【 10分で読める】新規事業に10回関わって学んだ、失敗の匂いに気がつく方法。
■ 誰に向けて書いているか
これからプロダクト開発でお金を稼ごうとしている人たちに向けて
具体的には企業の新規事業開発部に新しく配属された人や、『これから起業をして自分のサービスで収入を得よう』と考えている人に向けて記事を書いています。
私はキャリアの中で複数の会社で新規事業開発部に所属し、他の人たちよりも多少、多くの新規事業の立ち上げに関わってきました。
そして多くの失敗にも関わってきました。
十数回の新規事業に関わった中で
年商1億円以上のプロダクトに育ったものもありますが、残念ながら計画していた売り上げに届かず、撤退やリソース投資が中止となる結果の方が多かったです。
しかし、それら多くの失敗経験を段々と、次の事業開発に活かせる用になってきました。
「確実に成功する方法」は分かりません。今でも新規事業には悪戦苦闘の日々です。それでも「確実に失敗する状態にあるか」に気がついて、回避する方向に向かって努力できるようになってきました。
最初は「失敗の匂い」くらいになんとなく感じていたのですが、改めて経験を振り返って知識を体系化して見ると
「新規事業開発の際に最低限やるべきことをやっていない」
という単純な結論に至りました。
経済産業省の認定コンサル資格である中小企業診断士を取得した後は、知人から事業の相談を受けることも増えてきました。
そしてこれらの経験の中で得た知識が、彼らの事業開発にとても役立ったと言ってもらえるので、より多くの方々の力になれたらと思ってnoteにまとめました。
みなさんが私と同じ轍を踏まないよう
新規事業10回分の経験を共有していきます。
■ 課題解決と顧客獲得戦略について
・製品の生き死には、顧客獲得が全て
当たり前ですが、受託開発事業でもない限り
あなたの製品を完成させてもお金は1円も発生しません。
製品が”十分な数のユーザー”の困りごとを解消して、初めて売上が発生します。
これは製品の販売でも、サブスクリプションでも、広告でも変わりません。
困りごとを解決しない製品は誰も使わないし、
十分な数の利用者が使わないと、事業を継続させるほどの、そしてあなたが生活できるほどの、売上は発生しません。
『何を改って、そんな当然のことを?』と思うかもしれませんが、本当にここに向き合えているでしょうか。
恥ずかしながら、私はこれらと真剣に向き合わないまま、事業開発を始め失敗したことがあります。
しかも一度ではありません。笑
自分だけでなく、優秀なメンバー(既存事業部で年収1,000万円以上のランクにいたような)が集まるチームでさえ、そんな初歩的なことと向き合えていないこともありました。
改めて皆さんは
①「その製品は、具体的な誰かが、喉から手が出るほど欲しい製品か」
②「ユーザーを獲得に対して数字など事実に基づいた戦略があるか」
この質問に、自信を持って答えられるでしょうか。
Q「その製品は、具体的な誰かが、喉から手が出るほど欲しい製品か」
「便利そう」
「何かに使えそう」
「忙しい共働きの主婦なら使いそう」
ではなく、
具体的な、あなたの周りの人名で
「○○会社の人事部の××さんなら、
△△に困っているので、お金出してでも使ってくれる」
「主婦をしている友人の○○さんは、
△△に困っているので、使ってくれる」
と言える状態にあるか。
Q:「ユーザーを獲得に対して数字など事実に基づいた戦略があるか」
「口コミが広まって〜」
「製品紹介がgoogle検索に引っかかって〜」
ではなく
クチコミは、どのような経路で拡散されどれくらいの数にリーチさせるのか
その数字に妥当性はあるのか
検索のボリュームはどれほどで、既存の上位結果は何人が訪れていて
どのようにして検索上位を獲得していくのか
といった戦略が語れるか。
検証方法が明確なら仮説でも問題ありません。
もちろん、事業開発ではこれら以外も多くのことを考えるでしょう。
事業環境は成長市場にあるか
既存事業とのシナジーや、自社の強みを活かせるか
