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氷柱の約束

記憶に残っている一番古い記憶は冬に母と散歩して氷柱を取って遊んだ日のことだ。

二歳半頃の記憶だろうか。真冬になるとあちこちの屋根の下に氷柱がたくさんあった。真っ白なクリームのようになめらかな積もりたての雪の上を母と手をつないで歩きながら、様々な大きさの氷柱を取って遊んだ。母は「氷柱は冷たいし汚いから食べちゃだめだよ」と何度も言っていた。一応頷いていた私だけれど、その冷たくて透明に輝く不思議な物を口に入れたいという思いに抗うことができなかった。母に見つからないように横を向いてこっそりと氷柱を舐めた。その小さな背徳感がなぜか妙に記憶に残っている。

今思えば、もうその時には私は約束の意味はわかっていて約束を破るということがどういうことかも少しわかっていたのだなと思う。三十年の時を経て、今度は私が母になって娘がもうすぐ一歳半になる冬を迎えた。奇しくも私と娘は誕生日が十日違いで、季節と月齢がリンクする。今年はまだ雪を踏み締めて歩くことを楽しむのが精一杯の娘も、来年の冬にはきっと思いっきり雪遊びを楽しめるようになっているだろう。娘は氷柱の約束を守れるのかどうか楽しみだ。

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