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バー開業顛末記⑥「理想的な物件に出会ってしまった」

※バー開業顛末記を最初から読みたい方はこちらから。


つ、ついに出会ってしまったかも!

物件を探し始めて1年弱。
この物件を内見した時の率直な感想である。
(そう。。。わりと長く探したのです)

前回、物件のイメージについてこんなことを書いた。

ボクは "住むように" そこにいる。
外食にも旅にも行かず、静かにひっそり、でも独り楽しくそこにいる。
仕事したり書き物したり本を読んだり音楽を聴いたりしながら、ゆっくりのんびり生きている。
そこに友人や知人がひょこっと顔を見せてくれる。そして親密な会話が始まり、終わる。そしてにこにこ帰ってゆく。
余情残心。一期一会。独座観念。ボクはまた独りに戻って静かに楽しくそこにいる。

バーの「営業」というより、毎日の「営み」に近い、そんなイメージ。

そしてそこは繁華街の一角ではない。
雑居ビルの飲食店フロアの一室でもない。
三角平地のように「静かでひっそりした場所」だろう。

そう、まさにこんな「イメージ通りの物件」がまさかのまさかで見つかったのだった。

・隠れ家である(「静かでひっそりした場所」にある)
・住宅街の一軒家である(繁華街や雑居ビルの一室とかではない)
・独り楽しくそこにいられる(本も多く置けそうな、ちょうど良い広さである)

そしてなにより、友人に「会いに来てもらう」にもとても良かった。

・駅近である(JR山手線「恵比寿駅」から程近くとても便利)
・外観も内装もおしゃれでちょっとアガる(ヨーロッパ風)

いや、これは理想的かも。。。


ついでに言うと、

・「暗くて狭い路地をくぐって急に視界が開けるアプローチ」を持つ

というのも素晴らしかった(説明はのちほど)。

あぁ。。。探した甲斐があったなぁ。
今度こそ、契約まで漕ぎつけないと!


何が素晴らしいって、まずはその立地である。
もう「隠れ家中の隠れ家」だった。

ものすごく隠れてる。
隠れまくっている。
なにしろ「Googleマップに載っていない細道」を通るのだ。
それもヒトがひとりようやく通れるレベルの細道なのである。
(※マップに載っている道にもももちろん通じているのだが、一番便利でわかりやすい道は、基本載っていない細道を通る)

そして住宅街の一軒家である。
付近に店は一軒もない。普通の住居っぽい3階建ての1階だ。
商店街とかによくある「1階でお店をやる前提で2階を住居にしている感じ」ではなく、住居前提で1階をお店用に改造した感じ、と言えばイメージできるだろうか。
そう、普通に住居みたいなお店なのである。繁華街や雑居ビルの一室はちょっと違うなぁと思っていたボクにぴったりだった。

そして間取り&広さもちょうど良かった
上でも書いた、

ボクは "住むように" そこにいる。
外食にも旅にも行かず、静かにひっそり、でも独り楽しくそこにいる。
仕事したり書き物したり本を読んだり音楽を聴いたりしながら、ゆっくりのんびり生きている。

というイメージを実現できそうなちょうどいい広さ。

本棚に3000冊くらいの本を収納でき、できれば仕事する空間も欲しいなぁ、昼寝をするソファも置きたいなぁと思っていたのだけど、そういう用途にちょうどいい広さだった。

そして、ワンオペでやるつもりだから、無駄に広くても対応できないし、広いと家賃も高くなる。そういう意味でもちょうど良かった。


友人を迎えるにもとてもいい。
「会いに行けないから、会いに来て」というコンセプトだから、友人が来やすいことは必須だったのだけど、JR山手線「恵比寿駅」からほど近いこの立地だったら大丈夫だろう。

そう、隠れまくってるのに「駅近」だ。
そしてなにより山手線沿線。便もいい。申し分ない。

「山手線沿線 & 駅近」だと家賃がどうしても割高になるが、ぎりぎり許容範囲であった。自分の中の経営シミュレーションでもなんとかなりそうな範囲。その周辺の店より割安なのでお得感もある(まぁ隠れまくっているからね)。

しかもなかなかにおしゃれで品がいいじゃないか。
外観はヨーロッパ風(↓)。

昼に見るとこんな感じ(この写真はドアを赤く塗った後。以前は窓枠と同じ色のドアだった)


外観もおしゃれだけど、内装もおしゃれだった。
元々は知る人ぞ知るイタリアン・レストランだったらしい。

できれば「居抜き物件」を探していたのだけど、イタリアン仕様をそのまま居抜きでバーにするのは難しい。ただ、元々がおしゃれだとリノベもしやすいだろう。

いろんな意味で、これはマジで理想的な物件なのではないだろうか??


この物件に出会うまでの紆余曲折を少しだけ書いておくと。

探し始めたときは、山手線の左下(渋谷〜恵比寿〜目黒〜五反田〜大崎〜品川)あたりに絞って、いろんな不動産屋に飛び込んで探していた(あとはネット)。

とにかく友人たちが来やすいことを考えると山手線沿線がいい。また、左下あたりだと家からも比較的近いというのがその理由だった。

でも、当然のことながら飛び込みで見に行って偶然に「いい物件」に当たるわけもない。また、ネットで「いいな」と思った物件もほぼ釣り物件。もう契約が決まっている「いい物件」で釣って、他のを勧めてくる。

こりゃ埒あかん。
やり方を変えて、友人がお店を探すときに世話になった不動産屋さんを紹介してもらい、その不動産屋さんに任せることにした。

その不動産屋さんにこちらの希望をお伝えして「いい物件があったらご連絡ください」とLINEを交換したのであった。

そしたら!
いきなり翌日から「こんな物件が出ました!」と連絡をくれるではないか!

