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駐妻が見た中国㉒私達も、中国行きチャーター便に乗れるの?

2020.08.24by 岡本 聡子

Hanakoママwebリニューアルにともない、私が取材・執筆した記事を、関係者の許諾を得て、こちらに転載しています。
当時の記録をそのまま残します。コロナによる一時退避生活中、居候生活が続き、行く先々のパソコンを借りて書いた記事です。

2018年より中国・広州に滞在中の5歳児ママです。独身時代は上海で暮らしたことがありますが、現地で子育てしてみると驚きと発見の連続。(新型コロナウィルスによる退避のため、一時帰国中)

2週間の休暇のつもりで帰国してから、半年以上が経過

中国からほんの2週間のつもりで帰国してから、すでに半年以上が過ぎました。

夫はずっと広州で働いています。毎晩、娘と夫は動画で通話していますが、距離は感じます。会わないうちに、彼女の身長は3センチ伸びました。

日中間の往来は、とても難しい

7月27日現在、新型コロナウィルス感染拡大により、日中間は自由な行き来ができません。日本人が、中国から日本に帰国することはできますが、14日間の自主隔離、公共交通機関以外での移動が義務付けられているため、よほどのことがない限り帰国できません。

日本から中国に渡るにしても、現在中国に入国できるビザは全面的に効力停止であり、かつ14日間の厳格な隔離があるため、実質不可能です。

この状況を受け、日中間の定期フライトもほとんどが運休。現在、広州と日本を結ぶ直行便は運航停止。しかし、このままでは日中経済の停滞は続き、日本人不在が続くと、工場や会社の運営が危うくなりそうなケースもあります。

そこで、5月末の武漢行きフライトを皮切りに、ぽつぽつとチャーター便が運航されるようになりました。中国に戻れなくなった駐在員が、厳しい隔離覚悟で乗り込む、というのが私の持つイメージです。自分がチャーター便に乗るかを尋ねられるとは、考えたことがありませんでした。

今回は、チャーター便に乗る、乗らないについて、日本退避中の家族が一喜一憂した話をふり返ります。

「チャーター便搭乗希望者」を募るメールが届いた

7月下旬、会社経由でメールが届きました。差出人は、広州日本商工会(企業同士の情報交換・地域活動等を行う民間団体)、概要は以下です。

「広州・深セン日本商工会共催で、広州入りの臨時便(チャーター便)を予定しています。搭乗希望者はアンケートに回答してください。運航決定後、アンケート回答者、かつ新しいビザがとれた人から順番に搭乗案内をします。対象は、両商工会会員とその家族に限ります」

そして、すでに7月10日に成田発広州行のチャーター便が運航され、160人が搭乗したとのこと。私は知りませんでしたが……。だいたいチャーター便なんて、緊急時に特別な人たちが乗るものだと思っていたので、自分も対象になるのか、とまず驚きました。

今回のチャーター便の目的は、現地の日本人労働者不足を補い、ビジネスを回復させるためです。武漢からの緊急帰国チャーター便は日本政府が飛ばしましたが、中国へ戻るチャーター便は、各地の日本商工会が中国の地方政府と交渉して運航するものなのですね。

現在の状況では、私達親子の渡航は難しいと判断

結局、私はアンケートには回答しませんでした。

チャーター便に乗るためには今年3月28日以降発行の新しいビザ、かつ中国入国後14日間の厳格な施設・自宅隔離が必要です。隔離の厳しさは、日本の比ではなく、部屋から一歩も出ないように監視がつきます。子連れで閉じ込められたら、私は精神的にまいりそうなので、できれば避けたいです。

何よりも、新たにビザを申請し直すのが一苦労。所属先の会社も、現段階で家族の中国行きは勧めないという方針です。

チャーター便に乗るための仕組みが複雑で、難易度が高い

今回のチャーター便に乗るためには、まず中国政府(省政府)にビザ申請のための特別な招聘状(インビテーションレター)を発行してもらう必要があります。招聘状の発行は中国側の判断次第であり、どのくらいの時間がかかるのか分かりません。当然、却下されるケースも。また、招聘状は出てもビザが下りなかったという話もききます。

そのうえ、陰性証明のために、日本国内の指定施設に子連れでPCR検査を受けに行かなければなりません。搭乗までにこれらすべてを無事に終えられる気がしません。

実際のところ、中国政府の方針が頻繁に変わるため、入国希望者は右往左往しています。

7月、広州の夜景。3月から10月までは連日30度超え、毎日ゲリラ豪雨が降る南国気候。高層ビルや広州タワーに、雲がかかる光景をよく目にする。
チャーター便に乗ることができる人は限られている

このアンケートの話を広州から日本へ退避中の親子にしたところ、半分程度が「そもそも、この話を知らない」「自分達が乗れるとは思えない」という反応でした。

日本商工会は企業単位で会員になるものなので、熱烈に渡航を希望する人でも「うちの会社は商工会会員じゃないから、乗せてもらえない」と最初からあきらめていました。

「まずは任期中の駐在員の再渡航、その次に新しく赴任する人が優先で、家族は後回しでは?」という疑問も出ました。しかし実際は、7月のチャーター便には二家族が乗ったそうです。

当然「私達も乗りたい!」という人が出てきます。しかし、自分達の力ではどうすることもできません。会社がどれだけ力を入れて交渉するか、そして企業の渡航緩和の方針などによります。結局、友人達は「最後に、もし席が余っていたら乗れるかもしれないって」「宝くじにあたるようなものだよね」と肩を落としていました。

予想していましたが、中国側からは「招聘状を申請できるのは、重点リストに入っている企業が優先。面談で緊急性があると判断されれば考慮の可能性も」「復工復産に直接関係のある人員から招聘状を発行する」という原則が明示されています。やはり、家族は最後でしょうね……。

チャーター便の費用も気になります。通常の定期便ですら便数が少なくなっており、高騰。調べてみると、11月の成田発広州行フライト(片道分)は乗り継ぎ2回の20万円! これは、いつもの4倍近い価格です。ちなみに、武漢からの緊急帰国チャーター便は一人8万円でした。(追記:8月12日より、中国南方航空が成田~広州直行便を週一便運航予定。キャンセル待ち多数で、予約できるのは概ね3か月先だとか……。片道約30万円)

それでも中国に戻りたいという家族も

面倒な手続きを、はらはらしながらするより、もっと安全に渡航できるまで待とうと私は思います。ちょうど娘と二人で賃貸を借りて、幼稚園に通わせ始めたところですし。

ですが、いつまでになるかも分からない状態で、親子で実家に滞在するのは限界、早く自分の家に戻りたい、という人達もいます。早くお父さんに会いたい、隔離を経ても家族一緒に暮らすほうが良いという声も。

今回のチャーター便は日本退避中の人達に希望を与えましたが「誰が乗れるのか?」「今、 乗るべきか?」と私達の心をざわつかせ去っていきました。

(この記事は、2020年7月30日現在の情報を元にしています。)

*チャーター便は8月7日192人搭乗で運航されました。全員、指定施設での14日間の隔離観察を受けます。

中国については、2005年「上海のMBAで出会った 中国の若きエリートたちの素顔」(株式会社アルク)を加筆・改題し、2016年「中国のビジネスリーダーの価値観を探る」を出版。

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