権力者による権力者のための国葬に反対する
岸田首相は、8月31日の記者会見で、「民主主義の根幹たる国政選挙を6回にわたり勝ち抜き、国民の信任を得て、憲政史上最長の8年8か月にわたり重責を務められたこと」を安倍元首相の国葬を行うことを決めた第一の理由として挙げました。
国葬を決めた第一の理由が長く権力の座にいたことであるというのが、日増しに国葬に反対する声が大きくなる最大の原因ではないでしょうか。
「国政選挙を6回にわたり勝ち抜き」という表現は、政治性・党派性を強く帯びるもので、排他的なニュアンスを感じます。
明確な法的根拠がない中、国会で議論しないで閣議決定によって国葬を決めたことも、権力者による権力者のための国葬であることを浮き彫りにしています。
岸田首相も首相という権力の座にいます。その権力者が、長く権力の座にいた者のために国葬を行うと決めたのです。権力者による権力者のための国葬であることが、閣議決定から時間が経過する間に明らかになり、国葬に反対する世論が高まっているのです。
時事通信が9月9日から12日に行った世論調査では、国葬については「反対」が51.9%で、「賛成」は25.3%です(時事ドットコムニュース 2022年9月15日)。
また、共同通信社が9月17日、18日に行った世論調査では、国葬に「反対」「どちらかといえば反対」が計60.8%を占め、「賛成」「どちらかといえば賛成」の計38.5%を上回っています(日本経済新聞 2022年9月18日)。
国葬を決めた閣議決定後、私も会員である東京弁護士会と日本ペンクラブが早い時期に声明を出しました。
全国各地の弁護士会も国葬に関して反対の声明を出しています。
いずれも憲法や法律上の観点から鋭く問題提起したものです。
また、地方議会でも国葬に反対する意思表示がされています。少数とはいえ、このような地方からの声にも注目したいと思います。
選挙で多数の票を得て権力を握ったとしても、恣意的にその権力を行使することは許されません。民主主義は多数決主義ではないからです。
憲法前文では、国民主権を宣言して「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する」としています。
国葬のために権力を行使するのではなく、コロナ禍などで苦しい状況にある人々のために信託された権力を行使し、その福利を国民が享受できるようにしてほしいと強く願います。
(本稿は2022年9月19日時点の情報に基づくものです)
文責 弁護士 大城聡
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