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和田誠さん、きっと『お楽しみはこれからだ』 。本当にありがとうございました。


イラストレーターの和田誠さんが亡くなった。

ボクは58年生きているのだけど、中学生だった1970年代中盤くらいから、今に至るまで、和田誠さんのイラストを身近に見なかった日々はない。

つまり、ほぼ、人生たっぷり、和田誠さんの美意識とやさしい線に影響されてきた。

そして、彼の好きな映画や音楽にも、とても強く影響されてきた。

なんて幸せなことだったのだろう。

心から感謝したいし、限りない尊敬をお伝えしたい。


一番古い記憶は、ハイライトを除けば、やっぱり星新一の挿絵からだろうか。

※タバコの「ハイライト」のデザインは和田誠さんだし、父親がずっと「チェリー」か「ハイライト」を吸っていたので、この美しいデザインはずっと身近に見てはいた。それにもきっと影響されているけど、でもまぁタバコには興味なかったからなぁ(いままで一回も吸ったことないし)。


和田さんによる星新一の挿絵は、あまりに本文と合体しすぎていて、なんというか、もう「本文」だった。

星新一の素晴らしいショート・ショート群も、もし和田さんのイラストがなければ違った印象になっていただろう。面白さも数割減だったかもしれない。

そんな挿絵は他にない。
あえて言えば、椎名誠にとっての沢野ひとしの挿絵もある時期そうだったかもしれない。

そして、星新一以降も、いろいろなところで和田さんのあの「優しい線」を頻繁に目撃するわけだが、「あ、星新一の人だ!」ってすぐわかる。すぐわかるわりに、印象が引きずられない。

つまり、星新一のときと線やタッチはいっしょなのに、なぜかちゃんと「その作家の挿絵になっている」のである。

こんなイラストレーターも、そうはいない。


挿絵だけでなく、彼自身の著書もかなり追った。

著書は数が多く、全部は追えていないけど、最初期の著作『お楽しみはこれからだ』(1975年)には本当にハマった。

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これは、映画の名セリフをひとつ取り上げて、それに彼のイラストをつけ、彼の軽妙かつ博覧強記かつとっても楽しげなエッセイもつく、という夢みたいなシリーズである。

こういうタイプの「映画エッセイ」としては草分けであり、白眉でもあると思う。

もう何度も何度も再読し、ここで取り上げられているセリフをきっかけに映画をたくさん観に行った。

わりと「映画好きなら観ておいたほうがいい古典や名作」を取り上げてくれているので、ボクの「映画的教養」はほとんどこのシリーズで作られたと言ってもいい。

たとえば第一巻だけで、これだけ多くの映画が取り上げられている。

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みなさん、この中で何本観てますか?

ある種の教養的な、こういう名作を教えてくれ、追わせてくれたことが、ボクの中でどれだけの肥やしになったか。

これらの映画を、高校大学時代、何度も何度も「読んで味わった」ことが、ボクの教養の基礎になった。

実際に全部は観ていないのだけど、イラストや文章が絶妙なので、なんか観た気になったしw 

なんだろう、実際に映画で観るより、和田さんの脳みそというフィルターを介したあとのこの本のほうが楽しい、ということがたくさんあった。

ボクは、和田誠さんの追体験として、映画を観ていたのだなぁ。


彼の映画エッセイはほとんど追っている。

その中でも、山田宏一との対談はとても好きだった。
山田宏一の単著もいいんだけど(挿絵はもちろん和田さん)、やっぱり博覧強記のふたりがカジュアルに楽しげに映画の蘊蓄を披露しあうのが本当に眩しくて、うらやましくて、いつかこういう大人になりたい、って渇望したなぁ。

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山田宏一の本は納戸にもっとたくさんあるけど、手元にも数冊あったので撮ってみた。懐かしい。読み直してみよう。


あ、上の写真で、左上に写したのは、和田さんがスタンダード・ナンバーについて書いた本。

これも名作で、何度も読んだし、これを元にスタンダードを聴いていった。

表題の「いつか聴いた歌(I've Heard That Song Before)」なんかは、文中に書いてあるヘレン・フォレストが歌ったものを聴きたくて、アマゾンがなかった当時、とにかく足で原盤を探しまくったものだった。


あぁ、なんだろう、書けば書くほど、人生でどんだけお世話になっているんだ、と思う。

美しくシンプルで優しいイラストやデザインからの影響。
彼が好きな映画の影響。
彼が好きな音楽の影響。

とにかく、ボクは彼をトレースして生きてきた

こうして書きながら、そう思う。

内面で、ものすごく影響を受けて生きてきた。


残念ながら、一度もお会いする機会がなかったけど、いつかちゃんとお伝えしたいと思っていた。

和田誠さん、本当にありがとうございました。

あなたは、なんて、素敵なんだろう。




彼が監督した映画も好きだったな。
一番印象に残っているのは『麻雀放浪記』。
ちょっと映画が好きすぎて頭が飽和しちゃっているんだろうなぁと思わせるディレクションだったけど(和田さんを追いすぎて、思考回路がわかるので、観ていて緊張する)、なんか、もう、和田さんが撮っているだけで好きだった。

※※
亡くなる前の自宅療養中、和田さんは、『男はつらいよ』シリーズや『雨に唄えば』などの映画を毎日楽しみ、就寝前はフランク・シナトラを聴いたそうだ。
和田さんらしいな。
やっぱその辺に収束するんですね。

※※※
でもね、和田さん。
YOU AIN'T HEARD NOTHIN' YET!ですよ。
お楽しみはこれからだ。
和田さんがいるあの世は、きっと楽しいだろうなぁ。。。

ボクにとっても、お楽しみは、これからだ。



古めの喫茶店(ただし禁煙)で文章を書くのが好きです。いただいたサポートは美味しいコーヒー代に使わせていただき、ゆっくりと文章を練りたいと思います。ありがとうございます。