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活版印刷とコーヒーは似ている。

…と、思うのですがいかがでしょうか。

私自身は非常に舌バカで、全然味の違いがわからないという悲しい生き物なのですが、コーヒーは豆の種類や淹れ方、使う道具で味が変わることは認識しています。実際、本格的にコーヒーを楽しむ人は多いですよね。

実は活版印刷も、同じじゃないかなと思うんですよね。

版の種類や機械を動かす人、印刷機の違いで仕上がりが変わるんです。
データと紙が同じなら、どこの活版印刷所に頼んでも同じ仕上がりになるかと言えば、絶対にならないと思います。A社の方がスミが濃かったり、B社の方が線が細かったり。もちろん技術の上手下手もあるとは思いますが、ある程度の水準を超えたらそこからは自分に合うかどうか(デザインに合った仕上がりかどうか)の世界になってきます。こだわりの域ですね。

「へこんでる」ことのみで満足して、発注も納品もインターネット上で完結してしまっていること、ありませんか。でもそれってなんだかもったいない気がして。
(もちろん、通販自体を否定しているわけではありません。コロナ禍の昨今は特に助かりますし、やっぱり予算は大事ですから)

様々な豆や道具を試して自分なりのコーヒーにたどり着くように、色々な活版印刷所の特徴を知って自分に合う活版印刷所を探してみると、もっと活版印刷が面白くなるはず!

…実は先日、打ち合わせで桜ノ宮 活版倉庫さんにお伺いしたときに、オーナーの小瀬さんから活版印刷の楽しみ方について色々と教えていただいたんです。自分ではある程度知っていたつもりでしたが、いやはや、それは全くの思い上がりでした。今日はそのとき伺ったお話を元に書いていきます。


版の種類が違えば仕上がりに違いが出る

コーヒーで例えると豆にあたるでしょうか。活版印刷に欠かせないのが「版」。版にインキをつけ、圧をかけて紙に転写することで印刷していきます。(原理としてはハンコに近いですね)

昔は活字を組んで印刷していましたが、今はデータを元に版を製作。その素材によって樹脂版金属版に分類されます。

同じデータでも、樹脂版 or 金属版で仕上がりが変わります!以下、主な特徴です。

樹脂版…樹脂でできているので版自体が柔らかい。金属版と比較してインキがのりやすい。その分、線が太りやすい。
金属版…真鍮、亜鉛、マグネシウムなどの金属を素材とした版。細かいところまで再現できる。シャープな仕上がり。ただしベタ面は苦手。

実際に樹脂版と金属版(真鍮版)の印刷上がりの違いを見てみましょう!

まずは樹脂版。

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続いて金属版(真鍮版)。

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同じデータでも、樹脂版の方が文字が太く、真鍮版の方がシャープなのがお分かりいただけけますでしょうか。

例えばスミでベタ面と小さな文字があるデザインの場合。樹脂版でベタ面のスミの色を優先して印刷すると、文字が太ってつぶれてしまうかもしれません。真鍮版ならベタ面用にスミを濃くしても、文字をシャープに印刷することができます。…というようなお話を小瀬さんがおっしゃっていたのですが、うん、奥が深い。

どちらの版を使用しているかは、印刷所によって変わりますので、使いたい版の種類によって印刷会社を選んでも面白いですね。


活版印刷は「人の顔が見える印刷」

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コーヒーは淹れる人によって味が変わると聞いたことがありますが、活版印刷も印刷機を動かす人によって仕上がりが変わります。圧のかけ具合やインキの扱い方によって微妙な差異が出てくるんです。

オフセット印刷の現場に一般の人が立ち会うのはなかなか難しいですよね。その点、活版印刷所は印刷機が動く様子を見れるところが多くあります。(実際にハイデルベルグのプラテン印刷機が稼働しているところを見たことがありますが、単純にテンションが上がる!!)

そうやって印刷している人の顔が見えやすいからこそ、自分のこだわりをダイレクトに伝えることができます。共同作業感が出ますよね。そこが、活版印刷が再び脚光を浴びた理由の一つな気がします。

アナログだから廃れていって、アナログだから求められるようになった。

活版印刷自体が定着してきて、ついついオフセット印刷のようなスピード・手軽・均一性を求めてしまいがちですが、対面でじっくりと人の顔を見ながらモノを作っていくその体験は、やはり何物にも代えがたい。経験値が上がるというか、今まで知らなかった新しい世界が開く感じがするんですよね。


自分に合った印刷所を探すことで活版印刷はもっと面白くなる

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というわけで、是非とも活版印刷所に足を運んで、活版マスターたちと話して欲しいなと思います。印刷物の完成度ももちろんですが、マスターの人柄だって千差万別。おすすめしてくれる紙だって違うと思います(ここでようやく紙の話!)

活版印刷をしてくれるならどこでもいいわけじゃない、きっとあなたに合った活版印刷所があるはずです。

へこんでいて可愛いだけじゃない、その先へ。各印刷所の特徴や違いをもっと知って、もっと楽しめば、発注する側も面白いし、活版印刷業界の更なる発展にもつながるのでは!?


…と、ここまでコーヒーを飲みながら書いたのでした。ちょっとコーヒーにもこだわってみようかなあ、なんてことを思いつつ。


最後に。今回興味深いお話を聞かせていいただいた桜ノ宮 活版倉庫さんでは、月に一度OPEN STUDIOというイベントを開催されています。印刷所内を自由に見学できたり、リングノートやレターセットなどをお買い物できたり、そして何よりスタッフさんとお話できるのが醍醐味です。ぜひ遊びに行って、色々と質問してみてくださいね。活版印刷の見え方が、また少し変わると思いますよ。



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