【Fare&Qe】2.自己開示の魔法

世の中、面倒くさいなぁと思うことって多い。地域のゴミ捨て当番もその一つ。こちらの地域では、資源ゴミの日に当番が当たると、ゴミ捨て場に立っていなければならない。30分だけとはいえ、いや、30分だけだからか、面倒くさいなぁと思う。たぶん、みんなが面倒くさいなぁと思っているはず。

先日の資源ゴミの日は私が当番に当たっていた。朝食を食べ終えて、時間ぎりぎりにゴミ捨て場へ行くと、もう一人の当番の方がすでに来ていた。挨拶を交わしたあと、ゴミを持ってくる人たちのゴミ仕分けの手伝いにもならない手伝いをしながら当番としての務めに勤しむ。ゴミ捨てに来る人たちの波も落ち着くと、特にすることもないので、お互いに所在なげに並んで立っている。それでも、こういう場面で、となりに人がいて、そしてそれが知らない人であった場合、無言でいるのはかなり気まずいものである。そういうわけでとりとめのない話に興じることにした。話題はこれといって特別なことではなく、「今日は暖かいですねぇ」とか「今日の資源ゴミは多いですねぇ」とか、「ゴミの仕分けもなかなか難しいですよねぇ」とか当たり障りのないこと。でも、こういう会話って続かなくてすぐに途切れてしまう。そんなときは、「沖縄出身」ということを最大限に生かして話題を提供することにしている。そうすると、たいていの人は興味を持ってくれるので話が弾むのである。おそらく他府県出身といっても興味を持ってくれるだろうけど、「沖縄」はやはり特別なんじゃないかなと思う。沖縄は、政治的にも社会的にも何かと問題や話題になりやすいのは否めないけれど、一方で文化的、地域的独自性はどの地域よりも高いと思う。おかげで「沖縄」を話題にしておしゃべりに興じ、この面倒くさい時間を楽しく過ごすことができたのである。

ところで、出身を明かすということは、この時代にあってはわりとナーバスなことだと思う。私もためらいがないわけではけれど、ゴミ捨て当番で一緒になった人にこの程度の個人情報が悪用されるなんてことはそうそう起こらないはずだ。そういうわけで、出身を話題にすると、さらに話題はおのずとプライベートなことになる。それはちょっとした自己開示でもある。よくは知らない人に対して自己開示するのは様々なリスクもあるが、ここはあくまでもゴミ捨て当番という場面での話。むしろ、ここではこの自己開示がプラスに作用し、おしゃべりが弾んだ。気がつくと当番時間の30分を10分も超えてゴミ捨て場でおしゃべりをしていた。そしてそのときにはもう、面倒くささでいっぱいだった気持ちは消えていて、なんだか楽しい気分になっていたのである。

さて、当番を終えて、仕事へ行く支度をしていた。しかしだ、当番には最後のミッションが残されている。ゴミ捨て場の簡単な清掃と施錠をしなければならないのだ(この日は私が鍵の施錠当番であった)。もちろん、ゴミ捨て場の施錠はゴミが持ち去られたあとになる。出勤前までに持ち去られている確率はきわめて低いので、これは夜帰ってきてから清掃と施錠だな、面倒だが…。と思いながら化粧をしていると、家のチャイムがなった。見ると、先ほど当番で一緒だった方である。さっきのおしゃべりでこのあと出勤だと言ったのを気にかけて、施錠は自分がしておくから気にせず仕事に行ってという申し出をしに来てくれたのである。なんとありがたい!その言葉に甘えて、施錠をお願いし、私は心置きなく仕事に出かけることができた。朝起きたときにこんな展開が予想できたか?他人との良好な関係を築かせ、私自身の気分をも変え、思いがけず相手の好意に触れることができたのは、「自己開示の魔法」のなせる技である。

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