元新聞記者が記事を書きまくって考えたこと④「予定稿」でもっとタイムリーに・多くの・「伝わる記事」が書ける!
大量出稿を可能にするテクニック
地方紙記者時代、今になって思えば毎日むちゃくちゃな量の原稿を書いていた。同業他社に転職した後輩も、新天地で出稿量の少なさに驚いていたっけ…。当時はそれがフツーだったし、「書く」ことでしか評価されない(と思い込んでいた)から、とにかく書いて書いて書きまくっていた。
新聞記者は毎日、締切との戦いである。基本、その日に取材したことはその日に出稿しなければならない。スピードだけでなく正確性、出稿量も同時に求められるため、私が頼ったのが「予定稿」だ。
予定稿は、新聞業界で有名人の訃報とか、重大事件の裁判とか、選挙とか…で作られるもの(で、たまに事前に流出して大変なことになる)らしいが、私は自分の仕事をスムーズにする目的で、通常の取材(季節のお祭り、学校行事、行政ネタなどなど…)でもほぼ100%予定稿を作っていた。
予定稿はカンペキな原稿を事前に出稿しておき、簡単な確認のみでそのまま掲載するケースや、一部を空けておいて後から同じ行数で差し替えるなどいろいろな段階がある。私の場合は、自分が締切に追われて慌てないための原稿なので、事前出稿はせず自分の手もとに置いていた。あらかじめ電話やメールで取材を行い、事前に確実に書ける部分だけを書いておくスタイルだ。
その前に…原稿のスタイルについて
予定稿の話をする前に、まず、私の原稿の基本スタイルはこれ。
リード文(最低限必要な情報&一番伝えたい事を簡潔に)
当日の描写
背景・経緯
裏付けとなるデータ
「私の」予定稿の書き方
そして、私流の予定稿の書き方はこう。
リード文は柔軟に
当日の描写は空白のままにしておく
背景や経緯、裏付けとなるデータを事前取材して書いておく
ここで大事なのは、ちゃんと取材して書くこと。後から書き換えるからといって、自分の予想や願望で勝手に書いてはいけない。ちょっとでも不確定、不安なことは、「くろまる」にしておくなど、自分にとって一番わかりやすい形で空欄にしておき、当日取材で確認してから書くようにしてきた。
取材で感じたことに素直になろう
予定稿は、なんのハプニングも起こらない、のっぺりした、予定調和な原稿である。だが、現実は往々にして、事前取材やこちらの想定を軽く超えてくる。取材に行って、その場で自分が感じたことに素直になることだ。その場に身を置いて、五感で得た情報が最優先にしてほしい。
予定稿では「今年も××祭りが無事に開催されました、ちゃんちゃん」だったけど、実際はそんなキレイな話じゃなかった、なんてことはままある。この行事のために汗水流してきた人たちに感動したり、今後続けていくための課題を突きつけられたり、主催者と地域の温度差に「ん?」となったり。やっぱりこっちを主題にしたいな、と思ったら、勇気を出して路線変更してみてほしい。
(私が体験した「実際行ってみたら予定と違う」で極端な例を挙げると、小学校の卒業記念で埋めたタイムカプセルを掘り出そうとしたけど、先生の記憶違い?で、掘っても掘っても出てこなかったことがあった)
あなたが一番伝えたいことは?
この原稿で何を伝えたいか?何に最もニュースバリューがあるのか?その場で自分の心が動いたことに素直になって、書きたいことを正直に書いてほしい。事前に集めておいたデータも、話の筋とずれたり、理解の助けにならないと判断したりした場合は、容赦なく削ってふさわしいものに変更しよう。
1本の記事をありふれたストーリーにまとめることは簡単なことだ。でも、実際にその場に身を置いて自分が感じたことを大事にしてほしい。「せっかく書いたから」と予定稿に縛られたり、思い込みや願望で記事を書いたりしないこと。当然と言えば当然なのだが、とても重要なことだと思う。
締切に追われる新聞記者の仕事は予定稿無しには回らないのだが、地域のことを発信する「ローカルジャーナリスト」にとっても、自分の考えを文章にまとめたり、SNSに投稿したりするときにも、事前取材をしたり、あらかじめ文章の骨格をつくっておくのは、十分に使えるテクニックだと思う。ローカルジャーナリストにとっては、地域の話題をよりタイムリーに、たくさん伝えることができるようになるはずだ。ぜひ取り入れてみてほしい。
こぼれ話~事前取材の利点はほかにも!
事前取材をして予定稿を書いておけば、ここに至るまでの経緯や主催者の思いなどは分かっているから、当日しか取材できないことに時間を割ける。特に参加者の感想はこの場にいないと聞けないから、勇気を出して1人でも多くの人に質問してみよう。
蛇足ですが
ちなみに、「訂正を出さない」ことは新聞記者の至上命題だが、訂正を出さない究極の方法は「記事を書かない」ことだと思っている。人間なので、訂正をゼロにはできない。コンスタントに書き続けることのほうがはるかに大事だ。恐れずに書いて書いて書きまくろう。
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