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【読書日記】秩序のない好奇心の中で「ものを失くした人」のように本を読んでいく。

 漫画家の芦原妃名子が亡くなりました。
 手あたり次第少女漫画を読んでいた高校生時代に「砂時計」を手にとり、僕と弟と母様の三人にでドハマリしました。
 小説の専門学校に通っていた頃、村上春樹に影響を受けた作品ばかり書いていた僕ですが、なにを言いたいのか分からないと言われていました。そんな矢先、クラスで作品集を作ることになり僕は分かりやすく面白い物語を書きたいと思い書いたのが、最後にちょっとした驚きのある恋愛小説でした。この作品を書く際に意識したのが芦原妃名子の短編漫画でした。
 芦原妃名子の短編漫画は分かりやすく、また、こちらの予想を少しだけ裏切る構成になっているものが多かったんです。そして、それに僕は強く憧れました。今もエンタメ作品を考える時に浮かぶのは芦原妃名子の短編漫画です。
 僕の中でとても大切な位置にいる漫画家さんのショッキングなニュースには驚きました。そこに含まれる問題や改善されるべき点が今後少しでも良くなっていくことを願っています。
 ご冥福を心からお祈りいたします。

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 同棲をしてから僕は部屋で小説を書くより喫茶店やカフェで書けるようになった方が良いのではないか、と思っていました。
 しかし、ここで問題がありました。僕は外へ持ち運べるパソコンを持っていないのです。同棲をはじめてもう少しで半年になり今月には僕の誕生日もあります。
 買うなら今なのではないか? という訳で、先ほど軽量のノートパソコンをポチりました。仕事の行き帰りに文章を書けるようになれば、作業効率は3倍に上がると僕は信じています。
 未来の僕がんばれ!

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 今年の目標「1日100ページチャレンジ」を決めた頃に読んでいたのがイアン・レズリーの「子どもは40000回質問する あなたの人生を創る「好奇心」の驚くべき力」でした。

 僕はそれなりに人文書(「哲学・思想、心理、宗教、歴史、社会、教育学、批評・評論」のジャンルに該当する書籍)や自己啓発本に触れてきた人間だと思うのですが、「子どもは40000回質問する」は日本のものではないこともあって、少し読むのに苦労しました。

 とくに知らない海外の経済学者の誰それの言葉が紹介されたと思うと、発達心理学者の考えが引用されたりして、今言及されている考えは誰のものか、ぼんやり読んでいると見逃してしまうんです。
 そのたびに僕は数行前に戻るを何度繰り返しました。更にジャンルとして教育学になるのですが、やや自己啓発的な趣もあって子育てはこうあるべきみたいなことが前半でガンガン言われると、えーって心の距離が空いてしまう箇所がいくつかありました。

 とはいえ、言っていることは的を得ています。本質的に言いたいことはインターネットというすぐに情報が得られる時代において、好奇心を保つにはどうすれば良いのか? です。
 個人的に良いと思ったのは「好奇心には秩序がない」と本文で書き、好奇心の負の部分(拳銃を見つけたら撃ちたくなるとか)にも触れたうえで、それでも好奇心は必要なんだと言い続けることでたどり着く後半です。
 最初は少し噛みにくいですが、最後まで読んで後悔のない一冊です。

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「子どもは40000回質問する」を読んで、好奇心を全力で発揮していかねばと思い手にとったのが清水知子の「ディズニーと動物 ――王国の魔法をとく」です。

 僕は大人になって行く遊園地に楽しさを感じない人間です。ただ、そんなことを周囲に言いすぎてヤバい奴扱いされ、ディズニーランド好きの彼女から眉をしかめられているので、大人として遊園地に立ち向かう方法として知識を積み重ねようと思った次第です。
 なぜ、人は遊園地を作るのか。
 言い換えれば、ウォルト・ディズニーはなぜディズニーランドを作ろうと思ったのか。

「ディズニーと動物」は僕の好奇心に十分に応えてくれる一冊でした。タイトルにある通りディズニーランドにのみスポットを当てている訳でありません。
 どちらかと言えば、ウォルト・ディズニーの初期の仕事とアメリカ社会の歩みが前半にあり、後半は大衆文化として受け入れられたディズニーの苦悩や戸惑いがメインに据え置かれていました。
 しかし、この一冊の本を読むだけでも、ディズニーが遊園地を作ったことが必然だったんだなと納得できる内容となっていました。

