聖書や神話を知らんと理解できんアートが多いのでエピソード別にまとめてみる(旧約聖書篇11) 〜「ベストヒット・アブラハム!」
「1000日チャレンジ」でアートを学んでいるのだけど、西洋美術って、旧約聖書や新約聖書、ギリシャ神話などをちゃんと知らないと、よく理解できないアート、多すぎません? オマージュなんかも含めて。
それじゃつまらないので、アートをもっと楽しむためにも聖書や神話を最低限かつ表層的でいいから知っときたい、という思いが強くなり、代表的なエピソードとそれについてのアートを整理していこうかと。
聖書や神話を網羅したり解釈したりするつもりは毛頭なく、西洋人には常識っぽいあたりを押さえるだけの連載です。あぁこの際私も知っときたいな、という方はおつきあいください。
まずは旧約聖書から始めます。旧約・新約聖書のあと、ギリシャ神話。もしかしたら仏教も。
なお、このシリーズのログはこちらにまとめていきます。
旧約聖書の冒頭は、なかなか壮大で面白い。
天地創造も、アダムとエバの話も、ノアの箱舟物語も、ヘンテコな部分はあるものの、まぁ面白いしわかりやすい。
でも、その次に来る「多くの民の父であり、信仰の父であるアブラハム」からヤコブ、ヨセフへと続く「族長たちの話」になると、急にわけわからなくなる。
ストーリーも複雑になる上に、なんか現代人にはとっても共感しにくい話ばかりなのだ。
というか、やってることがめちゃくちゃだ。
「ねぇねぇ、この人たちホントに尊敬されてるの? ホントに民族の父たちとして慕われているの?」って疑問が、読んでいる間ずっと頭を渦巻く。
だから、この辺で旧約聖書を読むのやめちゃう人、多いと思う。
「うげぇぇぇ、旧約聖書ってわけわからんわ」って。
わかる。
そりゃ「うげぇぇぇ」ってなるわ。
でも、読むのやめちゃうのはきっともったいない。
だって、世界トップに繰り返し読まれている古典なのだ。
キリスト教・イスラム教・ユダヤ教という3つもの宗教が教典とする物語なのだ。
時代を越えて生き残ってきた意味があるはずだ。
きっと、名画とともにくり返し味わっているうちに、この辺のトンデモ物語も、スルメのように味わい深くなっていくのであろう。
それに、ボクは聖書をちゃんと覚えたいわけじゃない。
名画を背景とともに理解し、ついでに小説や映画の元ネタをちゃんと知りたいだけである。
つまり、絵画でよく取り上げられる場面を中心に、聖書を超サササッと見て行ければいいのだ。
ということで、まず、ストーリーの細部は略して、名画のモチーフを中心に一回整理してみよう。
とりあえず、こういう流れだ(たぶんな)。
バベルの塔までは前回まででやったので、その後が「族長たちの物語」である。
聖書にくわしい人から見たらいろいろ乱暴だろう(すまん)。
でも、名画のモチーフで整理すると、なんか「ベスト盤」みたいな趣きになって楽しいなw
ベストヒット・アブラハム!
ベリーベスト・オブ・ヤコブ!
ヨセフ・ベストセレクション!
あと、人物の系譜(登場順)を知っておくのも、アートを楽しむためにわりと大切な気がする。
というか、聖書の登場人物の名前、西洋人と違って日本人には馴染みがないので覚えにくい。
ヨセフ? パウロ? イサク? ミカエル? ヤコブ? ペテロ? とか、ぐじゃぐじゃにならへん?
なので暗記法も考えてみた。
大学受験の「語呂で覚える」系。
族長つどう アイヤ寄席
すまん、しょーもないw
ええと、「アイヤ寄席 → アブラハム、イサク、ヤコブ、寄席フ」です。
最低限、順番を覚えておこう、というだけ。
このあと有名な「モーセの物語」になっていくとまだマシになるのだけど、この「民族の長たち」のストーリー、なんか頭に入りにくいのですよ。
せめて、「ええと、アブラハムはイサクを生んで、その次がヤコブで」とか順番を覚えておくと、芋づる式に「名画のモチーフ」も思い出されていいですよ、という程度です。アイヤー。
【追記】
覚え方だけど、シンプルに、
アー、イヤヨー!
