見出し画像

あまりにも悲しい話に、真実と真心を添えて(己の悲しみに捧げる)(9/1)

「ハトラッシュ、おいで」
少年は歩きかけて止めて、犬を待っていた。クリスマスイブだのに、身の代は薄手の着物を下着の上に一枚着た切りだった。
「ハトラッシュ、おいでったら」
犬は上目遣いに少年を見た。きっと「ハ」でなく「パ」と呼んで欲しいに違いない。村はそんなに雪は積もっていなかったが、それにしても寒かった。十二月の二十四日、真夜中の村をうろついているのは、一人と一匹が門限に間に合わなかったためだ。厳しい、厳しい親である。だが、少年にも間違いはあった。幼なじみのアローという少女と夜遊びして、帰らないつもりだった。つまり、ふられてしまったのである。
「メロなんか、大、大、大嫌い!!」なにがいけなかったのか、メロ少年は立ち止まり立ち止まり考えたが、一向理解できなかった。クリスマスイブに和菓子の詰め合わせをプレゼントしたためだろうか?(メロは羊羹は虎屋だとおもっている。)それとも、二股がばれたのであろうか?(メロは結構最低である。)
「しょうがねえな、教会で夜を明かすか・・・」そう思って教会へ向かっている途中、ハトラッシュが何かに気付いて動かなくなったのだ。
「しょうがねえな・・・」メロはハトラッシュの止まっている所に戻った。丁度自動販売機の前で動かなくなっている。
「ごめんな、これ、ドッグフード出ねえんだよ。金も三十円しかねえし・・・」メロが云うと、ハトラッシュは一声「ワン!!」と吠えた。『ちげえよ!!』とメロには聞こえた。メロは統合失調症なのだ。自動販売機には「あったか~い」と書かれたコーヒーやら、コーンポタージュやら、お汁粉やら。寒い身には自動販売機の文字が堪えた。フト、釣り受けが気になった。なんとなく、手を入れてみる。ジャラジャラ音がした。結構ある。八百八十円あった。「でかした!!ハトラッシュ!!」メロは「あったか~い」コーヒーを買った。しばらく缶で手をあたためてから飲む。
「あ、あったけーー!!」「ありがとう、ハトラッシュ。千円入れて忘れた人!!」メロは自分もいつかお釣りを忘れても、誰かがこんな風に使ってくれたらいいと思った。(メロにも意外と良い所がある。)
「しかし、寒いな・・・」メロは家に戻って、犬小屋で夜を明かした方が良いかもしれないと思った。
『フン、犬小屋か・・・。北極犬のような、犬神にでもなるつもりか、オレは。分かっている。これは全部幻覚だ。だが、コーヒーは有難いことだ。幻覚にも感謝しなければならん。アローだって!?亜矢子というヤツはいるが、ここは日本のちんけな田舎の村じゃないか。パトラッシュは去年死んだ。いつもハトラッシュと呼んで可哀想なことをしてたな・・・。あいつは鳩に突進するクセがあったからな。ほんでもって、オレがメロか。メロンは好きだが、思い込みとは恐ろしいな。これは病気に違いないが、気付かないもんだ。ユヅル、しっかりしろ』

悲しい妄想に気付いたのは偶然のお陰だが、それすら現実と非現実との境をウロウロしているだけに過ぎない。ユヅルは更に非現実の巧妙な罠にハマっていくのだ。

メロは家に着いた。だがそこは教会であった。
「もう疲れたよ、ハトラッシュ・・・。犬小屋にでもねるか」
自転車小屋が犬小屋であった。メロは犬小屋だか、教会だかでルーベンスの絵を幻視した。それはそれは、荘厳だが、下手クソな絵に見えた。
「なんてことだ!!ハトラッシュ!ルーベンスに絵を教えに行くぞ!!」
ハトラッシュも狛犬のように吠え猛り、メロはまたぞろ村へ彷徨い出る。朝には冷たい体で見つかる筈である。

悲しい話の、悲しい結末は、余りにも、余りにも。
楽しい話は悲しくなり、悲しい話は楽しくなる。ユヅルは精神病院へと無事入院できたろうか?この悲しいお話に教訓とでもいえるものがあるなら、精神病は意外な程身近にある、ということ。差別する者は、差別される。ユヅルに救急車が到着することを願い、筆をおこう。余りにもやりきれない話は、もうお終い。

令和五年九月一日


(同日追記)こんな悲しい文章をかいたのは、初めてかもしれない。だが、いたる所にユヅルは居て、いたる所で病んでいる。それは僕も一緒で、悲しいほど理解できてしまう。
愚かな人生に、愚かな話をくっつけて、それで終いにする無慈悲はやり切れない。これは僕自身の話で、僕自身の真実だ。
僕の病み具合といったら!!
回復する傷、回復する精神。
それ故に書いたバカなショートショート。
だがしかし、皆人の幸福を祈る。病気の人の幸いを。了

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?