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片麻痺者の靴下の着脱ー治療場面を検討してー

先日,臨床場面で遭遇した課題
靴下の着脱

子どもの靴下

普段,靴下はどのような環境で,どのように姿勢を変えながら,おこなうのか?

靴下の着脱は,伸縮性のある布地を足部に纏い,靴下を履いたあとでもそれが自身に不快な違和感をおこすこともなく,履き続けていられる行為です.
いわゆる,自己に取り込まれる行為.

症例さんは,右片麻痺の女性
今回遭遇した問題は,
・足先まで手が届きにくい
・靴下の間口を広げていられない
・靴下が足先に引っかかってもすぐに靴下が足から抜けてしまう
・靴下の向きがずれてしまう
だから,入浴後に靴下を看護師さんに履かせてもらったら,次の入浴日までその靴下を履きっぱなしにしていると...

衛生的にも皮膚の状態をみても乾燥がひどいし,靴下を脱ぎたい時,履きたい時があるならと,この課題をとり挙げることにしました.

入院前の靴下を着脱する環境は,数年前の脊柱の骨折を患ったころから足まで手が届かないので,布団にあおむけの姿勢をとり,脚を挙げた状態で遂行していたようでした.

片麻痺を呈することで,ベッド環境での生活を当たり前とし,端坐位や長坐位での活動として解決策を探そうとしてしまう.
それに,非麻痺側の手でおこなう片手動作主体のものと.靴下の着脱そのものを動作だけで捉えてしまうと,環境や姿勢,代償手段へと陥りやすくなってしまいます.

靴下の着脱では,知覚情報の抽出と探索活動の循環をどのように捉えるか,あらためて検討しました.

靴下を履くということ

ベッドから起きて,靴下,靴を履き,移動する(車椅子への移乗もしくは歩行)準備に入る活動して捉えます.

靴下を纏う主役は足部であり,
足部の特性として,触-運動覚(体性感覚系)により,身体の力学的情報を床反力として受け止める機能があります.
また,足部の関節や足趾には,床(支持面)と自己身体を繋ぐ機能があり,外部環境の状況を探索して適合させていく柔軟な可動性を有します.
単に,自己の重量の荷重と衝撃の吸収だけではなく,床と関係を探りながらバランスや移動においては,蹴り出しにも作用します(クッション役としての足部のアーチ形成).

靴下の着脱では,足部が主体
治療場面では,足部の大きくて柔らかい,探索器官としての機能を取り戻すことを目指します.

靴下を履くということは,
足が靴下の布地のなかに入り込む,足部の探索活動が主役となり,
靴下を扱う手の操作は,足部の反応と相互補完的に探索的な操作が求められます.

症例さんは,坐位では足先に身体が向かう柔軟性,脚を座面や反対側の脚にのせる,組むなどの可動性と麻痺側の安定性の影響もあり,無理にしようとすると動的な姿勢バランスやバランスに対する恐怖心など,良い影響を与えません.
しかし,仰向けに寝た姿勢では,片側ずつ膝を立てて保持すること,脚を組もうとすれば外側のくるぶしより少し上まで反対側の大腿部に保持することができる身体の使いかたができる状態でした.
そのため,仰向けの姿勢では四肢を前方空間に向かう特性を活かしながら,仰向けの姿勢で課題に取り組むこととしました.

背臥位で靴下の着脱

靴下を履く場合
今回の症例さんの困難性から足先まで手が届きにくいということ

足までが遠いという身体のなかで距離感を知覚していること.
これは,固定された足に対して,手を伸ばそうとしているイメージです.
手だけで足まで届かそうとすると,確かに遠く感じます.
つまり,脚は靴下に対して向かってきてくれていないということです.

なぜ,足は靴下に向かっていないのか...
足が主体的に靴下に向かっていないから,足先まで遠い距離感を知覚しているのか.
この背景には,自己身体に対する客観化を考えています.
足先は自己身体であるにもかかわらず,遠いという距離を知覚するということは,手でなんとかしようという態度です.
例えば,手が届かない背中がかゆいとすれば,背中を壁にこすりつけるなど,なんらかの対応をとります.
それが,背中に手が届かないから他者に背中をかいてもらう,どうしようもないから我慢する,かゆいところをかくということができない自己身体は動かないものと知覚してしまう.
そうなると,かゆいところをかきたい快に向かう報酬系に基づいて自己組織された身体反応は抑制されてしまいます.
それは,靴下を操作する手のスキルにも影響を与えるはずです.

靴下の間口を広げていられないということ
足先に靴下を持って手を伸ばしていく過程では,靴下の間口の張りを維持することが不十分になっています.
足先に靴下の間口をひっかけるためには,それに見合った靴下の間口を広げておくことが必要であり,逆にその間口に対して足趾から向かっていく相互のやりとりが必要です.

靴下の間口を維持する手の構えは,靴下を足先にかぶせるための布地の操作に基づきますが,知覚情報の抽出には足先で靴下の抵抗の変化を受けとめながら,手は探索的な操作が誘発されます.
しかし,間口を広げておく,足先にひっかけようと手の操作が意識の主体となってしまい,足趾,足部が靴下に纏われにいくという主体的な反応が得られにくくなっています.
それは,足先に靴下がひっかかっても,すぐに靴下が抜けてしまう,靴下の向きがずれてしまうということに繋がります.
そうなると,手で靴下を引っ張って対応することに精一杯となり,足はどんどんかたくなって,足を挙げておくこと,手がより届きにくくなってきます.
つまり,手で靴下を扱う操作で対応するがあまり,足が主役となれず,性急な動作で努力性を助長した困難性を抱える姿勢と運動のパターンが強化されてしまいます.

そのため,靴下を履くための困難性を解決に向けて
以下の治療ポイントを考慮し,靴下が足部を纏う抵抗感の変化を知覚情報の収集,抽出すべき情報として探索活動を支援しました.

・履き始めと履き終わりの明確化(足趾の探索的反応)
・足部と靴下の布地の空間を埋め込む(靴下と足部の間に空間を作らない手の探索的操作)
・靴下の布地の張りを連続させる(布地の抵抗感の均一化)

靴下を履く課題遂行によって足部・足趾の運動反応改善

一刺激一反応を確認しながらかかわり,靴下を脱ぐ際には一刺激で足部に纏われた靴下の布地を外していきます.
注意点としては,靴下は引っ張るものではないということです.
引っ張ってしまったら,足部と靴下の布地が連続的に移動する感覚的変化を途絶えてしまうことに繋がりやすいからです.
この随伴的な調節(フィードバック情報)に基づきながら足部の反応を誘発していきます.

結果的には,1回のセッションで靴下の着脱を遂行することが実現し,自己管理の課題として提示することとなりました.
また,この課題を遂行したあとには,立ち上がり,ステップへと自覚的にも足で踏み込む感触もわかりやすかったようです.

自己身体に向かう行為は,決して不快なもの,努力感によって達成しようとすると上手くいかないことがほとんどです.
行為の自己組織化は,報酬系に基づいて組織されます.
心地良い体験(探索活動)として今実行している行為が,次の行為へと日常のなかで繋がるものとして検討していくことが重要であると考えています.
また,今回症例さんからは,環境や姿勢,運動パターンに対する固定観念を取り除くこと,足部の主体的反応と靴下の着脱の繋がりを学ばせていただきました.


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