しかし、成長市場以外にニッチなニーズを見出すこともありますし、既存事業を敢えて活かさない非関連多角化もあります。
それでも
顧客の課題を解決しない事業、ユーザーに知ってもらえない事業は、絶対に成功できません。
・クオリティは二の次三の次
私はシステムエンジニアでもあり、製品を作る側なので、あまり言いたくはありませんが
製品の完成度の高さよりも、いかにして顧客を獲得するかの戦略の方がずっとずっと重要です。
①製品が顧客の本当に困っている問題を解決しているか
②十分な人数の顧客に知ってもらい、使ってもらうことができるのか
③製品が使いやすいか、機能の網羅性が高いか
これらに対する重要度は
「① > ② >>>>> ③」です。
上述の話に合わせると
①が「誰かが、喉から手が出るほど欲しい製品」になっているか
②が「ユーザーを獲得に対して、数字など事実に基づいた戦略があるか」
です。
しかし多くの人々が、①や②よりも③
つまり「製品を使いやすくすること」にエネルギーを掛けてしまうのです。
③は製品の完成度ですが、ここは目につきやすいし、やるべきことも明確です。
製品の売上が芳しくない時、とにかくクオリティを高めようとしてしまいます。
しかし、ユーザーは「困ってもいないことの解決策は、どんなにクオリティが高くても使わない」ですし「知らない製品は存在しないのと同じ」なのです。
クオリティを上げるのは
事業として成立するほど利用者の課題を解決していて、また既に多くのユーザーを抱えているときに初めて有効な策です。
ここで注意すべきこととして
新規事業ではない、”既存事業”は、基本的にこの後者のフェーズ(すでに課題解決として価値を提供し、利用者も多い状態)にあります。
なので、既存事業で優秀だった人は
このクオリティを高めることで評価をされてきた人材です。
そのため、既存事業で優秀な人でも
①②と向き合った経験は殆ど無いことが多く、
むしろ既存事業で優秀な人ほど、その勝ちパターンが身に染みているため
③に拘ってしまう人が多いです。
「うちには優秀なメンバーが多いから」と過信せず、ちゃんと①②に向き合えているだろうかと考えてみてください。
・「クオリティが低かったらやっぱり使われないんじゃないの?」という当然の疑問について
burn needsという概念を紹介します。
顧客のBurning needsを解決する
この記事は本当に参考になるので別途読むことをお勧めします。
burn needsとは、頭に火がついて困っているほどのニーズ。
頭に火がついていたら、とにかく消したい。
手元にあるどんな手段でも、使うでしょう。
例え、火を消すのに最適な手段でなくても
『これで叩いて火を消しなよ』と黒板消しを渡されたとしても、それを必死に使って火を消そうとするでしょう。
それくらい目先で困っていることの解決手段でもないと、製品なんて使ってくれないという話です。
ニーズがあれば、最初はクオリティが低くても使い始めるし、それくらいのニーズがない課題への解決策であればクオリティが高かろうが製品を使ってくれません。
「最初は」と書いたのは、「同じ課題を解決する競合が乱立してくるまでは」です。
『自分のやりたい事業には、すでに競合が乱立しているから、クオリティで勝負したいんだよね』という場合については、「よほど潤沢な資本のある大企業で、どかどかマーケティング費用を投資できる場合以外はやめたほうがいい」とお伝えしておきます。
理由は次の章に書いていきます。
・クオリティで既存製品と勝負してはいけない
『すでに市場に製品はあるけど、イマイチ使いづらいんだよね。リプレイスしたいな』と思うことはあるでしょう。
なぜクオリティで既存製品と勝負をしてはいけないか
ハーバード・ビジネス・スクールの経営学教授であるジョン・ゴービルいわく
「ユーザーを既存製品から新製品に乗り換えさせるには
新製品は既存製品の9倍優れていないと乗り換えない」(※)
とのことです。
※この論文の一節は「ハマる仕掛け」という書籍の中で紹介されています。
私も十数回の新規事業の中で既存製品が使いづらく、リプレイスを狙った新製品開発も経験しました。
