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医療情報を俯瞰する

さあ、始めましょう。

往復書簡マガジン「俺たちは誤解の平原に立っていた」の第3回目です。


連載1回目となる私の記事では、誤解の平原が広がっている中での私の決意を書かせてもらいました。


連載2本目となるヤンデル先生の記事では、彼の決意が語られていました。

まだ、お読みでない方はお読みいただければ嬉しいです。


さて、今回の連載3本目から、「誤解の平原」を進む人たちへの、医療情報についての解説を、本格的に進めていきます。

よーーし、やるぞ!

と気合入ってます。

だけど、何から書こうかで、めちゃくちゃ悩んで、この数日がすでにあっという間に過ぎてしまいました。熟慮の末に、ようやくキーボードを叩き始めています。

何でそんなに悩んだのか?

それは、

医療情報がぐちゃぐちゃに絡んだ毛糸玉だからです。

多彩な色の無数の糸でできた毛糸玉。その1本を引っ張ろうとすると、他の糸と絡んでいて抜けない。無理に引っ張ろうとすると、余計に絡んで、全くほぐせない。

そんなやっかいな毛糸玉。

もーー。と叫んで、ハサミでジョキジョキ切り始めてしまう人もいるのですが、この毛糸玉の糸はどれも大事なものばかりです。

雑に切ったりせずに、ゆっくりと、慎重に、ほぐしていきたいと思います。


今回、最初に選んだ糸は「情報の重なり」

この記事では、医療情報を俯瞰的に見て、正確な情報はどのように分布しているのかを解説して、情報の重なりに注目する重要さを説明したいと思います。


正確な情報を見つけるのは難しい

世の中には膨大の数の医療情報が広がっています。ご存知のように、その中には正確なもの、不正確なものが混ざっていて、区別するのは大変に難しいです。

皆さんはどのようにして、正しい情報かを判断していますか?

有名な教授が言っているから
この人はとても誠実そうだから
これはワイドショーで言っていたから

その物差しは正確でしょうか?

その探し方をして、怪しい情報を信じてしまったことがなかったでしょうか?

この往復書簡マガジンでは、その答えを見つけていく旅を、皆さんと一緒にしていきたいと思っています。読み進めてもらうと、徐々に情報の見分け方がわかってくると思います。

見分け方の第一歩として紹介したいのが「情報の重なり」です。


医療情報の分布

まず、世間に広がる医療情報の分布から解説します。この概念図を見てもらいたいと思います。この図では、あるテーマ(例えば、がんの予防法)に対しての医療情報がどのように分布しているのかを、正確性と、情報の重なりをもとに表しています。

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真ん中に行くほど正確で、外に行くほど不正確な情報という形で表しています。色々な場所に円が存在しているのは、様々な種類の情報があることを表しています。

まず、中心部に注目して下さい。

正確性の高い情報がたくさん集まっていることがわかるかと思います。これは多くの医療者や研究者が同一の見解を述べていることを表しています。それぞれの円の間には、周囲に若干のズレがあるものの、中心部はほとんど重ねっています。

それに対して、不正確な情報の領域をみてください。ここには孤立した円が複数存在しています。ほとんどは孤立していますが、若干名で重なり合っているものも見られはします。しかし、多数の重なりがあるものは見られません。

この中心部の重なっている情報こそが見るべきもので、それを発信している医師群こそが追うべき人たちということになります。

がん予防という観点で一つの例をあげますと、中心部にあるのは「禁煙するとがん予防できる」というもの。日本でがん治療している医師のほとんどが同じことを言います。これはしっかりとした科学的根拠がある医療情報です。

それに対して、不正確な領域にあるものは、「禁煙はがん予防にならない」とか「牛乳を飲むとがんになる」などです。これらの情報はネットで見られることがあるのですが、少数の意見であって、明確な科学的根拠がある情報ではありません。

医療の世界では、一般的に情報の重なりが見られる情報ほど正確性が高く、逆に他の人とは重ならない自己主張ほど不正確であることが多いです。


なぜ、重なりは生まれるのか?

なぜ、このような分布になるのでしょうか?

その理由をシンプルにいうと、医療者も正確な情報が欲しいからです。

正確な情報とは、現時点で最も効果がある治療・予防法についての情報です。不正確なものとは、効果がはっきりとしない、本当に効くか良くわからない不確かな医療の情報ということになります。

医療者が興味のあるのは、本当に効果がある治療・予防法です。そのため、その情報を集め、それを語る人が最も多くなるのは当然の成り行きです。

かつて、情報の流れが遅い時代には、効果が高い治療の情報がなかなか広まらずに、一部の医療者しか知らないという事態がありました。しかし、現代では情報の広まりはとてつもなく早いです。

効果の高い新治療が発見されたという論文が発表されれば、その日のうちに電子版の論文が世界中を駆け回ります。そして、その情報は医者の集まりである学会で共有されたり、医者間で伝え合うことで、末端までどんどん広がっていきます。

また、医療者自体も必死でその情報を集めています。なぜかというと、とても効果の高い治療があるのに、それを患者さんに行わなかったということになると、下手をすれば訴えられかねないからです。医療界では時代遅れの治療をし続けていることは強い批判を受けます。


重なりを探す難しさ

情報の重なりを見つけると、そこには正確な情報が広がっている。では、その中心部「正確性のコア」はどうやって見つければ良いでしょうか?

端的に語ると、正確性の高い情報を提供する国際機関・政府機関の情報を見て、また多くの医療者が語る情報を見て、共通する情報を見つける。そこに「正確性のコア」があります。

なんだ簡単そうじゃないと思ったかもしれません。でも実際は、そんなに簡単なことではありません。残念ながら、毛糸玉は恐ろしいまでに複雑です。

なぜ簡単ではないかというと、以下にあげるような要因があって、正確性のコアを見つけにくくしているからです。

・不正確な情報ほど拡散されて、目に入りやすい
・不正確な情報ほどわかりやすく、受け入れやすい
・不正確な情報ほどお金につながるため、扱う人が多い
・正確な情報を知る人はあまり発信をしていない

そのため、中心部にある正確な情報は目立たず、逆に周囲の不正確な情報ほど目立ちます。結果的に、周囲の不正確な情報の方がコアだと勘違いしやすいのです。



さあ、私は最初の糸をちょっとだけほぐしました。まだまだほぐす糸はあります。次はヤンデル先生にバトンタッチして、この話をさらに進めてもらおうと思います。

次回のヤンデル先生の記事をお楽しみに!

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大須賀 覚

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アメリカ在住のがん研究者。ひどい医療情報が広がる世の中で、どうしたら患者さんを救えるのかと考えています。