教育領域に関しての知識をちゃんとつける第二弾として、ポール・タフの『成功する子 失敗する子 - 「その後の人生」を決めるのか』を読んだ。
はじめは『私たちは子どもに何ができるのか ― 非認知能力を育み、格差に挑む』を読もうとしたのだけど、その前に書かれている書籍がこちらだったので。
本題から逸れる人物語りに挫けないで読んで
実は、1章から4章までは読み進めることが割と辛かった。別に悲観的なことが書かれているとかそういうわけではない。単純に読みづらいのだ。
どうして欧米のこういった書籍は、事例を語るときに、人物の人となりを事細かくドラマティックに書くのだろう。
ある問題児の話題が出る。読み手としては、その子がどうなるのかを期待しながら読み進める。話の途中でその子に関わった教師が出てくる。すると、その教師がその問題児にどんな影響を与えたのか?の結論を語る前に、今度はその教師の家族構成とか経歴とかを事細かく、しかも長めに何ページ分も語り始めちゃう。
あれ、さっき話題に上がってた問題児の名前なんて言ったっけ?となり、前に戻って読み返す。みたいなことが頻発した。
(フレデリック・ラルーの『ティール組織 ― マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』も、トニー・ワーグナーの『未来のイノベーターはどう育つのか?― 子供の可能性を伸ばすもの・つぶすもの』もそんな感じだった。ちなみにどちらも途中で断念してる。)
大量のエビデンスと共に示される知見・考察は 有益
が、その合間合間に、科学的検証に基づく、(私にとって)新しい知識が差し込まれるものだから読み飛ばすことができない。しかもどれも非常に興味深い。いくつかピックアップする。
幼児期における愛着(アタッチメント)の重要性
一言で言えば、幼児期の愛着(アタッチメント)はとても大事だということ。幼児期の対応が神経学的なレベルで脳の発達に影響することは知っていたけど、まさかゲノムレベルでの変異が起こるとは。
ここでポイントなのは子と常に触れ合う必要があるわけではない。ということ。
そう、子がなんらかのストレス下におかれた時のアタッチメントが特に重要なのです。
あれ、私の対応大丈夫かな?と思ったお父さん、お母さん方。大丈夫です。普通の育児をしていれば大丈夫。ここで問題として引き合いに出されてるの主に貧困層であり、そもそも育児の対応がほとんど皆無な状態なのだ。(それでも、もし我が子を十分にお世話できなかったと嘆いてる親御さんたちも大丈夫。子どもにとってこの時の出来事が何か決定的なことというわけではない。)
ただ、重要な事であるのはまちがいないので、我が子が泣いてたらいっぱいいっぱい抱きしめてあげてほしい。
やりぬく力を育むためには
ところが、同時に「やり抜く力」を育むためには、あえて逆境に立たせる必要も出てくる。
この本では、基本的には、貧困層の教育の課題にフォーカスを当てているのだけど、この「やりぬく力」の育みに関しては、むしろ裕福な層の方が課題があることを説いてる。
とはいえ、これ本当に難しいですよね。著者も語っています。
うん。そう思う。いずれにしても、アタッチメントとやりぬく力に関しては、親の関与は非常に大きいので、悩みながらも自分なりにやり続けるしかないのだろうな。
と、なんか長くなるので、学びの共有はこれくらいにする。
今回の私のレビューでは親の在り方にフォーカスを当てて紹介してますが、教師もまた大事な役割を担うことをたくさんの事例を持って説明してくれている。
最高だった第5章
第五章は今までの散漫とした情報を見事に自分に照らし合わせながらまとめ上げていて、素晴らしかった。
米国の大学は入学以上に卒業することが難しいのだけど、大学を中退した自分に関しての内省は人間らしくて著者に好感を持った。さらに、この後も、親として、研究者として視点で内省をしつつ、これまでの学びをまとめてくれるんだけど、その語り方も非常に謙虚で好き。
貧困層の子供たちを救うために
最後は再び、貧困層の子供たちを救うための改革の論点と経済合理性などを主張している。
親と同様に、教師はやはり教育の要なのですよね。特に貧困層は親に期待できないので、教師がより重要になる。
その上で、それでも貧困層に対する教育の強化に対して説得力としては、苦難に満ちた彼らの状況や彼らの体験を知ってもらうことだと説いている。
一つは、その貧困な環境ゆえに、勉強すべき時に勉強する機会を逃してしまい、後になって必要以上の苦労を子供たちに強いることになってしまったことに対する怒り。もう一つは、上記のような苦難に立たされているにもかかわらず、逃げずに立ち向かうことのできる子どもたちの姿に賞賛と希望。だと。
なるほど。ここで初めて第一章から第四章までの書きっぷりに納得がいった。自分がリサーチした際に得た感情をそのまま読者に伝えたかったのかもしれないな。
と、基本的には本書を絶賛したいけど、いくつか引き続き考えたいこともある。
これから考えていくこと
即時メリットなしにコツコツ努力できる力や、やりぬく力は、全方位に働くのではなく、子どもの興味関心の領域によって、働く領域と働かない領域があるのではないかな。つまり、ある「やりぬく力」がないように見えたとしても、本当にその子に「やりぬく力」がないのだろうか?単純に、その領域に関してその子の興味がなかっただけ(マッチしなかっただけ)という可能性がありそう。
非認知機能はめちゃくちゃ大事である。それは完全に同意だが、もし、その機能をもし数値化できるのであれば、人生が腐る(ドラッグやアルコール依存症、犯罪を犯す)ことを防ぐ程度の平均値以上であれば良い気がする。
つまり、例えば、みんなが同じ楽観性のレベルになってしまうと面白くないし逆にリスクな気がする。少し悲観的な人間とだいぶ楽観的な人間同士がチームを組んだり、超ロジカルな人間と超感覚的な人間がチームを組んだことで生まれる何かにも期待したい。
ただ、性質や価値観が違う人間同士は基本反発し合うと思うので、その人間がどうやったらお互い敬愛の念を抱きながらパフォーマンスを発揮できるのか。それが、いわゆる、チームビルディングであり、心理的安全性の構築とゴールを設定するとかすでに色々と方法論はあると思うんだけど、もうちょっと踏み込みたいなぁ。
とかまだ色々あるけど、これくらいで。
とにかく、有益なので、教育に興味ある方はぜひ読んでほしい。
ちなみに、これには、続刊があるんです。めちゃくちゃ楽しみ。