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化粧筆を洗いました。

一昨年、知り合いのヘアメイクさんに相談して、今まで全くと言って良いほど持っていなかった化粧筆を買い揃えた。

ヘアメイクさんにお薦めされた化粧筆屋さんに出向き、店員さんと相談をしながら買い揃えた筆一式。私の〝女優業”という行く末も知らぬたった1人の旅路に、頼もしい仲間が加わった気持ちだったのを覚えている。(ロールプレイングゲームで、後ろについて来てくれる人なイメージだったけど、よく考えたら武器の方かもな)

1ヶ月に一度、筆を優しく洗って干してあげてくださいね、そうしたら長く持ちますから、とその店員さんにさんに言われてから、一区切りついて筆を洗うことが密かな私の楽しみになった。筆は洗うと乾くのに丸1日〜2日かかるので、仕事のお休みもしくは一区切りがないと洗うことができないのだ。

普段メイクを毎日する習慣がないわたし。20代はほぼすっぴんで過ごしていた。しかし映像作品ではセルフメイクで本番を撮影することも増えたし、オーディションはもちろんセルフメイク。普段も、人に会う時は全くのすっぴんで行くことがはばかられるお年頃になってきた。そして、舞台では割としっかりめのメイクを毎日施す。化粧筆を買ってから初めての舞台はグローブ座『葵上』『弱法師』。30ステージ以上の長い旅路を共に乗り越えた筆を洗った時は、筆についたファンデーションやアイカラーの色と一緒に三島由紀夫氏からお借りしていた、あの看護師に宿る不思議な雰囲気や邪気までも一緒に洗い流しているような、そんな気分だった。

そして、化粧筆と一緒に旅を始めて2度目の舞台がMo'xtra produce『ビショップ・マーダー・ケース』だった。わたしが演じた100年前のニューヨークを生きるディラード家の令嬢ベル・ディラードは、周囲の人から男女問わず恋愛感情のみならず、いろんな愛情を意図せず集めてしまう女性だった。つまり、本当に語彙力が疑われると思うが、めっちゃモテモテ。しかも無自覚。容姿以外の要素が大きいとは思いつつ、今までしてこなかったメイクを取り入れてみようと、ニューアイテムをたくさんお迎えした。なので100年前の話だけどベルさんのメイクは、結構、最新アイテム投入しまくりメイク💄

眉毛は眉マスカラもつけるし(流行ってるのよね?よく知らないけれども)、アイラインもマスカラも揃えた色味で、黒ではなく茶色や赤系の色味にした(衣装のどこかに全員えんじ色が入っていたのでそれも意識して)。そしていろんなものを物色している間に一目惚れしたアイカラーは全くラメの入っていない4色入り。ヘアメイクさんも狙っていたと言うそれは、かなり発色も良く、私のつぶらな奥二重の瞼にはラメが入っているアイカラーをつかうと良さを消すと言うデメリットがあるのでとても重宝した。淡い色味なので強すぎる印象にならずにニュアンスがつけられる。

ベルメイクを考えるのに丸1日かかったが、こんな風にメイクから役のアプローチをしっかり考えるようになったのは、筆を手に入れてからだと思っている。勿論これまでも、ギャル雑誌アゲハを見てギャルメイクを研究したり、産まれてからたった1人で生きてきたために言語も操ることのできない顔中が土だらけのキャラクターをメイクで作ったりしてきたのだが。それは、クレヨンとか油性ペンで落書きするような感覚だった。化粧筆を手に入れてから、より画素数の細かい水彩画やパステル画のグラデーションを使った画が描けるようになった感じとでも言うのかな。そのための下地も整えておこうと、「顔はデコルテあたりまで」と唱えながら化粧前のマッサージを続けていたら、顔が小さくなったと何人か女優友達に言われ、継続ほど力を発揮するものはないのだなとしみじみ思った。

千秋楽は別チームの『グリーン・マーダー・ケース』を11時から観て、15時には自分達の本番というハードスケジュール。ぐったりして帰ってきて、我慢していたお酒をしこたま飲んで、翌日は放心状態。終わってしまった。みんなが恋しくて、もう会いたくなっている自分に、久しぶりに劇団時代のような青春みたいな時間を過ごせたことを改めて実感した。荷解きだけはしてしまおうと、だるい身体をひきづるようにキャリーケースに詰め込んだ諸々を淡々と片付けていく。天気も良かったし、明日も明後日も仕事は入っていないし天気も良いので、共に戦ってくれた化粧筆たちをようやく洗う時が来た。

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ここまで書いて、この記事をあげることなく1年が過ぎていた。
私は今、PARCOプロデュース「エドモン〜『シラノ・ド・ベルジュラック』を書いた男」の東京千秋楽を終えて化粧筆を洗ったところ。
正直、大阪千秋楽まで化粧筆を洗わない選択肢もあったのだが、今回は一旦洗っておきたかった。
今回の20ステージは、今までの1ステージとは重さというか濃さというか、なんだか同じ数字では図ることが出来ないのだ。
大阪のお客様のリアクションもかなり変わってくるであろうことが予測される。今回の舞台は観客の熱量と、キャストスタッフの呼吸が合わさって、アナログ精密機械の歯車をガッチャンギギギと動かしていって最後は客席も舞台上もひとつになって呼吸しだすような舞台だから、また別の生き物のような呼吸の仕方をし始めるに違いない。

だから一旦リセット。そのことを書こうとしたら、過去の記事を見つけたので、続きを書いてみました。

今回のローズメイクや、他の子のメイクについてはまた今度終わったらかけたら良いな。
口紅は劇場に入る前に自分で買いに行って選びました。とても気に入ってる。

さあ、大阪までどんなふうに過ごそうかな。
とりあえず、化粧筆たちが乾くのを待ちながら過ごそうと思います。



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