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僕が通っていた高校は、
金沢桜丘(さくらがおか)高校という
石川県の金沢市にある県立高校だった。

文字通り丘の上に建っていて、
校門にたどり着くには
長くて急な坂を登っていく。
その坂の両側には桜並木があって
春には桜吹雪の中、僕らは登校していた。
よくある話だが、
この坂も「遅刻坂」と呼ばれていて、
自転車で通っている僕は、
ゆっくり桜を眺めながら登った記憶がない。

金沢は実は坂の多い土地で、
寺町台地と小立野(こだつの)台地という
二つの高台に挟まれて
犀川と浅野川という
これまた二つの川が流れる平地が広がる。
そんな街だ。

僕は高校時代剣道部で、
自分は特に優秀な選手ではなかったけど、
部自体は県内でもトップクラスの強さで、
練習はかなり厳しかった。
だから、なんで毎日自転車通学してたのか
今考えてもよくわからない。
わざわざ早起きして登校し、
練習でヘトヘトに疲れた体で帰宅する。
これをずっと続けていた。

それでも毎日通っていると、
少しでもかかる時間を縮めようとして
かなり飛ばしてた記憶がある。
最高記録20分、と、うっすらと覚えているが、
今ネットで調べてみると、
この道のりは車でも18分かかる。
しかも坂だらけの道だ。怪しい記憶ではある。

家を出て、坂を降りるところからスタートする。
この坂は桜坂と言う。
桜坂から桜丘高校へ。冗談みたいだが本当だ。
桜坂には二つのルートがあって、
一つは石段の坂道。
こっちは風情があるが、自転車は通れない。
もう一つはまっすぐな坂で、
こっちを通っていた。
かなりの急坂でけっこうスピードが出た。

坂を降りると犀川が流れている。
そしてまた冗談みたいだが、
桜橋という橋を渡る。
ここからは平地かと思いきや、
ダラダラとした登りが続く。
少し上がると右手に兼六園があって、
その先に金沢城、石川門がある。
兼六園自体が丘になっていて、
登ったその先が小立野台地になる。

僕はそっちには登らずにここからは少し下る。
すると今度は浅野川が現れる。
犀川は男川、浅野川は女川と呼ばれていて、
犀川はおおらかな流れだが、
浅野川はたおやかだ。

浅野川大橋を渡ると
「ひがし茶屋街」と呼ばれる
昔花街だった場所がある。
今でこそテレビでよく見る観光スポットだが、
そのころはそんなに
観光客がいたような気はしない。
当時の僕がそんなことに
全く興味がなかったからかもしれないが。

ここからはひたすらまっすぐ。
風景にもあまり変化はなく、
最後、右に折れて遅刻坂に突入、
ゴールする流れだ。
この時点で体力はかなり消耗しているが、
自転車から降りず行けるとこまで行く。
昔は元気だったなあ、と改めて思う。

東京に来てからの方が長くなって久しいが、
今思うと毎日観光地のど真ん中を
突っ切って走ってたんだなと思う。
当時は全くそんなこと思わなかったけど。

去年、久しぶりに帰ったので、
思い切ってこのルートを歩いてみた。
1時間以上かかったが、
風景を眺める余裕があって楽しかった。
途中、自転車では
曲がったことのなかった角を曲がって、
ひがし茶屋街にも行ってみた。
思いっきり綺麗になっていて、
古いはずなのに何か新しい感じがした。

そこから少し行ったところに
老舗のお茶屋さんがある。
こっちは茶葉を売る店。少しややこしい。
金沢には加賀棒茶というほうじ茶があって、
これがすごくうまい。
店から香ばしい香りが漂っていて、
思わず暖簾をくぐった。
おばあちゃんが一人でやっていて、買う時に
「このお茶は必ずネットで。必ずネットでね」
と言うので、
なんだ、老舗も新しくなっちゃってるな、
と思ったのだが、
よく考えると、ネットじゃなくて熱湯だった。

そりゃそうだよね。

次回の言葉は「疲れる」です。


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