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アクティブラーニング型授業はアクティブな学生を想定して作られているという矛盾

アクティブラーニングという言葉が出てきて数年経ち、もはや教育現場に、授業設計の基本的なロジックとして浸透したと言っても過言ではないかと思います。

このアクティブラーニングというスタイルは、教える側が教わる側に知識を一方通行で伝える授業形式ではなく、教わる側が「能動的に授業に関わる」ことで学びや気づきを深めていく、という目的があります。

このような授業形式が用いられるのは、ゼミや研究などの演習と呼ばれるスタイルの授業で活用されています。それは何かしらの問いを立て、それを深めていき自分たちならではの答えを出すような目的の授業にもっとも適しているからです。

他にもこのアクティブラーニングという形式は工夫次第で様々な授業に応用できます。現場では先生たちが試行錯誤し、例えばある知識を伝達するような知識伝達型の授業でも使われています。それは、ただ知識を伝達するだけよりも、試行錯誤した過程を経ることこそ理解度が高まる要因があるからです。

その中で、ちょっと最近思うことがあります。

このアクティブラーニングを用いた授業、特にキャリア系の授業で、「コミュニケーション能力」を高めるためという目的のもと、このスタイルの授業が行われることが多々あるということです。

もちろん、それ自体に何か問題があるわけではありません。演習を通して、いわゆる「コミュニケーション能力」を身に着けることは効果的だし有用だと思います。このような「能力」と呼ばれるものは、知識を得ただけではな身につくものではありませんし、実際に行動を通して身につけていくことが必要だと思います。

授業の中では、例えば「グループで◯◯について調べて発表」とか、「隣同士ペアで◯◯について話し合う」とかと言ったお題が出されます。

これなんかおかしくない?

コミュニケーション能力を高めるが目的なのに、ある程度のコミュニケーション能力がある前提で作られてる気がするのです。しかも、他者とダイアローグするとか、ディスカッションしてコンセンサスとっていく、挙句大勢の前でプレゼンするとかって、かなり高度なコミュニケーション能力だし。大人だって満足にできる人そんなにいない気が。

この全てを1つの授業で追うことはかなりキツイ。まず授業を作る側は授業設計する際にもっと細部を見て、「コミュニケーション能力」の”どの”能力を高めることを目的とするのかを決めないといけません。その上で、いきなるハードなお題を出すのではなく、段階を経て、その能力を高めていき、その成長に気づけるような仕組みを作ることが必須だと考えます。

また、何よりも大事なのは、受講生側のスタンスです。その人自身の「能力」を伸ばすことが目的なので、本人がその授業にやる気を持っていることが大前提です。正直、これは教える側がカバーできるのにも限界があります。やる気0で、グループのメンバーとも一言も喋らない、最初から壁を作っている状態ではツライ。1対1の個別対応ならまだしも数十人も受講生がいる中ではその子に合わせることはほぼ不可能です。
だけど10のうち1でも前向きなモチベーションで受けてくれるなら、伸ばしていくことは可能です。ほんのわずかでも良いので授業には前向きな気持ちで参加してくれると嬉しいです。

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しかし、これは経験則も交えながら、最近さらに思うことがあります。

学生の中には、何かしらの理由(障がいやトラウマなど)でコミュニケーションを取ることそのものが苦手な子もいます。そう言った子たちに無理やり、世に言われる、一般的な「コミュニケーション能力」を身につけさせることだけが目的になるのもいかがなものなのでしょうか。健常な子たちと同じ土俵に載せて、同じ物差しで見なくてもいいのではないかと思ったりするわけです。

例えば、他者とリアルに対面すると言葉が出なくなってしまうような子も、バーチャルであれば意見を出せたり、対話できたりする子もいるわけです。むしろ、そのようなタイプの子がグループにいる中で、他の子たちはどうしたら円滑にコミュニケーションできるかを考え、実践することにこそ意義があるはずです。

このご時世、バーチャル上でコミュニケーションを取るようなツールは無数にあります。それらを介してのコミュニケーションも、1つの表現方法なのではないでしょうか。実際我々はメールとかSNSとかのようにあらゆる場面でバーチャルなコミュニケーションをしていますよね。

もちろんバーチャル上で全てが完結して良いとは思いません。時間はかかりますが、そのバーチャル上でのコミュニケーションをきっかけに、お互いがどんなタイプなのかを知り合った上で、リアルなコミュニケーションが育めるように促していけたらと思います。

そのような観点から僕の授業では、テストケースとしてアイディア出しなどの議論を可視化するためのICTツールを使ってグループワークを行なっています。それが功を奏したのか、ただ多くの時間をグループメンバーと過ごしたからなのかは定かではありませんが、当初グループ決めの際に一言も発せなかった子がグループ内のリアルな議論に参加できるようになってきました。でもおそらくこれはグループメンバーのその子への理解があった実現したことだとも思います。とても嬉しい。

このように、お互いの「違い」という名の「特性」にブリッジをかけることができるのもアクティブラーニングの為せる技なのではないでしょうか。

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