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期間限定ちぎりパン

娘は肉付きのいい子で、腕もしっかりちぎりパンのようになっていた。子どもが生まれる前もネットニュースなどで赤ちゃんの腕のちぎりパン化について見聞きしたことがあったが、生後7か月頃に完成した実物を見た時は本当にちぎりパンのようになっていて驚いた。このちぎりパンには、大人が失ってしまったものが全て詰まっている気がした。

大人になると食事ひとつとっても、「栄養バランスを考えなきゃ」とか「食べ過ぎないように気をつけなきゃ」などと余計な思考が邪魔をしてくるけれど、子どもにとってそんなことは関係ない。娘には好きなものをとっておこうなんて小賢しさはない。なくなったらもっともっと欲しいとせがむ。甘いものは控えめにしなきゃなんて計算もない。ほしいものをほしいとまっすぐに示せる娘が私にはまぶしい。

そんな娘も1歳を過ぎて動きが活発になっていき、背もぐんぐん伸びて少しほっそりとし始め、ちぎりパンはしぼんできてしまった。毎晩、娘を寝かしつけ終わると、生まれてからの写真を見返しているが、だんだんと成長が嬉しい気持ちとともにもう赤ちゃんの頃の娘には会えないさみしさを感じるようになってきた。子どもほど、時の流れをまざまざと見せつけるものはないような気がしている。あの時の娘にはもう二度と会えない。日々の生活に追われていると、食べこぼしで服やらテーブルやら床やらが汚れたからきれいにしなきゃとかそんなことに奔走するばかりだけれど、期間限定の今を味わって嚙みしめながら過ごさなければと思う。


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