見出し画像

伝統は守らなければいけないものなのか?~木桶サミットに参加して~

「伝統を残そう!」と聞くと、「そうだ!」と思う。でも、なぜ?

自然の摂理の中で、「進化できなかったもの」「適応できなかったもの」は淘汰されてきた。であれば、和文化や伝統なども、時代に合ったものではなくなってきたから廃れつつあるのだろう。
和文化は好き、伝統製法も好き。「好きだから残していきたい」も理由の一つであっていい。でも、「伝統だから守らなければならない」というのは少し違う気がしている。

「伝統を残したい」—― その奥にはもっと何か理由があるはず。

その正体は一体何だろう?そんな疑問を抱えたまま、小豆島で開催された木桶サミットに足を運んだ。そこで得た二つの答え。
(木桶サミットについては以前記事にしたことがあるのでそちらをご参照ください↓)

答え①:“感覚”を研ぎ澄ますもの

坂口直人 頭領

小豆島で大工をしている坂口直人さんは、ヤマロク醤油の山本さん(木桶職人復活プロジェクトの発起人)から相談を受け、廃業を決めていた最後の桶職人の元へ一緒に行き、桶の作り方を学ぶ。
あれよあれよと、木桶職人となり、今は木桶職人の頭領に。

サミットの分科会の中で坂口さんが話されていたことが、私の答えの一つになった。(記憶の中の関西弁w)

「誰か他の木桶職人が残っとったら、俺はやらんかった。そいつに頼め、ってなんねん。でも、誰もいなかったからやったんやな。
木桶をやり始めて、これはおもろいと思った。
今の大工仕事って、道具も材料も揃ってるから、ちょっと手先が起用やったら、誰でもできんねん。でも、木桶はほぼ手作業やし、最終的には感覚でしかない。そこが魅力やな〜。」

便利なモノが溢れ、マニュアル化・デジタル化した社会の中で、”感性”や”感覚”が人間の価値となりつつある。
伝統工芸品はそれらを育ててくれる最高のツールなんだ。

答え②:循環するもの。持続可能性

2つ目の答えは「循環」。木桶のすごさは、以下。

業界をまたいでリユース

日本酒蔵も木桶を使用していた時代、酒蔵が20~30年使った木桶を醤油蔵や味噌蔵が譲り受けていた。
新たな舞台で能力を発揮する木桶。酒蔵で使用されていた木桶は醤油に独自の風味を与え、微生物の活動を助ける重要な要素として重宝される。また、木桶が持つ酒の風味や香りが、醤油に特有の深みを与え、木桶独自の豊かで独特な醤油が生まれる。

耐久年数100年

そうして醤油蔵や味噌蔵に譲り受けられた木桶はきちんと使用していけば100年以上も使い続けることができる。
使い古しても一度に捨てるのではなく、ある程度は修理することが可能。タガを編み直したり、桶を分解してかんなで削り、新たに組み直すこともできる。
ただ、耐久年数100年のため、自分が手掛けた木桶を修正した人はいないだろう。だからこそ、直す技の継承が必要となる。
なんという耐久性!

ベルベットのようにふわふわになった木桶の表面

自然素材

木桶は接着剤も鉄釘も使わず、木と竹でできている。使えなくなった木桶は燃やすことができ、廃棄時にゴミが出ない。


伝統を守る意味:感性や感覚を育み、循環型社会を生み出す

木桶サミットを通して感じたのは、伝統を守る意味は「人間の感性や感覚を育み、循環する持続可能な社会のヒントとなる」ということ。
先月、2023年の振り返りの中でも「生きるとは循環すること」だと思ったばかり。

伝統を守ることと生きることがつながった。
一口に「伝統」と言っても、有形のもの・無形のものが多種多様にある。これから「伝統」に触れる時は「感性」や「循環」という目線で追ってみよう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?