見出し画像

ベンチ旅 旅のはじまり

平日の午前中。小雨そぼ降るなか、給付金申請に必要な書類を求めて税務署へと向かっていた。

JR埼京線の北与野駅で下車。
ここから京浜東北線のさいたま新都心駅までは連絡通路があって、税務署までは歩いて10分ほど。
目的に向かって歩いていると、悲しいかな道端のふとしたものに目は向かない。

税務署で必要な書類を一通り手に入れる。
これでひとまず今可能な給付金申請ができる。一つ関門を突破した気分だ。
コーヒーでも飲んでいきたいところだが、いち早く申請書類を出すべく気持ちを抑え、もと来た道へと足を向ける。

雨はもう傘を差さなくても気にならぬくらいになった。畳んで、少し開放されて連絡通路を曲がる。

あれ、

こんなところにあったっけ。

画像2

行く時は気づかなかったベンチがひっそりと、そこにあった。
まるで誰かに見つけてもらうのをずっと待っていたかのように。
通り過ぎようとして、思わず座った。

座面は木製で、意外にも座りごこちは良い。
大人二名がゆったり座れる大きさで、ひと任務終えた後にふーっと一息つくにはちょうどいい場所だ。

連絡通路の人通りは午前中でもそこそこ、座っている私をチラチラ観察していく。こちらも歩いていく人々を観察する。

目の前には地上から上がってくるエレベーターの出入口がある。
利用者がいるとほぼ間違いなく目が合うことになるはずだ。

画像3

普段どんな人がこのベンチに座っているのだろう。
買い物帰りのお年寄りだろうか、電車を降りてクライアントに電話を掛ける営業マンだろうか、うちに帰りたくない中学生だろうか。
歩くと細胞も揺れる。その余韻が続くあいだ、ベンチに座って色んなことに思いを巡らす。

さあ、駅まで戻ろうか。

えい、と立ち上がり、エスカレーターを降りて改札前まで行ったところでふと思った。

「ベンチについて書きたい」

急いで踵を返す。ベンチまでいく。誰も座っていない。
スマホで写真を撮り。周囲を入念に観察。もう一度、座る。
写真とともに詳細をメモに残す。
そして、また立ち上がる。

画像4

これが、ベンチ旅のはじまりの日。


画像1

ベンチファイルNo.1
時:2020.6月
場所:JR北与野駅からさいたま新都心駅に続く連絡通路脇
天候:小雨
材質:座面木製、背凭れ部金属
座席:2名掛け
メモ:気がつかないまま通り過ぎそう。しかし座ってみると意外に心地よく不思議と落ち着く。連絡通路はよく人が通るので、ちらちら見られる。人物観察に適。目の前にエレベーターがあるので利用者と目が合うかも。座面は半乾きで少し湿り気あった状態で座る。



佐藤きりんです。 文筆と音楽活動のために使わせていただきます、サポートをよろしくお願いします。