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タイの高校の第二外国語教育事情

私は現在、タイの公立の「ごく普通」の中高一貫校で日本語を教えている。

タイに来る前は驚いたが、タイの中学・高校では第二外国語教育が当たり前に行われていて、(第一外国語は英語)私の勤務校が特別というわけではない。私の学校では日本語の他に、中国語、ドイツ語、フランス語がある。

この点においては、タイは先進的だなぁと思う。

なぜタイがこんなにも第二外国語教育に力を入れているのか不思議に思って、前に同僚のタイ人の先生に聞いてみたことがある。

その時、「タイは第二次世界大戦の時、ミャンマー側からはイギリス軍、ベトナムやラオス側からはフランス軍に攻められました。他の国の言葉を学ぶことは、タイ人にとって国をまもることです」と言って、ものすごくびっくりした。

その先生は私には言わなかったけど、日本軍だってタイに進駐しているし、連合軍の捕虜や地元のタイ人を働かせて「戦場にかける橋」こと泰緬鉄道を作ったのはよく知られている。(英語圏では過酷な労働環境で大量の死者が出たことからDeath Railwayと呼ばれている)

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昨年カンチャナブリーに旅行した時、博物館に行ってみたけどコロナで休業していて入れず😢残念!

もちろん今は戦争もしていないし、タイは世界でも有数の観光大国。日系企業をはじめ、様々な外資系企業もあるという側面の方が大きいだろうが、タイが第二外国語に力を入れる根底に、このような背景があったのかと本当に驚いた。

と同時に、近年「ASEANの一員」としての教育を押し出しながらも、受験科目にマレー語やベトナム語などASEANの言語がないのも、このような背景があるのかもしれないなぁと妙に納得した。

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国際交流基金のHPによると、日本語は1981年にタイの後期中等教育(高校)の第二外国語の一つに加えられたそうだ。

これは2019年の調査結果だが、中等教育(中学高校)の学習者が一番多く、全体の7割を占める。

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その理由として、

①2001年の基礎教育カリキュラムの改定により、中学でも日本語の開設が可能になり、日本語を教える中等教育機関が増加したこと

②2010年から、中等教育機関を対象に「WORLD-CLASS STANDARD SCHOOL」という新しい方針が導入され、文系のみだった第二外国語の履修が、理数系も含めた全てのクラスで可能になり、中等教育機関での日本語履修者の数が急増したこと

が挙げられている。

また、中等教育の学習者について

学習者の顕著な増加傾向が続く中等教育段階では、学習者は決して日本語が好きだから学習している生徒ばかりでなく、教育省の方針や学校の方針により、第二外国語の学習が義務付けられている場合も多い。こういった学習者は動機付けが希薄で、学習に集中させたり、継続して学習する意欲を持たせたりするのがなかなか難しい場合も多い

とも書かれてあり、これに関しては私も似たような問題を抱えている。

じゃ、なんで義務付けてまで第二外国語を勉強しているんだろう?

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論文によると、外国語の学習内容の記述として「人間性を育成し、思考や仕事における基礎的能力を育成するため」とある。

はて。私の授業は「人間性を育成している」と言えるのだろうか?

また、別のコラムによると現在のタイの(英語を含む)外国語教育の目的として

 1、 コミュニケーション能力の向上
2、 言語と文化の理解能力の向上
3、コミュニティーや国際社会との関係に関する認識能力の向上

の3つが挙げられている。

私は「文法」クラスの担当で、活用やら助詞やらを毎日せっせと教えている。勉強した文型を使ってロールプレイや発表をさせたりすることもある。

けど、なかなか「日本語の習得」には至らないのが実情で、クラスの大半は3年間勉強してもN5にも合格できない。大学で日本語を続ける学生も少ないし、真面目に勉強していた学生も卒業するとあっという間に日本語を忘れてしまう。

だったらもっと理念に立ち返り、「人間性を育成し、思考や仕事における基礎的能力を育成する」ような授業をしてみたい。「考え方」や「生きる力」を育むような日本語教育を実践してみたい。

それが、今頭の中にぼんやりとある「教え合い、学び合う授業」に繋がっていくような気がする。

教育理念や教育システムを知ることで、また違ったアプローチができたらいいなぁと思っている。

タイの高校の日本語の教科書⏬

参考文献

鈴木・森下・カンピラパーブ(2004)「タイにおける基礎教育改革の理念とその展開」,『比較教育学研究』第30号,pp148-167
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jces1990/2004/30/2004_30_148/_pdf

【コラム】タイの英語教育


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