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半側空間無視とは??

皆さんこんにちは、作業療法士の大松です。半側空間無視の研究を2014年くらいからチームで取り組んできました。これまでのざっとした研究内容はTwitterの以下モーメント(半側空間無視研究のまとめ1とまとめ2)でまとめています💡

もう少し詳しく丁寧に、自分の備忘録も含めてnoteでまとめていこうと思いました。研究背景も含めて少しずつ整理していく予定です!
※引用にはすべてリンクを貼っているので、詳しく知りたい方は是非原著の確認をお願いします☺

無視症状の定義

多くは脳梗塞や脳出血などで大脳半球を損傷した際、損傷した脳の反対側の刺激を発見したり、応答・反応することが難しくなる症状として定義されます(Heilman et al., 1993)。右半球損傷後に好発するため、多くは左空間への探索や左空間からの刺激に反応しにくくなります。
臨床における無視症例のイメージは下(Karnath &Rorden, 2012より引用

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生活場面では、左の物にぶつかったり、食事中に左の皿や皿の左を食べ残すなどが代表的な症状として知られています。

半側空間無視の視線評価

視野障害のように”見えない”のではなく、”気づけない・認識できない”というより高次な症状です。症状そのものをイメージしにくいと思うので、視線の結果をまず見て頂ければ。

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上図のような画像を提示し、自由にみてもらうと…

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通常はこのヒートマップで示されるように(赤色を示す場所ほどよく見られている所)右の蝶々や真ん中から右下のデイジー等に視線が集まります。

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この提示した画像を左右反転して提示してみると

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視線も反転して先ほどと同様に左の蝶々や真ん中から左下のデイジー等に視線が集まっていることがわかります。

一方、無視症状を呈された方では…

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このように画像が反転しても視線は右へとどまります👆

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元の画像と反転させた画像の注視位置を見比べると、一目瞭然ですよね。
無視症状の方のイメージ、なんとなくお分かり頂けたでしょうか?

私たちは、このように提示画像を自由に見てもらい(Free-viewing)その際の視線を計測することで直感的に無視症状の有無を検出できる左右反転画像を用いた視線分析という手法を報告してきました(Ohmatsu et al., 2019)。※この報告の詳しい内容については、今後noteで改めて紹介する予定です💡

Kaufmanら(2020年)も私たちと同様、左右反転画像を用いて無視症例の視線解析を行っており、机上検査と比較し良好な検出精度を持っていたことを報告しています(私たちもバシーッ‼とここまで結果だせれば良かった…さすがNyffelerグループ)。このように近年では、机上検査を補完するものとして視線計測による評価の有用性がシステマティックレビューでも報告されてきています(Cox & Davies, 2020)このレビューでは私たちの論文をしっかりピックアップしてくれており、すごく嬉しいです!←

さて、アイトラッカーなど視線計測装置そのものの価格が近年かなりリーズナブルとなっています。臨床導入のハードルが下がりつつあるので、興味がある方は検討されてみてはいかがでしょうか?(私が臨床で活用しているクレアクトのAttentionという機器はこちら

有病率について

主に右半球損傷後のおよそ約40-50%の方が無視症状を示し(Ringman et al., 2004; Buxbaum et al., 2004)急性期~亜急性期では多くて80%ほどSunderland et al., 1987; Stone et al., 1993; Chen et al., 2016)とも言われています。左半球損傷後でも特に急性期ではみられますが、その割合は20-30%程度(Ringman et al., 2004Gainotti et al., 1972)と右半球損傷後の方が割合として多く、また症状が継続(Stone et al., 1993)することが知られています。全世界でみると、年間300-500万人が無視症状を患うと推定される(Corbetta et al., 2005)ことからも、決して珍しい症状ではないことがわかります。脳血管疾患を対象とされている医療従事者であれば、実際に出会ったことあるのではないでしょうか。

ここで注意しないといけないのが「何をもって無視症状ありと判断しているか」です。先行研究によって用いられている評価が異なるので、幅があります。中には机上検査のみで判断しているものもあるので、あくまで有病率は参考程度で。

