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首を寝違えた! 頭頚部の治療

家内が首を寝違えた
「横を見ることができない」し,「当然,後ろを振り返ることができない」から子どもに呼ばれてもとっさに対応できないと辛そうにしていました.
子どもに呼ばれても,頭頚部の回旋反応ではなく,体幹の屈曲によるトータルな動き(胸腰椎移行から回旋をともなう屈曲)で,いわゆるぎこちない動作.
とくに左側を振り向く時に,左側の首の付け根が痛いと...(筋膜というより筋自体の影響がでているか?)

首を触らせてもらい治療開始(仰向けの姿勢で)

普段から肩こりもあるからか,
後頚三角(鎖骨,僧帽筋前縁,胸鎖乳突筋後縁)が左側でつまっています.
その深部には,肩甲挙筋,小菱形筋といった肩甲骨上角より上内側方向に牽引する筋群の弾力も乏しい...
これらの高緊張では,頭部自体が左側に傾くのかなぁと想像しますが,
頚部は右側へ側屈しています.
しかし,頸椎レベルでみると後頭骨に近い上位レベルでは左側につまっています.
顔面も右側方向にやや向いています.
これは,左側の肩甲帯からの牽引力に拮抗し,固定力を強めているのか...

次に,肩甲骨のアライメントを確認してみると,
明らかに左側の肩甲骨は胸郭面に対して外転,挙上位にあり,可動性がやや乏しい...
このアライメントを維持するためには,
小胸筋は肩甲骨を前方に引き出すように巻き込み,小胸筋と拮抗関係にある僧帽筋下部線維に拮抗していると考えられます.

また,肩甲帯としてみると,左側で下制しています.
下制力をもつ筋群(広背筋,僧帽筋,菱形筋群など)は,僧帽筋上部線維,肩甲挙筋を介して頭部を牽引する作用があります.
頭部を牽引するということは,頸椎前弯を強め,頚部は屈曲し,頭部は伸展方向に負荷を強めるということです.
これらの合力は,子どもに呼ばれて振り返る時に見せた体幹の屈曲によりトータルな回旋を作り出すための緊張構造であることと推察されます.

ということは...
頸椎の固有背筋群,僧帽筋などとの拮抗,体幹のトータルな屈曲と右側へ側屈した頚部の状態では,左側の斜角筋,胸鎖乳突筋によって顔面が右側に向かう傾向が作られます.

今,挙げた斜角筋は,前鋸筋とともに肋骨を固定する方向に作用するため,恒常的に緊張状態は高いはずです.
上位肋骨は構造的にも胸郭そのものの可動性が低いにしても,ある程度の下制力が必要です.
そのために,小胸筋や外肋間筋の働きが想定できます.
また,前鋸筋,外肋間筋は頭部の重量を支える斜角筋の頸椎に対する圧縮力を支えます.
これらの緊張構造は,斜角筋の前後にある胸鎖乳突筋,僧帽筋上部線維で支える役割を維持するために高い緊張状態が働くことが推察されます.

次に,頚部筋群を触診すると,
項靱帯から両側ともに起立筋群の弾力は乏しく,上位頸椎から後頭隆起にかけて皮膚も張りつめています.
左側で棘突起から外側にある筋群の縁がわかりにくい...

そのため,簡易的に棘突起を繋ぐ項靱帯から外側にある起立筋群を縦方向に滑らすように回してしっかりと触診できるところまで持ち込んでみました.
項靱帯は線維性の膜構造で棘突起を繋ぎ,頸椎の固有背筋の左右を隔てる中隔を形成しています.

左側から介入しているため,頭部がぐらぐらしないように配慮が必要です.
指の腹で頚部の下から棘突起を突き上げて,下顎が上がるように頭部をやや伸展させます.
この時,頭部を支点にして,頭部の重量をフィードバックし,安定させる配慮です.
起立筋群の触診が明確となり,筋群の弾力性を感じられたら,肩甲帯の緊張状態も先ほどより緩和されていることが確認できます.

そして,仰向けの姿勢では,胸椎凸部が支持面を形成しているためそれを手がかりに,
頸椎本来のアライメント(過伸展位の構造:説明は後述します)へ頭部を調整し,頸椎の伸展構造を生かして頭部の回旋を促通していきました.

伸展構造を生かすためには,
頭部を他動的に伸展させ,支点となる後頭下に対して頭部の重心の位置を後方へ移動させます.
この後方への頭部の回転トルクを発生させる関係は,頚筋群の高緊張を緩和させます.
そして,そのまま側屈の要素をいれないように注意しながら,回旋を誘導し,少しずつ可動性が拡がっていくことを確認しながら進めました.

結果として,痛みが緩和されて,首を回すことができるようになったと実感が得られたようです.
何より,翌日の朝起床後には,頭が軽いと感じられていたようで,睡眠時の状態にも影響があったのかもしれません.

頭頚部に限局した伸展構造について

頭部の機能はそもそも,

・地面に対して,視野を水平位に保つ
・前庭頚反射や立ち直り反応による姿勢調整メカニズムが常時動的に調整され続ける

これらに機能を保つためには,頭部の垂直安定性が必要です.
頭頚部に関連するすべての筋群が協調的に拮抗関係を維持した同時収縮によって保たれます.
頭部の重心は,頭蓋骨のトルコ鞍付近にあり,頭部全体は相互支持形の“てこ”に相当しています.
⇒ 支点:後頭骨顆
  力点(頭部の重量によって頚部に力が加わるところ,いわゆる抵抗):トルコ鞍付近の重心と頭部の重量
作用点(頭頚部に力が働くところ):頚筋群(頭部が前方に倒れる重量と慣性との均衡を保つ)

解剖学的な頭部のアライメントの関係

関節の整合性は過伸展位で適合します.
機能的には頭部が屈曲位に傾いている必要があり,前下方に回転しようとする頭部の回転トルクによって,頚部に頭部をのせるという制御とともに前方に頭部をつり下げる状態を残す後方の頚筋群との関係が精密の頭頚部の制御に必要と考えます.
頸椎と頭蓋骨を繋ぐ,環椎後頭関節を支点とした完全な釣り合いではないということです.

頭頚部に限局した伸展構造について,
半棘筋,板状筋,僧帽筋などの多関節をまたぐ表在筋群よりも,
深部の後頭骨と環椎および軸椎を結ぶ小筋群にかかる伸張力を緩和させる作用があります.
この小筋群は,大・小後頭直筋,上・下頭斜筋が挙げられ,これらの小筋群にかかる伸張力に頚筋群の緊張は左右されるようです.

支点となる後頭骨顆よりもわずかに頭部の重心が前方にずれることによって,常に後方の頚筋群には,前方への回転トルクがかかっています.
したがって,椎骨単位でみた頚筋群の緊張状態はなにかにつけて亢進しやすいということです.

片麻痺者の頭頚部の緊張状態とアライメントは同様なパターンを示していることが多い印象です.
よく,「非麻痺側を向いている」,「麻痺側に首が回らない」といった場面やその声を聞きます.
特に,無視傾向の症状が強い,眼球運動障害(半盲も含む),姿勢保持が不安定な場合,頭頚部の可動性が制約されています.

これらの背景と頭頚部の機能を踏まえた治療は,姿勢制御と関連付けて考察する必要があると考えています.

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