【着物コラム】アジアの服飾と「文化の盗用」について
こんにちは、着物コーディネーターさとです。
長い梅雨が明けたと思ったらとても暑いですね。
暦の上では「立秋」が過ぎたので秋という事になります。
秋と言う季節の響きと気温の不一致って、
「旧暦を新暦に無理やり置き換えたせいだ!」と思う方も多いそうですが、
(私もそうでした、笑)
夏至や冬至、春分などを「二十四節気」と呼び、これは黄道上の太陽の位置を24等分したものです。
だからこの場合は、旧暦は関係ないんですよね。
こういった一見無駄な知識が増えたのも、ほぼ中国のSNS「微博」がきっかけです。
(中国は節句などは旧暦で、二十四節気は日本とほぼ同じです。)
文化や風習について、考える機会がとても多くなりました。
さて、先日、ネットのニュースでこんな記事を見かけました。
正直に言うと大変下らない記事なのですが、
良い例だと思って今回のコラムを書く例に使わせていただきました。
要約すると、韓国のアイドルが身に付けていた「改良型の韓服」が、
韓国の伝統的な衣装とはちょっと違う感じで批判されていて、
さらに「着物のパクリ」だと揶揄されている、という内容です。
2:20くらいから登場する衣装が該当の衣装の事だと思うのですが、
私は着物に似ているとは思いません。
伝統的なモチーフを取り入れて、衣装として見栄え良くデザインしたらこうなったんだろうな、という感じに見受けられました。
チャイナドレスや着物も、それっぽい感じのステージ衣装はよくあるので、
個人的にはヘソ出し韓服も「別にいいじゃない」と思いますが、
伝統的な衣服って、やっぱり「取締対象」になりやすいんですね。これはどこの国でも一緒なのかもしれません。
ちょっと着物警察を思い出しました。笑
さて、私はこの記事を読んで、「文化の盗用」も思い出しました。
この「着物のパクリ」のような批判のやり方は、「文化の盗用」の影響を受けていると思うのですが、
何が悪いのかイマイチ理解しづらいですよね。
この「文化の盗用」、私はずっとピンと来なかったのですが、
最近になってようやく概要が分かって来ました。
1番最初に「文化の盗用」について考えたのはこのニュースでした。
2015年のニュースなので、ご存知ない方もいるかもしれませんが、
モネの「ラ・ジャポネーズ」の前で着物を着て記念撮影ができるイベントが、批判を受けて中止されたニュースです。
当時、私は「え、なんで?ただの記念撮影じゃん」という感想しか持てなかったのですが、この記事の後半を読んで納得しました。
"イベント自体は攻撃的でなくても、損害を与え、精神的に傷つけるものだという。「オリエンタリズムの影響で南アジア、東アジア、そして中東の伝統的なさまざまなカルチャーがエキゾティックになる。そしてその結果、現在まで攻撃的な姿勢がオリエンタリズムの人々に向かい続ける」"
この記述も大変難解なのですが、
過去に植民地支配を受けていた国々の文化をオモチャにすんなよ、と捉えるとスッと理解できると思います。
「ラ・ジャポネーズ」などに見られる、
アジア圏の服飾をエキゾチックでステキ!と自国の服飾や芸術に取り入れる風潮は、
旧帝国主義国 対 旧植民地 という歴史的背景を前提とすると、
確かに搾取だと言えますよね。
上記のニュースは当の日本人がおいてけぼりな感じで大変印象に残っていたのですが、
それも上記の構図に当てはめると分かり易いかな?と思います。
正確に言えば、支配の形も植民地化だけではないので、もっと他に良い言葉があるかもしれませんが…
例えばアール・デコ。南国の果物や植物などを取り入れており、文化的な搾取に該当すると思いますし、
ジャポニズムに関しては、中国風(=シノワズリ)と混同されている部分もかなりあると思います。
ジャポニズムは20世紀初頭にはブームが過ぎ去ったのですが、その頃には日本は近代化しています。
うがった見方かもしれませんが、要するに「オモチャとしてつまらなくなった」のだと推測できます。
アール・デコも、ジャポニズムやシノワズリも、素晴らしいデザインが多いです。
西洋の流行を受けて日本でも流行した、アール・デコ風の図案のアンティーク着物もすっごく可愛いです。
日本ではジャポニズムが概ね好意的に捉えられていて、搾取だと感じている人は少なめですよね。
でも、デザインとしてどんなに優れていても搾取は搾取なんだと思います。
楽しむなとは言いません。私もあの時代の雰囲気は大好きです。
しかし、歴史的な背景は忘れてはいけないな、と思います。
また、欧米圏で「文化の盗用」が現代でも声高に叫ばれているという事は、
裏を返せばそのくらい当たり前に行われていると捉える事もできますよね。
さて、冒頭のニュースの話に戻りますが、
アジア諸国同士の場合は「文化の盗用」は成り立つのでしょうか?
実は最近まで世界史の概要を勉強し直してたのですが、
その理由の一つは、こういった服飾と社会情勢の関係性を理解したかったからです。
日本の着物も、原型は唐の宮廷服だとされていますが、
古来より、アジア圏は中国の「皇帝」を中心とした秩序で成り立っていたという歴史的背景があります。
皇帝に周辺国の君主が貢物を捧げて、皇帝は君主である事を認め、
恩賜を与えるという外交は、日清戦争で清が敗退するまで続いていました。
朝鮮も中国の朝貢国でしたから、当然中国の影響を受けているわけです。
なので、アジア圏の服飾品に共通点が多いのは自然な事ですよね。
このように、「文化の盗用」の原因が発生するよりも大分前から、
アジア諸国では国交を通しながら、お互いに影響しあって、それぞれの文化を形成をしていたと言っても良いと思います。
これはあくまで私の見解ですが、
文化の形成と国交がセットになっていたアジア諸国同士では、
「文化の盗用」の概念を持ち出したら「全員泥棒」になってしまうと思うんですよね…
これは「文化の盗用」に限った話ではないのですが、
国籍や文化圏、属するコミュニティによって価値観も判断基準も違うのは当たり前の事で、
欧米感覚の「文化の盗用」は日本人には理解し難いです。
でも、これらは欧米の感覚で論じられていることなので、当たり前の事だとも思います。
また、記事の冒頭で紹介した韓国アイドルの衣装のニュースなどは明らかに「嫌韓」の記事で、
アジア諸国には馴染みのない欧米の感覚でも、さして理解もせず、批判のために使ってしまうという点が大変思慮に欠けると感じました。
前々から感じていた事ですが、伝統衣装は取締対象になりやすい上に、
こういった文化的な分断を煽るメディアにも利用されやすいです。
もちろん、個人の感情や政治への意見は誰にでも論じる権利があります。
しかし、上記のような歴史的背景を一切踏まえずに、利用するだけ利用するメディアにはウンザリです。
日本を含め、アジア諸国同士は色々な問題があり、完璧な友好関係を築くのはとても難しい事です。
だからこそ、何が何でも足を引っ張り、対立を煽り、
それで得をしようとするメディアや人間は、きちんと見極めなければならないと痛感しました。
少なくとも、私はそのようなメディアや扇動家に着物を利用されたくありません。
今後もきっと同じような事があると思いますが、その都度考え、行動していきたいと思います。