無視症状がもたらす弊害

ここなんです、ここ。無視症状があっても特に生活に支障がないのであればあまり問題視する必要もないのですが…あるんですよね…これが。以下、無視症状がもたらす弊害を挙げています。
① 上肢運動麻痺の改善が得られにくいNiboer et al., 2014 他)
② 日常生活能力の改善が得られにくく、在院日数が長くなるGillen et al., 2005他)
③ 家族の負担増Buxbaum et al., 2004
④ 入院中、より支援や熟練した医療スタッフの配置が必要Rundek et al., 2000
⑤ 生活期における生活範囲が狭小化する(Oh-Park et al., 2015

Q:なぜ上肢の麻痺が改善しにくいのか??
 まず運動麻痺の介入中に無視症例は麻痺側上肢へ集中したり、麻痺手を見続けることすら難しくなることが考えられます。さらに無視症例は運動機能回復で重要な持続性注意Robertson et al., 1997の低下もよく合併します(Hjaltason et al., 1996; Samuelsson et al., 1998; Malhotra et al., 2009)。
 実際に臨床でアプローチしたことがある方であれば「そうそう」と納得頂けるんじゃないでしょうか。運動麻痺の介入を取り入れながら無視の介入を行う方法Limb activation=麻痺側上肢を無視空間で使用する方法)(Robertson & North, 1992)も知られており、無視症状だけ!や運動麻痺だけ!とならずに包括的にアプローチする方法も1つだと思います。近年では、Limb activationに加えて機能的電気刺激(FES)や振動刺激の併用も検討されています。個人的には、麻痺も無視も一緒にアプローチできますし無視症例の問題意識としても”運動麻痺”は目に見えて分かりやすいので良く導入していました。このあたりは、またの機会に別記事でまとめていこうと思います。

補足(右無視症状について)

 左半球損傷でも初期症状が重症だと回復期初期でも残存するケースはあります。その際は1-2か月様子みて、他にやるべきことやった方が良いと個人的には思います。大概は覚醒低下、運動麻痺・感覚障害、失語や失行など症状は多岐にわたると思うので、他に生活を成り立たせていくためにすることたくさんあるし、そうこう様子を見てるうちに珍しい症状は大体軽減してくるので。珍しい症状って研究としては興味深いですが、対象者の生活をよりよくするために働くリハビリ専門家は、その珍しい症状に注意を削がれるよりも、急性期や亜急性期としてやるべきことはたくさんあります。初期症状としてどんな症状があったのかカルテやサマリーに記載することは必要ですが、しっかり専門家としてやるべきことやっていきましょう。

 すみません、話が逸れました。

先行研究では亜急性だと意外に左半球損傷の約40%は何かしら検査でひっかかる(右無視症状を呈する)って報告もあります(Beis et al., 2004)。実際、急性期~慢性期までフォローする脳外の病院で働いてた時、右半球損傷だけでなく左半球損傷の方の視線計測(画像Free-viewing中)していましたが、意外と視線が左偏向してるケースが一定数おられました(だからといって無視症状が生活上の主要な問題となっておらず、他の問題が山積みだったので…そーなんだー程度で深追いせず)。
 オランダで行われたBrinkら(2016)のコホート研究でも発症約1か月ほどで10%弱の方が右無視症状を呈されたようです。ただし、損傷領域を確認すると左無視症状の方は右半球損傷がだった一方、右無視症状の方は明確な左右半球の側性化は見られなかったよう。Weintraubら(1996年)の報告でも右無視のメカニズムとして両側病変の関与を指摘しており、右無視の機能回復には左半球が担っていた右空間への注意を、左右空間への注意を担う右半球で補うと仮説立てています。2009年の症例報告でも左MCA梗塞の他に両側半球に白質病変(leukoaraiosis)を有した方が慢性期まで右無視症状が遷延化したと報告されています。

まとめ

今回は、半側空間無視とは??というベーシックな内容を、私たちが報告してきた内容も含めてまとめてみました。note自体、初めてだったので読みにくい部分もあったと思いますが

最後まで読んで下さりありがとうございました!!!

時間見つけて、今後少しづつまとめて行こうと思います。

でわでわ~👋

いつもありがとうございます。皆さまにフォロー頂きながら試行錯誤していきます!