でもいいかなと思ってきた。
ア(ー)ブラハム、イサク、ヤコブ、ヨ(ー)セフ。
この辺の物語、いろんな「イヤヨー」があるからねw
ということで、次回からは、まずアブラハムのストーリーだ。
上の図の中のアブラハム関連をハイライトするとこんな感じ。
表の順番でざっくりアブラハムの人生を見てみると、
(1)「アブラハムの旅立ち」
アブラハムは、わりと老人になってから、神の啓示に従って住み慣れた土地を離れ、一族とともに「約束の地カナン」(現在のパレスチナ)に移り住む。
その後、飢饉にあったのであっさりエジプトに逃れ、妻サラを売ったりするが、なんだかんだあって再びカナンの地に戻ってくる。
(2)「サラとハガル」「割礼の契約」
アブラハムの妻サラは、子どもが生まれないのを苦にし、女奴隷ハガルをアブラハムに与える。
そして息子イシュマエルが生まれる。
この頃、アブラハムは神に「割礼せよ。これが契約である」と無茶を言われ、男はみんな割礼する。
アブラハムはなんと99歳にして割礼する。
(3)「イサク誕生の予告(三人の御使い)」
ある日、三人の旅人(実は天使)が現れ「サラが妊娠するよ」と告げる。
そしてサラは90歳で身ごもり、息子イサクを授かる(このときアブラハムは100歳)。
三人の天使たちはソドムを遠く見て、「あの町はひどい。滅ぼす」と宣言する。ソドムは神への不信心と男色が蔓延る町だった。
(4)「ソドムとゴモラ」「ロトと娘たち」
ソドムにはアブラハムの甥のロトが住んでいた。
三人の天使はロトの元を訪れ、「いまからこの町を滅ぼすから逃げよ」と告げる。
ロト家族はなんとか町から逃げるが、妻は「絶対振り返ってはいけない」と神に言われていたのに振り返ってしまい、神に滅ぼされるソドムの惨禍を見てしまう。そして塩の柱になる。
その後、後継者がいないことを悩んだロトの娘たちは、父ロトを酔わせてレイプし(!)子孫を得る(ひどい話)。
(5)「ハガルとイシュマエルの追放」
無事にイサクを生んだサラは、跡取り問題で女奴隷ハガルの子イシュマエルが邪魔になり、アブラハムに「あいつ、どっかやって!」と訴える。で。アブラハムはハガルとその子イシュマエルを荒野へと追放する。
ふたりは放浪の末、死ぬ寸前に神に助けられる。
(6)「イサクの犠牲」
超有名な場面。
神はアブラハムに「息子イサクを生け贄として差し出せ」と命じ、彼の信仰を試す。アブラハムにはいまや子どもはイサクのみなのに。
アブラハムが山に登り祭壇を作ってイサクを殺そうとしたとき、天使がその手を止める。
アブラハムの深い信仰を知った神は、アブラハムを祝福し、子孫繁栄を約束する。アブラハムが信仰の父と言われる由縁。
(7)「イサクとリベカの結婚」
アブラハムは召使いをハランにやり、イサクの嫁を探してこいと命ずる。
そこで召使いはハランの井戸の側でリベカを見出し、連れ帰ってふたりは結婚する。
その後アブラハムは、175歳でこの世を去り、イサクとイシュマエルによって、マクペラに葬られる。
こんなお話だ。
もうね、細かいところを見ていくとキリがないし、共感できない要素も満載なのだけど、ストーリー自体よりも「アートをもっと楽しみたい」という観点から、アブラハムを追っていくことにしよう。
てなわけで、次回は旅するだめんず、アブラハムの旅立ちから。
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このシリーズのログはこちらにまとめてあります。
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間違いなどのご指摘は歓迎ですが、聖書についての解釈の議論をするつもりはありません。あくまでも「アートを楽しむために聖書の表層を知っていく」のが目的なので、すいません。
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この記事で参考・参照しているのは、『ビジュアル図解 聖書と名画』『イラストで読む旧約聖書の物語と絵画』『キリスト教と聖書でたどる世界の名画』『聖書―Color Bible』『巨匠が描いた聖書』『旧約聖書を美術で読む』『新約聖書を美術で読む』『名画でたどる聖人たち』『アート・バイブル』『アート・バイブル2』『聖書物語 旧約篇』『聖書物語 新約篇』『絵画で読む聖書』『中野京子と読み解く名画の謎 旧約・新約聖書篇』 『西洋・日本美術史の基本』『続 西洋・日本美術史の基本』、そしてネット上のいろいろな記事です。
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