その時の既存製品の年商は2~3億円、利用者は数百万人ほど。
私たちは、その製品にある全ての機能を網羅し、かつ非常に使いやすい製品を完成させることができました。
しかし多くのユーザーをスイッチすることは叶いませんでした。
何百万円も投入した開発でしたが、最終的な売上は月数万円程度となりました。
未だに利用者からは「とても使いやすいです」と感謝のレビューが送られてきます。
目の前のユーザーを幸せにすることはできても、事業へ投資を継続できるほど、そして生活していくほどの売上を作ることはできませんでした。
5倍は使いやすい自信があるのですが、9倍には届かなかったようです。
・課題解決は、初期版で実現する
「クオリティが低くても」という表現をしたのですが、ミスリードすると嫌だなと思って補足します。
“製品が顧客の本当に困っている問題を解決しているか”については、初期版で課題を解決できる状態にしなければいけません。
『ずっと使い続けているうちに最適化されて、いつか便利になる』
というような製品は、
誰も”いつか最適化される”まで使ってくれません。
初めて利用して、もうその瞬間から便利じゃないと使ってくれないのです。
なので、初期版に求めるものは「クオリティが低い」という表現よりは
『たった一つの本質的な課題解決だけを提供して
それ以外の全てを削ぎ落としたもの』
という表現が適切でしょう。
■ 需要調査の重要性
・なぜ大企業は、やたらと調査をするのか
ある程度の規模の企業が新規の事業開発に取り組む際、やたらと詳しく調査資料を作成します。
業界の規模や仕組み、既存プレーヤーの立ち位置や動向、様々な切り口のセグメントによるユーザー分布…etc
皆さんも大きな組織に所属していたら
上司から『○○について調査しておいて』なんてよく言われたかもしれません。
正直『あんな分厚い資料が本当に必要なのか?』
と思ったこともありました。
そもそも、なぜ調査をするのでしょうか。
それは「新規事業はめちゃめちゃ失敗するから」ということの他ありません。
しばしば『新規事業はセンミツ (1,000個のうち、3つしか成功しない)』なんて言われます。
私は3/1,000は流石に言い過ぎではと思いますが、愚直に思いついたアイディアで毎回事業を起こしていたら、数十回起業して やっと一つ成功するくらいの確率ではあると思います。
事業はやってみないとわからないことだらけです。
製品の良さは口で説明しても魅力が伝わらず、使ってもらわないと本当の価値があるかわからないということもあるでしょう。
しかし『お金や時間をがっつり使って製品を完成させてみたら、実はニーズが無かった』となっては大変です。
なけなしの自己資本で起業したのであれば、食いっぱぐれてしまいます。
やってみないと分からない
でも、当てが外れるかもしれない。
ではどうしたら良いのでしょうか。
当たり前の結論ですが、ニーズを調査するのです。
ターゲットユーザーのボリュームや、
その人たちがその課題のためにどれほどのコストを支払っているのか、
ユーザーが解決策を検索している回数や、既存製品の売上や利用頻度
つまり
「製品を買ってくれる人はどれくらいいるのか」
「その人たちは、どの頻度でどのくらいの金額まで支払ってくれるのか」
ということをあらかじめ予測するために調査をします。
調べてわかるものなら調べます。
検索して出てこない情報であれば、アンケートを取るのも良いでしょう。
「アンケートなんてどうやって取ればいいんだ」と思う方もいるかもしれないので参考までに例を書いておきます。
googleフォームでアンケートを作成して、TwitterのようなSNSで拡散してもらう。例えば回答者にamazonギフト券500円プレゼント!として100人集めると5万円です。
それでもあなたが月収50万円だとしたら日給2万5千円。製品開発で明後日の方向に2日間迷走することを防げるなら十分ペイするとも考えられます。
・調査は製品開発の最小単位
調査しづらいもの、まだ事実が存在しないものであれば小さく試すのです。