 個人的に「第六章 ネズミは踊り、ドイツは笑う 戦争とプロパガンダ」を興味深く読みました。ディズニーが国のためにプロパガンダアニメーションを作っているとは、まったく知りませんでした。
 今となっては誰もが楽しむアニメの歴史を考える上でディズニーの歩みは無視できない一要素なんだなと改めて実感しました。
 そして、同時に人類史におけるディズニー(キャラクター)が担った役割についても考えさせられる一冊でした。

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 人文書的な本が続いたので次は小説を選びました。
 ジークフリート・レンツの「遺失物管理所」。レンツは1926年生まれで、ドイツの小説家。「遺失物管理所」は彼が77歳の時に書いた作品。

 内容は「ドイツ北部の駅の遺失物管理所」で働き始める青年の話で、ドイツ語で「ものを失くした人」は「敗北者」の意味があるらしいです。遺失物管理所には実に様々な「ものを失くした人」が訪れます。 また、そこで働く職員たちは左遷されてきて働いており、リストラの噂に怯えてもいます。そんな職場の中で主人公ヘンリーはお坊ちゃんということもありますが、仕事を楽しみつつ友達を作ったり、先輩の人妻にちょっかいをかけたりして過ごします。 魅力的な主人公というよりは、こういう人間っているよなと思える存在です。終盤に、常にのらりくらり物事をやり過ごすヘンリーに対して以下のように言及されます。

あなたは自分で自分のいってることを信じちゃいないのよ。いつも思いつきに従って行動してる。ときどき、あなたは何もかもついでにやってるだけなんじゃないかって印象を持つわ。たまたまそのことが頭に浮かんだからやっているだけ。その瞬間はそれでいいかもしれないし、楽しいかもしれないけど、自分に対してもっと責任を持つべきだと思うの

 この小説は一人の青年が「責任を持つ」ことで大人になる物語だと言うことができそうです。

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 さて、続いて「ディズニーと動物」の中で引用されていて気になった自伝作品クリストファー・ミルンの「クマのプーさんと魔法の森」です。
 こちらはA.A.ミルンの書いた『クマのプーさん』の主人公クリストファー・ロビンのモデルとなった息子の自伝。

幼いときからあまりにも有名になりすぎた著者が、その複雑な胸のうちを50歳を過ぎて初めて明かしたもの」で、散文的な内容のエッセイになっています。けれど、ちゃんと語るべき順番はあり、また「クマのプーさん」が描かれた背景としての時代にも言及があって非常に読み応えがありました。

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 最後。
 小川哲の「君のクイズ」です。
 古い作品が多かったので、新しめのものを。
 帯に伊坂幸太郎がコメントで「ミステリーとしても最高」とも書いていますが、「クイズ・エンターテイメント」作品になるようです。
 タイトルにある通りクイズの話です。

 あらすじとしては「生放送のTV番組『Q-1グランプリ』決勝戦に出場したクイズプレーヤーの三島玲央は、対戦相手・本庄絆が、まだ一文字も問題が読まれぬうちに回答し正解し、優勝を果たすという不可解な事態をいぶかしむ。いったい彼はなぜ、正答できたのか? 真相を解明しようと彼について調べ、決勝戦を1問ずつ振り返る三島はやがて、自らの記憶も掘り起こしていくことになり――。」というもの。
 一文字も問題が読まれていないクイズに回答して正解した。
 なぜか?
 なんと面白い問いでしょうか。

 そして、小川哲自身がインタビューか対談で言っていたのですが、書き方としては短編のように書いた小説が「君のクイズ」なんだそうです。
 言われてみれば、確かに短編のようなエピソードの作り方をしていましたし、一気に読むことができました。少なくとも小川哲の長編小説を読んだことがある人なら「短編のように書いた」と言う意味が分かると思います。
 面白い小説を一気に読みたい人や普段あまり本を読まない人は手に取って損のない一冊です。

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 今回、読書日記として紹介した本は1月に読んだものです。
 1日100ページ読むチャレンジをした結果としては、少し少ないなと不満です。次は頑張る!と思って手に取ったのが、クンデラの「冗談」で2段組380ページくらいあった上に、ノートパソコンも届いたので2月は読書と映像作品を日記として掲載できればと思っています。

サポートいただけたら、夢かな?と思うくらい嬉しいです。