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話題の音楽家・角野隼斗さんを育てた母、角野美智子さんに聞く(前編)

2021.11.16by 岡本 聡子

Hanakoママwebリニューアルにともない、私が取材・執筆した記事を、関係者の許諾を得て、こちらに転載しています。
角野隼斗さんに取材した3記事はこちらで公開予定はありません。

前編 子どもの「好き」を探して、一緒に楽しもう

角野(すみの)美智子さん。今話題の音楽家、角野隼斗さんのお母さまです。
角野隼斗さんは、東大卒研究者の顔も持つ、登録者85万人の人気Yotuber・音楽家。2021年10月、世界三大コンクールのひとつであるショパン国際ピアノコンクールではセミファイナリストに。妹の未来(みらい)さんもピアニストとして活躍中です。
優秀なピアノ指導者でもある美智子さん。緊張気味で待つ私達の前に表れたのは、笑顔を絶やさない華奢な女性でした。

2021年1月、角野隼斗さんへの取材中のこと。隼斗さんは質問への答えを探しながら、いたずらっ子っぽい表情で、美智子さんに電話。さすがに取材中の電話はめったにないらしいのですが、独立後も、家族に意見や感想を求めることが多々あるそう。
なんとも風通しの良さそうなご家庭だと驚き、その時から美智子さんにお会いしたいと思っていました。

子育てで大切にしてきたこと(1)子どもの意思を尊重し、対等に接する

――大人になってからも、親子間のコミュニケーションが良好という印象を受けましたが、小さな頃からお子さん達と接する時にこころがけてこられたことは?
「一番は、我が子とはいえ心に土足で踏み込まないよう、注意してきたことです。相手がどう考えているか、子どもであっても常に考えますね。

そして、『親と子』という意識ではなく、『対等』な立場でいようと。『~しなさい』ではなく、本人が主体的に考えられるよう、『あなたはどう思うの?』とよく問いかけました」

――主体性を持たせる問いかけ、ですね。実際に、子ども達自身に決めさせることも?
「小さい時から家族の一員として扱い、なるべく本人の意思を尊重してきたつもりです。夫は、毎週末子ども達を外遊びに連れ出してくれましたが、親が先に行き先を決めてしまうことはなく、すべて子ども達が決めました」

子育てで大切にしてきたこと(2)子どもと一緒に楽しむ、面白がる

――日々のちょっとした意識や言葉遣いが、子どもを輝かせ、家族を幸せな気分にするわけですね。他にどんなことを大切にされましたか?
「勉強、ピアノ、料理など暮らし全般、私も一緒に楽しもうと。心がけてきたというよりも、子ども達を観察して、次はあんなこと試してみようと考えると自然と楽しくなりませんか?
子ども達とはよく一緒に料理をしました。ビーツのスープを作る時に、ビーツの配合を増やしながらスープの色が鮮やかなピンクに変わっていく様子を一緒に観察したり、いろんなスパイスの匂いを嗅がせて少しずつ加えて味見したり、片栗粉のとろみがつく様子を面白がってみたり……」
――美智子さんの考え方に、影響を与えたのはご両親でしょうか
「実は私自身、両親から勉強しなさい、練習しなさいと言われたことは一度もないんです。両親は、私のやりたいことをとことん応援してくれました。
幼稚園の頃、友達の家でピアノに触れて、私もピアノを弾きたい! と両親にお願いして買ってもらったんです。でも遊びで触るだけで、なかなか習いに行かなくて。けれど両親は何も言いませんでした。

私の父はもともとピアノが弾けませんが、ある日、童謡に伴奏らしきものをつけて弾き語りしてたんです。わーっすっごく楽しそう、一緒に弾きたい! と、そこから私も懸命にピアノを弾き始めました。そして、小学校3~4年生の頃には『将来はピアノの先生になる』と、もう決めていました」

子育てを楽しむヒント(1)子どもを観察しよう

――「好き」「楽しい」という気持ちを持つと、強いですよね。
でも、親からみると我が子にどんな可能性があるのか、いまいち分からないという声もきかれます。
「子どもの目の輝くことは何だろう、と観察すれば何かヒントを得られるのではないでしょうか? 子どもが興味を示したことは、まずは親も一緒に興味を持ってこまかく眺めてみる、とか。最初に親が取捨選択してしまうと広がりません。
車が好きなら、その構造なのか車種なのかナンバープレートの数字が好きなのか、見極める。隼斗は、ナンバープレートに執着するタイプで、数字・数学が大好きな子でした。

絵本は一切読まず、図鑑を読み、外出先でも計算ドリルを解いていました。周囲に『こんな時まで勉強させられてかわいそうに』と言われたこともありましたが、彼にとってはそれが『遊び』だったのです。
ピアノの練習にもゲーム攻略的な要素をとりいれて、点数化するとがぜんやる気を出しました。

