(過去の連載を転記しています)「妻が家事をしない」は離婚の理由になる? 法律で考える夫婦間の家事分担問題

2017.08.07 13:00
 弁護士の佐藤正子です。連載2回目にして「夫婦間の家事分担の問題」という大きいテーマを取り上げます。……実際、毎日これがテーマのような日々なんです。

 民法第752条では、夫婦は、互いに「協力」し、「扶助」(ふじょ)しなければならないとされています。要は相互に支え合うことが必要とされているんですね。

 でも、どう支え合うかは夫婦によって違うと思います。夫婦共働きの家庭もあれば、夫は稼いで、妻は家事育児をするという家庭もあるでしょう。どちらもそれぞれの方法で仕事を分担し、支え合うことになります。

 ただ、仕事には休みがあるのにも関わらず、家事や育児にも休みが必要だということは忘れられがちです。

 仕事と違って家事や育児はなかなかまとまって休みを取ることができません。特に育児は「いきものがかり」です。いきものをほったらかすわけにはいきません。泣き叫ぶ子どもを横目に「今日は休みだから」と放っておけないのです。私自身、子どもが生まれてからは、「やっぱり育児全てを妻がひとりでずっとやるのはしんどいよね」と実感しているところです。それに家族全員が常に健康でいられるわけではありません。お父さんがうつ病になって働けないときもあります。お母さんだって風邪を引くし、おなかを壊すし、熱を出すんです!(子どもからうつされるので避けられない… #つらい

 だからこそ、夫婦でどう助け合うかを話し合う必要があります。地道で面倒ですよね。わかります。最近、「男は5歳児と思え」という記事がネットで話題になりました。昔から「夫は手のかかる長男だ」という言い方もされています。はっきりいって私は一生長男のお世話をして生きていくのはいやです。自分の息子とは結婚しません。なにより、私は毎日(できれば)笑顔の多い家庭で過ごしたいし、自分ばっかりたいへんなのに、それをおくびにも出さず笑顔で過ごせるほど人間もできてないし、体力もありません。ですから夫とは常にお互い様、できるだけ公平な分担をしたいと考えています。

法律のいう「協力・扶助」とは?

 実際に、夫婦に求められる「協力・扶助」とはどのようなものでしょうか。
 稼いでいる人は、相手に生活費を渡すことが「協力」になります。わかりやすいのは妻が専業主婦の場合ですね。夫だけが生活費を支払う義務を負うわけです。
 妻がパートなどで少しだけ収入がある場合、給料を生活費に入れるべきかどうかは問題にはなりえます。夫にも小遣いがあるように、 妻もある程度の額、自由に使えるお金はあるべきでしょう。妻が自由に使えるお金を決して多くはないパート代から捻出している場合は、パート代を共同生活費に入れなくてはならないわけではない、と考えます。
 一方、収入がある別居中の夫が妻に対して生活費を渡していないとなると、この夫は扶助義務を果たしていないとみなされます。では家事を主に引き受ける側はどうでしょうか。どのようなときに協力義務を果たしていないと言われるのでしょうか。
 ときどき、夫側から「妻が家事をしないから離婚したい」と相談されることがあります。具体的に聞くと「部屋が汚い」「事が買ってきた総菜ばかり」などがあがります。しかし、実際にそれで離婚が認められるかというとかなり厳しいと私は考えています。
 大雑把に考えると、「炊事」「掃除」とやるべき家事は大した量ではないと思われてしまいますが、実際に細かく数え上げていくとその量は膨大です(以前『AERA』が共働きの家事育児100タスク表を作成していました)。その中から、一部の家事をやらない、あるいは正当な理由があってできない場合、離婚の理由にはならないのです。
 また「部屋が汚い」というのは感じ方にかなり個人差があります。相談時に部屋の写真を持ってきてもらったところ、弁護士が「うわー、うちの方がきたない……」と絶句したという笑い話があるくらいです。忙しいとなかなか掃除まで手が回らないですよね。埃では死なないとよく母親に言われて育ちましたしね(言い訳)。
 ただ、他の理由とともに夫が家事をしないことを理由に妻が請求した離婚が認められた例はあるようです。妻が流産しても夫は慰めることもせず、さらに看護学校に通っている妻が、その間、夫に子どもの面倒を見るように頼んでも、子どもを泣かせてばかり。遊びに連れて行くように頼むと「生活費を減らす」などと言い出し、夫は家事や育児のつらさに対して共感を示さず、家事分担しないという例です(東京高等裁判所平成29年6月28日判決)。最終的に別居して3年5カ月が経った頃に、離婚が認められました。同居中、妻には収入がなかったようですが、学校に通っていたために夫にも家事育児をする必要があったとされた点で、「収入がなければ家事の負担を一手に負うべき」と法律上みなされているわけではないことがわかります。
 では実際に収入がどれくらいあればどれくらい家事をやらなくていいか、というと……明確な線引はおそらくありません。少なくとも「収入2:家事8」のようにあるべき分担を計算して離婚を認めた、あるいは認めない例を私は見たことがありません。家事の負担を正確に計算するのは難しそうですし、育児だと毎日決まったルーティーンで行えるわけではありません。昨日は早く寝てくれたのに、今日は午前4時に突然泣き出して起こされることもありますよね……。

話し合うことで楽になれることもある

 参考までに、「うちの家庭」の家事育児と生活費の分担方法をご紹介します。

 お金の負担をどうするのかは同棲前に話し合い、同じ額を出してふたりの生活費に使おうということになっていました。ただ、実際には足りない分を夫が出してくれている時代が長かったらしいです。ごめんなさい。

 出産前と産後のしばらく働けない時期は、生活費は払えないと夫に言っていました。私は自営業なので出産手当金も育児休業給付金もなかったのです。むしろ収入のない出産前後も健康保険料や国民年金の支払いがあったくらいです。産後しばらくの間は夫が3人分の生活費を出してくれました。

 そして子どもが保育所に通いだした今は、私が早めに仕事を切り上げて、育児に時間を割くようにしています。そのため生活費の支払いはかなり少なくしています。私の仕事は給料制ではないために、収入が安定しません。育児に多く時間を割く以上、収入は減りますし、夫は私ほど育児に時間を割かない以上、私よりも仕事ができるはずですので、生活費は多く出すのが公平ではないかと考えているためです。ただ、いつも出してもらってばかりだと私も肩身が狭い(気がしてしまう)ので、夏の旅行で多めに出すことがあります。

 夫婦で互いに協力し合うと言っても夫婦の形は無数にありますし、夫も全然不満がないわけではないだろうと思います。ただ話し合いをしたことで、しんどい場面が訪れたときでも「夫はこういう考え方をする人で、私が『やらなければならない』と思っていたことは勝手な思い込みなのだ」と気づくこともありました。もしかしたら話し合うことで、ほんの少しでも楽になる、あるいは気分が軽くなることもあるかもしれないですよ。

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