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不正確な情報はやさしい

さあ、スタートしましょう!!


前回の私の記事では、医学における正確さは常に変化するという話をしました。



それに対するヤンデル先生の記事では

なぜ、ガンキャノンが好きなのかという話。。。

ではなくて、医療情報が更新されるというのは、どのようにされるのか、積み上がってきた情報の最後の少しが変化するのであって、根底から変わるものではないという話でした。

私の大好きな記事でした。ちなみに、私はガンダムではアッガイが好きです。


さて、今回は正確さとはちょっと離れて、医療情報のやさしさについて深めていきたいなと思います。


私は医療情報発信をしていて、時々悩むことがあります。

「私の医療情報発信はやさしいのだろうか?」と


私は、「やさしさ」こそが医療情報発信におけるメインテーマだと思っていて、以前からこの言葉の意味を追い続けています。


「やさしさ」という言葉には色々な意味があると思っています。

「理解しやすさ」「平易」という意味での「やさしさ」。
「心がこもった」「温かい」という意味での「やさしさ」。
色々な意味が含まれる深い言葉だと思っています。


医療情報発信にはこの「やさしさ」が求められていると思っています。専門用語を使わずに、平易な文章で書かれていて、また気持ちがこもっている内容で、冷酷ではなく、心配りのある書き方。それが正しい医療情報を伝えるには大事だと思っています。


ただ、目を向けないといけない現実があります。

嘘はもっともっと「やさしい」という事実です。


例えば、がんの患者さんに対して、「あなたのがんには、手術・放射線・化学療法を組み合わせた治療を行います。多くの場合は、最初の治療で一旦落ち着いた状態にすることができます。しかし、多くの方は2年以内に再発してしまいます。再発後は治療手段は限られていて、現状では5年生きられる方は10%ほどとなっています」と伝えたとします。

これは数百人規模の患者さんの治療データに基づいた正確な情報ではあるかもしれないですが、厳しい現実をつきつける情報です。

もちろん、この内容をもっと小分けにして、時間をかけてゆっくり伝えていったり、言葉を変えることで、もう少しショックにならないように伝える手段はあるかもしれません。しかし、厳しい現実を変えることはできず。要点となる情報を伝えることに変わりはありません。

これが「やさしい」情報と言えるでしょうか?


それに対して、以下のように伝える医者がいたとします。

「もう治すことは難しいと言われたのですね。それは本当に辛かったでしょう。諦めることなんてないんです。私はそのような患者さんにたくさんの奇跡を起こしてきました。まずはこの海藻を食べてみてください。ちょっと高いですが、奇跡を起こせるかもしれない。一緒に頑張りましょう。」


何とも怪しい話だと思った方もいるでしょう。もちろん、その海藻に奇跡の効果があると確認されているわけではなく、効いているのか効いていないのかも、正確に調べもしていない食品を治療として勧めていて、とても不正確な情報です。

ただ、「何としても治したい」と藁にもすがる思いで治療を探している患者には、この嘘の方がはるかに「やさしい」です。

話の流れもシンプルです。何%の人がどうのとか確率の話ではなくて、「海藻食べる→治る」という単純な繋がりしかありません。


そう。嘘をつくと、事実と異なるほど、医療情報は「やさしく」なります。


事実を正確に伝える。それは時に、痛烈に冷たく、厳しい現実を患者さんに突きつけます。


医療者だって思うんです。
「嘘をつければ、どんなに楽か」
「治るといってあげれれば、どんなに患者さんは喜ぶか」


だけど、嘘をつくことはできません。一時的に喜ばせても、病気は進行してしまい、厳しい現実に直面しないといけない時が来てしまいます。その時には話が違うと関係が崩れてしまう。

その患者さんの治療に責任を持って、未来を預かっているからには、たとえ厳しい現実でも、事実を伝えた上で、一緒にできることを見つけていくしかありません。


また、正確性の高い医療情報は「AすればB」という簡単な話にはなり得ません。人がそもそも複雑系で、病気も複数の因子が重なって起こるものです。正確性を突き詰めるほど、それは単純ではなく、確率論になってきます。


「正確さ」と「やさしさ」というのは正比例ではないんです。

正確さを追求すればするほど、それはわかりにくく、冷たくなってしまう。

正確な医療情報を「やさしく」伝えるということは、時に、絶対に解けない連立方程式をとくのと同じになります。


その関係を知ることも、医療情報を正確に理解するためには大事です。

その限界の中で、医療者・研究者は様々な工夫をして、正確な情報の伝達の中に、最大限の「やさしさ」を求めています。

そこに、医療情報を伝えることの真髄があると思っています。



「正確さ」と「やさしさ」の関係を知ってもらったところで、皆さんにお伝えしておきたいことがあります。

それは「やさしさ」を追求していった先にあるゴールについてです。


もし、あなたが「やさしい」医療情報を限りなく追い求めていったとします。出来るだけわかりやすい情報、出来るだけ優しい情報を。

その追求の先にあるのは何でしょうか?

それは嘘であることが多いのです。


がん患者さんの中には、ネットで治ると言ってくれる人をひたすら探す方がいます。その気持ちは本当に痛いほどわかります。

その結果として、躊躇なく嘘を言う医者の元にたどり着いてしまったりします。そして、本当に良い医者に出会えたと安心されていたりします。

それが本当に良かったのかどうか、嘘でも希望を口にする医師がいい人なのか、私にはわかりません。

それが正解かは患者さんが選ぶことです。しかし、これからの未来を誤解しているのであれば、あとで後悔する時がきてしまうのではと心配に思います。


耳障りの良いことのみを言ってくれる医療者を探すのではなく、現実に向き合ってくれる。未来に責任を持ってくれる医療者を探すことが、その人らしい人生を歩んでもらうためには必要なのではないかなと、私は思います。


治療が難しい病気になった時に、正確な医療情報を的確に手にするのは簡単なことではありません。

それは世の中に不正確な情報が多いからということだけではなくて、正確な情報を受けとめる心の強さも求められてしまうからです。

誤解の平原を歩むには勇気も求められるのです。

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大須賀 覚

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アメリカ在住のがん研究者。ひどい医療情報が広がる世の中で、どうしたら患者さんを救えるのかと考えています。