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フリーレンは、おじさんの胃に優しいアニメ

いまシニア世代に勧められるアニメをひとつだけ選べと言われたら迷わずコレです。「葬送のフリーレン」

刺激が強いわけではなく、かと言って凡庸ではなく、落ち着いているのに深いところに刺さって、いい後味が残ります。

絵のクオリティはもちろん、音楽の質もめちゃ高い。演出がとにかく上手くて構成と細かい部分の気の利かせ方がすばらしい。

と、とにかく褒めまくりましたが、まあ気に入っています。

今の歳になっても別に「呪術回戦」のバトルシーンも好きだし、「陰の実力者になりたくて」のぶっ飛んだギャグにもしっかり着いていけると思ってるけど、たまに胃にもたれる感じがするんですよね。

その点フリーレンは、あっさり味だけど繊細で奥深い、贅沢じゃないけどいい料理出す店、的な感じ。栄養バランスが体にいい。いい意味で枯れてるので、そのへんがシニアに最適だと思います。

それじゃあ若い人には物足りないのか、というとそうでもないみたいで、世代に関係なくウケてます。まあ若くても胃もたれはあるしね。とはいえ年齢によって感じ方は違うと思います。感情移入の場所がちょっと違う。

この物語のテーマが「時の流れ」だったりするので、その中で描かれる「年齢」は結構キーになってたりする。そういうタイプの話そのものが珍しいんだけどね。

主人公のフリーレンが長寿のエルフで1000年以上生きてる。だけど見た目は少女っぽい。性格も年寄りっぽくもあり子供っぽくもある。なんかこの辺がシニア層としても微妙にくすぐられる。こう言うと身もふたもないけど、実年齢と見た目の年齢が違って、年齢にそぐわない能力があるキャラクター。

そもそもストーリーが「勇者が魔王を倒した後から始まる話」なので、これも見方によっては「サラリーマンが定年を迎えた後から始まる話」に見えなくもない。
フリーレンは一旦引退して、だけどその後も人生は続いていく。そこで初めて気づく過去の大切なもの、みたいな感覚は定年後と同じと言えば同じ。

たぶん若い人はそんなことカケラも思わないだろうが。

この話、年齢なんて関係ない、と言っているようで、歳とか時代の違いってすごく重いんだよって言ってるようでもある。作中「人間」は普通に歳を取る。結果どんどん先に逝ってしまう。

フリーレンが元いた勇者パーティーに「ハイター」という僧侶がいて、魔王を倒した時は若かったんだけど、その後当然年老いて亡くなってしまう。この年老い方がなかなか良くて、ありのままに老けるんだが、なんか静かで含蓄があるいい爺さんになる。

見る側の年齢によってどのキャラクターに共感するかはかなり変わると思うけど、私だってフェルンやシュタルク(若い)の気持ちもわかる。だがふと気づくとハイターやアイゼンみたいな見守り育てる側に感情移入してしまう。そんな中でフリーレンはどっち側にもなるんだよね。それがこの物語の絶妙なところ。

記憶の量と時間の器

それにしてもこの物語には年寄りがいっぱい出てくる。最新の回でも300歳のドワーフと頑固ババアが出てきた。年寄りが出てくるときは「記憶」がテーマになってくる。人は忘れる。忘れることは辛いことだけどだからこそ記憶は大切で、忘れないことの価値が描かれる。

自分も(特に最近)すごく忘れるので(とほほ)記憶についてもよく考えるんだけど、子供の頃、記憶が鮮明なのは容量に空きがあるからで、歳を重ねると器がいっぱいになって新しいものが入れば何かがこぼれてしまうって聞いたことがあります。
そもそもいろんなことを覚えれば、頭の中がモノでいっぱいの部屋みたいになってるんだろうから、そこから何かを探すのは難しいよね。ああ見つからない、って諦めたくなる。
長く生きてるからって頭の器が大きくなるわけじゃないので。

時間という器の中で、まあ長く生きてるんだからそこにはいっぱい記憶がある。それって財産。たまに引っ張り出して使わないとカビが生えてしまう。風を通さないとね。そんなことを考えさせてくれるこのアニメは私にとってかなり貴重なのです。

ああ、大掃除どうしよう…。

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