コア中のコア機能だけ作って、ベータ版をリリースしてみる。
ユーザーは製品を見つけてくれるのか確認する。
使った人は買ってでも使い続けたいと思ってくれるのかヒアリングする。
コア機能だけでも作るのに時間がかかってしまうようなら製品紹介のLP(ランディングページ)だけ作って事前登録者数を計測してみる、なんてこともできるでしょう。
つまり、調査は製品開発の最小単位なのです。
『こんな製品があれば売れるのではないか』というアイディアを
『じゃあ作ろう』ではなく『じゃあこういう調査をすれば検証できるかも』という方法で確認しているのです。
もちろん、製品を作る前には常に、大企業並みに時間をかけて調査をしなければならないのかと言えば、必ずしもそうではありません。
大企業の場合、新規事業で作り上げなければならない売上の規模も桁違いです。
その規模の事業を作るためには、投資もまた何億円、場合によっては何百億円も投入することになります。
みなさん全員が何百億円の投資判断をするわけではないはずです。
何より調査期間もまた、限りある時間というリソースを使うことになります。
自分の置かれた状況の中で
どのようにすれば、最短・最小コストでニーズを検証できるかを考えて
行動に移していくことが重要です。
・『ニーズがないなら、使ってもらえるように工夫したらいいじゃないか』という考え方について
『なんでわざわざニーズを調査しなければいけないんだ。今ニーズがなくても、この最高のアイディア(製品)を広めて、ニーズを作っていけばいいじゃないか』
と思う方もいるかもしれません。
私は『製品開発をする目的次第』だと思っています。
ニーズがない(少なくとも顕在化していない)製品を、多くの人が使うようにするのは、とてつも無く大変なことです。
製品開発コストを回収することすら、おそらく生半可な道ではありません。
そのため『たとえ自分の生活は苦しくなっても、この製品を広めることに人生を捧げたい』という覚悟があるか
もしくは『この製品を作ること自体が楽しいので趣味としてやっていきたい』と自己実現のための製品開発であれば、ニーズのある無しに関わらず、製品を開発していけるかもしれません。
そうでなく『製品開発で、ちゃんと売上を立てたい』という場合は、ニーズの有無を無視することはできません。
むしろ『こんな製品を作りたい!』『このアイディアを形にしたい!』というこだわりは、市場ニーズとの板挟みの種です。
「お金を稼ぐことは、誰かの役に立つこと」なので、ニーズ、つまり解決したい課題を起点とした製品開発に立ち戻るのが良いでしょう。
■ 結局、何も実行しないのが一番良くない
小さなコストでニーズを検証する方法や顧客獲得戦略については、いずれ改めて別の記事にまとめようと思っています。
ここまで色々な失敗の経験を書いてきましたが、これで『新しく事業を起こすのって難しいんだな。今の事業を続けていればいいや。』と萎縮しないで欲しいと思っています。
みなさんが新しい事業開発に臨もうと思ったのには、何か理由があるはずです。
そして多くの人の理由は、『既存事業は衰退していくから』でしょう。
そうなのです。
結局、既存事業も安息の地ではないのです。
誰かが恐怖を乗り越えて新しい道を切り開き続けなければ、組織も、また自分の人生も衰退していく他ないのです。
新しい事業開発は、大小あれど、必ず何かしらの失敗に直面するでしょう。
しかし新しいことに挑戦しなければ、何も変わりません。
新しいことに取り組めば、成功しようが失敗ししようが、個人も組織も多くのことを得られます。知識も蓄積され、結果もファクトとして残ります。
挑戦しなければ、新しい分野での知見も、ファクトとなる結果も残りません。
失敗は成功までの道中かもしれませんが、何もしなければ道中どころかスタート地点のままです。
皆さまもどうか、これまでの内容や、それ以上に自分自身で試行錯誤する中での経験から学び、新しい事業を生み出し、たくさんのユーザーの課題を解決してください。
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