反対に、妹の未来は、物語が大好き。ピアノの練習でも、曲にあわせた物語をイメージすると、見違えるように演奏が生き生きとしました」

――角野家は、ピアノという親子共通の「好きなこと」がありましたが、もし、親が受け入れ難いことに子どもが目を輝かせたら、どうしましょう? ポケットいっぱいのダンゴムシを毎日連れて帰る、ゲームにはまる、とか。
「うわー、ダンゴムシ!?  私は虫がダメで、子ども達も虫嫌いになってしまいました。でも、その子が心底望むなら、ルールを決めて、ひととおりはなんとか部屋の中で飼ってみる……でしょうね。
我が家の場合は、禁止事項はなくて、子ども達が興味をもつことはなんでもやってみよう、でした。そのために、環境を整備しておくのは親の役割ですね。
ゲームは、隼斗もものすごくはまりましたよー。でも、得るものがない単なる暇つぶしとしてなのか、攻略法を考えて頭を使っているのか、など意味合いが異なりますよね?」

子育てを楽しむヒント(2)雰囲気作りや笑顔は、親の役割

――ピアノのコンクールが毎年の家族行事だったそうですが、お子さん達はどんな様子でしたか?
「本番もその前後も、子ども達は楽しかったと言ってくれます。往復の車中はクイズ大会。終了後に、家族で外食。雰囲気づくりは、親が気をつけることだと思います。
でも、ただ楽しいだけではなく目標を持ってメリハリをつけて練習することを大切にしました。中途半端では逆に楽しめません」
――コンクールは緊張の連続、失敗したら悲壮感が漂う、というイメージを持っていました。隼斗さんは、「演奏後、両親は常にほめてくれて、批判めいたことは一度も言われたことがなかった」と……。
「たとえ失敗しても、結果が悪くても、必ず子どもは成長しています。その細かな変化を見抜いて、褒めて次につなげられるのがご両親なのだと思います。特にお母さんの笑顔は、子どもにとって何ものにもかえがたい喜びです。結果うんぬんよりも、お子さんの気持ちを一番大切にしてあげられれば、と。

長い目で見ると、子どもが主体性を持って取り組んできたことや夢中で取り組んだ楽しい記憶は、その後の人生で大きな指針となるのではないでしょうか」

角野家のお子さん達は成績も良く、音楽家としてそれぞれ活躍中。「子ども自身が優秀だから、うちとは違う」と、私の周囲では羨望とあきらめのまなざしを向けるママ達もいました。
しかし、今回の取材をとおして、美智子さんならどんなお子さんだったとしても、しっかり育て上げたであろう、と確信しました。誤解を恐れずにいうと、いわゆる育てにくい子であっても、子どもの人格を尊重し「好き」を発見して伸ばしたに違いありません。

取材・文:岡本聡子、写真:野口けいこ
(後編:「子どもを信じて待つ」に続きます)

【角野美智子さんの著書 】
「好き」が「才能」を飛躍させる子どもの伸ばし方』(ヤマハ)

【取材・撮影協力】
ヤマハ銀座店 1階 ブランド体験エリア
TEL:03-3572-3171
住所:東京都中央区銀座7-9-14
アクセス:東京メトロ銀座駅から徒歩5分
https://www.yamahamusic.jp/shop/ginza/experience_area
*音や音楽の最新技術を、お子様と楽しみながら体感できる場所です。


左から美智子さん、未来さん、隼斗さん。(2018年撮影、角野美智子さん提供)



【角野美智子さんプロフィール】
桐朋学園大学ピアノ科卒業後、米国ニューイングランド音楽大学大学院に留学。これまで主宰するピアノ教室から各種コンクールで延べ100人以上の受賞者を輩出。音大・音高受験指導でも高い実績を上げる。2018年、リトミック教室「プチアンジュ」を開講。0歳児から音楽・知性教育を通じて感性を育む育児法を導入し、ピアノレッスンに大切な下地作りにも注力。導入期から上級までバランスよく育て上げる指導法で高い評価を得ている。ピティナ指導者賞連続20回受賞。

【角野隼斗さん(Cateen/かてぃん)プロフィール】
1995年生まれ。東京大学工学部卒業後、同大学院情報理工学系研究科創造情報学専攻にて機械学習を用いた自動採譜と自動編曲について研究、修了。2018年に4万人以上が参加したピティナ・ピアノコンペティションの頂点である特級グランプリ、及び文部科学大臣賞、スタインウェイ賞受賞。同年、フランスで音楽情報処理の研究に従事。2020年12月、1stフルアルバム『HAYATOSM』リリース。2021年、ショパン国際ピアノコンクールにおいてセミファイナリスト。2022年1月より全国ツアー開始。https://hayatosum.com/live

角野未来さんプロフィール】
1998年生まれ。3歳よりピアノを始める。ピティナ・ピアノコンペティションE級までの各級の全国決勝大会にて金、銀、ベスト賞を受賞。NYカーネギーホールでの演奏会「The Passion of music 」に出演。第17回ちば音楽コンクール全部門最優秀賞。第17回ショパンコンクール in Asia コンチェルト部門アジア大会銅賞。2020年度 青山音楽財団奨学生。大学卒業に際して、アカンサス音楽賞、同声会賞、藝大クラヴィーア賞を受賞。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校、東京藝術大学を経て東京藝術大学院音楽研究科1年在学中。


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