見出し画像

「渇いたkiss」を通じて伝えたい、Mr.Children桜井さんの天才さ

Mr.Childrenのボーカル、桜井和寿さん。
その歌唱力もさることながら、作詞作曲でも才能を遺憾無く発揮されている。

今回は、楽曲「渇いたkiss」の歌詞を国語的に考察して、桜井さんの凄さを紐解きたい。
Mr.Childrenに興味がない方でも分かるように解説していく。


「渇いたkiss」の趣旨を一言で表すと、「オレを振ったことを後悔してしまえ!」ということになる。

それを踏まえて、一番の歌詞から順に見ていきたい。

生温い空気がベッドに沈黙を連れてくる
もう うんざりしてるのは僕だって気づいてる
https://www.uta-net.com/song/15626/

一番のAメロで、「冷えてきた男女関係」を示している。ここの「生温い」が秀逸すぎる。「少し前までは温かさがあったんだけど(仲良かったんだけど)、今はその時から比べると少し冷えてきた」という意味を含んでいる。

男女関係に「生温い」という言葉が使われることがあるか?既にこの時点で天才である。

一行目をよく分析すると、主語が「生温い空気」、術語は「連れてくる」である。そう、「擬人法」が使われているのである。一行目から国語の技術がふんだんに使われている。


揺るぎのない決心に 凍りつく顔

続いて一番のサビのフレーズ。ここを国語的に見ると、「形容詞+名詞」が二つ使われている。

ここをあえて長々と説明するなら、「相手(女)は、僕(男)と別れるという揺るぎのない決心をした。僕はそれを察して、つい顔が凍りついてしまった」ということになろうかと思う。

しかしそんな長ったらしい文章を歌詞にする訳にはいかない。ということで、「揺るぎのない決心に 凍りつく顔」という短いフレーズを使ったのではないかと考えられる。それでいて、意味が過不足なくきちんと伝わっている。ううむ、天才すぎる。


くたびれたスニーカーがベランダで雨に打たれてる

二番のAメロ。出ました、再び擬人法。「くたびれた」という修飾語までついていて、頭に情景が浮かんできそうな表現だ。

ここで考えてみたいのが、「くたびれていて、雨に打たれているのは本当にスニーカーだけなのか?」ということである。
もっと言うと、「スニーカーというのは僕のことを表しているのではないか?」ということだ。そう考えるとここは擬人法だけでなく隠喩も含まれていそう。国語的な技法のオンパレードである。


いつか君が眠りに就く時 僕の言葉を思い出せばいい
そして自分を責めて 途方に暮れて 切ない夢を見ればいい

続いて二番のサビ。ここは冒頭で述べた「オレを振ったことを後悔してしまえ!」という主張が強くされている。

女から別れを切り出されて、憤りを感じている場面である。

しかし「僕」には未練があるようで、続くCメロに繋がっている。

総ての想いを絶ち切ろうとする度
まとわりつくような胸の痛み

相手との思い出を忘れようにも忘れられない、忘れようとするその行いが辛い。そういった感情だと推測する。

ここで「度」という言葉に着目したい。「度」と言っているからには、「総ての想いを絶ち切ろうとしたことが複数回あって、その時は毎回」というニュアンスがあるように思える。
もっと言うと「総ての想いを絶ち切ろうと何回もしているのだけど、それがうまくいっていない」ようにも読み取れる。

「僕」の苦悩する心情を吐露しているのである。


ある日君が眠りに就く時 誰かの腕に抱かれてる時
生乾きだった胸の 瘡蓋がはがれ
桃色のケロイドに変わればいい

ラスサビのフレーズ。「誰かの腕に抱かれてる」シーンを想像しているため、「僕」は相手のことをある程度は諦めたようである。

しかし、「オレも別の相手を見つけるぞ」ではない。未だ未練があるのである。

「胸のどこかに僕の傷が残っていて、それが疼けばいい。僕の爪痕が残っていて、それが君に悪さをしてくれないかなぁ。」そんな言い草である。

ケロイドとは傷が治りかけのときの状態を指す。よく考えてみると、ここでも微妙に擬人法である。つまり、「ケロイド=僕」であり、瘡蓋に埋もれてでもいいから僕の何かが体に残っていて欲しい。そう言いたいのではないかと考える。

そしてそして、見逃せないのが「生乾き」という言葉である。そう、一番に出てきた「生温い」という言葉と雰囲気がよく似ている。

しかし意味は少し異なる。「生温い」は仲が冷えてきた様子を表していた。
一方「生乾き」ということは、乾きつつあるけれども、まだ完全に乾いていないのである。その「微妙に残った感じ」を、ケロイドという擬人法も使いながら表現したかったのではないか。



奥が深すぎて、カラオケで歌っても周りの人が理解し切れなそうなところがMr.Childrenっぽい。

ライブでこの曲が演奏されることを願っている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?