いやぁ、これは便利だなぁ、と思ったのは最初のうちだけ。
そのうちにどんどんプレッシャーになっていった。

だって、ボクが探している「ちょっと特殊な物件」なんてなかなか出ないのだ。だから断りまくることになる。「毎回断る小うるさい客」みたいな感じにどうしてもなってしまう。

なんか申し訳ないなぁ。。。
毎日のようにそう思いながら、心を鬼にして断り続けて約1年、ある日、五反田の池田山に「いい物件」が出たのであった。

いま考えてもなかなかの物件だったのだけど、スケジュールが合わなくて内見に行くのに数日かかってしまった上に、ちょっと迷いが生じ、決断までも数日かけてしまった。

で、「ここでお願いします!」と申し込んだときには、もう他の方に決まってしまっていた。

そして学んだ。
そうか、「ここかも!と思った瞬間に即決断!」くらいの瞬発力が必要なのだな。いい物件は少しでも迷っていると他の人に取られてしまうんだな。

おかげで覚悟が決まった。
臨戦態勢だ。


そこから約半年。
内見は5軒くらいしたけどイマイチで、あとは50軒くらいは断っただろうか。待った甲斐があってようやく「この物件」に巡りあったのであった。

LINEで送ってくれた間取りと立地を見た時点で「これかも!」と思い、すぐ内見を申し込み、内見した瞬間に「GO!」を出した。

「ここだ。ここ!」

内見は先着トップであった。
そして同時に不動産屋さんから大家さんに「申し込み」をしてもらったので、先着順ならもうボクで決まりである。

ただ、残念ながらこの物件は「先着順」ではなかったのであった。

申込がある程度集まってから大家さんが選ぶ方式。
うーん・・・。
メンバー制バーは「怪しい人たちの集まりかも」と思われがちなので、じっくり考えられると不利である。困ったな・・・。

そこでボクは手紙を書いて大家さんに渡してもらうことにした
「自分は怪しいものではない」というアピールと、「どんな店がしたいか」ということを具体的に書いて「変な店にはならないですよ」とわかってもらうことが目的である。

この手紙が効いたのかわからないけど、翌週くらいに大家から合格の連絡が来たのであった(祝!)。

よかったなぁ。。。

ちなみにちょっと蛇足になるけれども。
この物件にはもうひとつとても気に入った部分があった。

冒頭にも書いたが、暗くて狭い路地をくぐって急に視界が開けるアプローチを持つ、というのがそれだった。

どういうことかというと、この店に辿り着く過程で「暗くて狭い路地」を通るのである。

本当に暗い。夜なら真っ暗だ。
本当に狭い。人がすれ違えないような細い路地を通る。

そしてそこからぽっかりと「開けた場所」に出るのである。

このアプローチ。
実はすごく気に入っている。

なぜそんな立地を気に入ったかを説明するだけでここから2000字くらい書きそうなので、その理由の一端をnoteに書いた。
ぜひこちらを読んでください。
自分で言うのも何だけどなかなかいい「まとめ」だと思う。タイトルは大仰だけどわかりやすく書いています。


このnoteの中で、こんなことを書いている。

ヴォーリズの設計の優れた部分のふたつめは「暗い」ということ
ヴォーリズの建物は内部が暗い。だから対照的に外が明るく見える。建物内から外に出た瞬間にその明るさに驚愕する。それは「学問の比喩になっている」という話。
学校の「建築物としての構造」は「学びの構造」の比喩になっていないといけない。
これは内田ブログでも何度か語られてきたことである。つまり、「暗い」=学問的に未熟なこと。「明るい」=学問的な発見や到達。暗いところから明るいところへ飛び出していく感覚を身体的に持たせる建築こそ学校にふさわしい、というお話である。

ここで書かれている「暗から明へ」

これは、例えばだけど、「となりのトトロ」でも描かれる。林の中の暗い穴を通ってトトロがいる空き地にぽっかり出る。

「千と千尋の神隠し」でも描かれる。暗く心細いトンネルを抜けるとあの街に辿りつく。

もちろん「だれも知らない小さな国」の三角平地もそうだ。暗い林を抜けていくとぽっかりそこに出る。

幾多の物語でこのアプローチは用いられている。
これらはすべて発見到達希望の比喩であり、気持ちが開け、新たな展開が始まる予感を「身体性」をもって描いている

もちろんボクのバーごときにそんな大層な比喩を用いるのもおこがましいが、ボクはこのバーに至る「暗から明へ」のアプローチに勝手にそれを感じていた。

来てくれる人の気持ちが開け、新たな展開が始まる予感。

そんな感覚を「身体性」をもって感じられるようなアプローチかもと、ボクは勝手に思って喜んでいたのである。


ちょっと蛇足が長くなったけど、今回はここまで。

物件の次は内装工事。
リノベである。
ここで頼りになる後輩の登場である。(続く)


古めの喫茶店(ただし禁煙)で文章を書くのが好きです。いただいたサポートは美味しいコーヒー代に使わせていただき、ゆっくりと文章を練りたいと思います。ありがとうございます。