟主という貫禄とプライドを感じた。

 【ダカラ】は、その時ダカラで1番売り上げているという、やり手の営業マンがついてくれたが、自分の性格的にグイグイくる人が苦手だった。

 【GG】の担当は、背もちっちゃくて細い、若い営業マンだった。営業トークも上手くなかったが、真面目さやひたむきさ、自社の商品への熱意と愛情を感じる姿勢に好感を持った。

 『その時たまたま担当になった人間との相性だけで決めるのもどうなん?』と思われるかもしれないが、結果的には自分はGGのチェアを選んでよかったと思う。

 開業時に買った2台のチェアは、20年以上経った今も現役で、多少のくたびれ感はあるが元気に頑張っている。

 その後すぐに、GGのチェアを2台増設し、現在は移転して広くなった診療所にさらに2台のGGのチェアを増設し、計6台となった。

 20年前と違って、今はどのメーカーを選んでも、まず問題になる事は少ないと思うし、自分の愛着のある好きなチェアを選べば良いと思う。

 ただ、毎日使うものなので、ちょっとした事がストレスになりそれが蓄積すると結構なダメージになるので、ここは譲れないというポイントは、値段を理由に妥協しない方が良いと思う。

 あとは、必ずチェアは故障するので、その時サービスマンがすぐ来てくれる体制が整っているかどうか。これは現在の勤務先や、友人知人の話が参考になると思う。正直、チェアが2台しかなくて、そのうちの一つが故障。修理が2、3日来れない、となると死活問題である。

 チェアユニットが決まり、着々と自分の城の構想が形になってきた。ハードが決まれば、あとはソフトである。

 そう、歯科医院開業にとって1番重要な、人材確保をどうするか?である。

〜その13に続く

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